武闘大会 初戦③
なんだとこの野郎!
キッと睨みながら立ち上がる。
余裕こきやがって…!絶対倒してやる!
「誰が!これからだ!!」
かなり吹っ飛ばされたおかげで間合いは充分だ。
Mr.ダンディに向かって走りつつ、俺は腰から鞭の柄を抜き取りボタンを押す。一瞬で鞭の形になったそれを、最大の長さで振り抜いた。
予想外の間合いからの攻撃に、Mr.ダンディはガードなしで正面から鞭の洗礼を受ける。
「ぐっ…!」
さすがにダメージがあったらしい。Mr.ダンディは苦しげな呻き声をあげた。
間合いを確保するため立て続けに鞭を振るうが、当たったのは僅か2~3発。すぐに鞭の軌道を見切ったらしいMr.ダンディは、なんと鞭の間を縫って一瞬で俺の間合いに入ってきた。
振り下ろされた剣を左手に持っていた布でなんとか受け止める。間近で見たMr.ダンディの目は爛々と輝いていた。
「今のは意表を突かれた…いい攻撃だ。鞭も使えるのか!」
「武器は色々だって言っただろ」
俺が言い返すと、Mr.ダンディはニヤリと笑った。
「…随分余裕がないようだ。敬語もなくなってきたね」
お前は教官か!とか、言いたい事は色々あるが、実際肌で実力差を感じている。話しながらもギリギリと圧してくる剣圧は、一瞬でも気を抜けば体まで両断されそうだ。Mr.ダンディがフッ…と笑った瞬間、急に圧がなくなる。
体勢をくずした処に容赦のない剣の雨が降り注いだ。防ぐ俺との間に硬質な金属音が絶え間無く響く。丁々発止のつばぜり合いだ。
ただし、対する俺は不恰好なブーメランみたいになった元・布を両手で振り回しながら、何とかMr.ダンディの猛攻をしのいでいるという、かなりヤバい状態。
ガードのために布の中央を無造作に掴んで、振り上げた状態でオリハルコンの硬度を転写したせいでこの有様になってる訳だが、あまりにも高速で降ってくる斬撃にもはや布に戻す暇も無い。
ここまでの接近戦じゃ鞭も使い物にならないし…!
ヤバい。かなりヤバい!!
打ち合う毎にどんどんと押され、闘技場の端まで追い詰められたところで、Mr.ダンディが繰り出した一際重い剣を全身で受け止める。俺とMr.ダンディの間で、金属が擦れる耳障りな音が鈍く響く。さらに体重をかけて押してくるMr.ダンディ。
剣を間に睨み合う。
Mr.ダンディは初めて声を荒げ、恫喝した。
「あきらめて降参したまえ!」
「絶っっっっ対に!嫌だ!!」
その時。
Mr.ダンディの大剣が
突然…へにゃりと曲がった。
「………へ?」
「あ」
ヤバ。間違った。
自分のを布に戻すつもりだったのに、手元が逸れてMr.ダンディの大剣を布の硬度に変えてしまった。
人様の大事な武器を使い物にならなくするつもりはなかったんだが…!
Mr.ダンディはへにゃりと垂れた自分の大剣をしばらく唖然と見て…左右に軽く振り始めた。
当然ヒラヒラと揺れる大剣。
それを無言で見つめていたMr.ダンディは、何を思ったか突然弾けるように笑い始めた。
大丈夫か?
あまりのショックでおかしくなったとかないよな?
いたたまれなくなって、必死で弁解する。
「あ…あの、申し訳ない!間違った!自分のをやるつもりだったんだ!!」
Mr.ダンディは笑い過ぎたのか、涙を拭きながら顔をあげる。その顔はなぜかとても晴れやかだった。
「これはさすがに私の負けだねえ。いくらなんでも武器がこれでは闘えない」
「待ってくれ!事故なんだ!修復…出来るだけするから!」
幸い変えたのは硬度だけだ。硬度だけなら同じ素材があれば元に戻せるだろう。…今がフニャフニャだから、形が崩れるかも知れないが。
「えーと…素材はなんだ?ミスリルか?プラチナか?」
英雄だったんなら、いいモン持ってたのかも…急に不安になって恐る恐る聞いた俺に返ってきた答えは、予想を軽く超えていた。
「…いや、無理だろう。伝説の武器だからね」
伝説の武器…。
って、あの伝説の武器か!?
う、嘘だろう!?
頼むから、冗談だったと言ってくれ…!
「伝説の武器が…」
大剣をヒラヒラさせてはまた笑い出すMr.ダンディ。
「も……申し訳ありませんでしたぁ!!!」
気がつけば土下座していた。
伝説の武器なんか出自も素材も永遠の謎じゃねぇか!確実に修復不可能だ。俺に出来るのは誠心誠意謝る事だけだろう。
いきなり土下座し始めた俺を見て、Mr.ダンディはぶり返したようにまた笑い始める。余りの出来事に言葉を失ってポカンとしていた観客席からは、本日一番の野次がとんだ。
轟々たる非難の声も当たり前だ。甘んじて受けよう。
土下座のまま深く反省していたら、肩を軽くポンポンと叩かれた。
「ゴメンゴメン、冗談だ。私がそんな武器使ったら死人が出るよ。大丈夫、普通のプラチナの剣だ。…そんなに青ざめないでくれ」
青ざめるだろう、普通!!!!
俺の土下座を返せ!




