武闘大会 初戦②
「これ含め色々です」
としか言えない。本当に色々だしな。
Mr.ダンディはフッと笑って剣を握り直し、切っ先を俺に向けて構えた。
「なるほど…面白い闘いができそうだ。………行くぞ!!」
あまりない間合いから、見えない程のスピードで剣が振り下ろされる。咄嗟に布を体の前に大きく広げ、オリハルコンの硬さで剣を受け取めた。
ガギィィィィィィン……
硬質な音が響くと共に、俺はバク転しながら距離をとる。一瞬で布の硬さに戻したから、俺が動く度に布が舞いヒラヒラと泳いだ。
しかし…何て重い剣だ!
今でも受けた腕がビリビリしてやがる。
「ほう…その布も見た目通りではないんだね」
Mr.ダンディはとても楽しそうだ。
ちくしょう…なんだこの余裕!
ダンジョンと違って相手のレベルが分からないだけに、Mr.ダンディの余裕が余計に癪に障る。Mr.ダンディは気に留めた様子もないが、周りの観客は「なんだ今の!」「あり得ねぇ音したぞ?」とかなりザワつきだした。
布アピールを強めるため、布の端をつまんでフワリと広げながらその場でターンする。鮮やかな布がヒラヒラと動く様は、周囲のおっさんさえどよめかせた。
Mr.ダンディに向き合い、両腕をいっぱいに広げて体の後ろで布を構える。
「なかなか優雅な闘い方だね」
言いながらMr.ダンディは一瞬で間を詰める。小細工無しの剣技だけなのに、あまりの速さに技を使われてる気分だ。
「無骨で悪いが」
横から猛スピードで薙いでくる剣を、ギリギリ布で受け止める。
危ねぇ…!
速すぎて反応するのがやっとだ!
「くっ…!」
「ほう、これも受けるか」
くそっ!余裕こいてんじゃねぇぞ!
俺は布で剣を絡め取り、思いっきり引っ張った。
「おっと…!」
僅かにバランスを崩したMr.ダンディの腹に、思いっきり蹴りを入れる。さすがによろめいた所に渾身の回し蹴りを放った。後頭部にクリティカルヒットした手応えと同時に、Mr.ダンディがガクリと膝をつく。畳み掛けようと近づいた瞬間、体中を襲う寒気に思わず大きく飛びのいてしまった。
なんだ、今の悪寒は…!
顔を上げたMr.ダンディは、それはそれは楽しそうに笑った。
「いい勘してるね。カウンターで仕留めてやろうと思ったが…久しぶりで殺気が漏れたかな?」
こ…怖っ…!
「蹴りもなかなか重い、いい蹴りだ。長引くと厄介だから…決着をつけさせて貰おうか」
口調は相変わらず丁寧だが、Mr.ダンディが放つ気配はそれまでの物から一変した。
これまでが穏やかで揺らがない山のような気配だとしたら、今はまるで溶岩流を噴出する活火山のようだ。みるみる内に高まっていくMr.ダンディの闘気を前に必死で回避方法を考える。
まだ大技の一つも出されてないのに、負ける訳にもいかないし、さっきの戦士爺さんと闘ってたどっかのギルドのエースみたいに潔く降参したくもない。
闘気が高まるにつれMr.ダンディの体が発光し輝きを放ち始めた。体の周囲に収まりきれなかった光が火花のようにバチバチと音を立てて小さな爆発を繰り返している。指を弾くようなわずかなアクションで、Mr.ダンディから目が眩むような閃光が放たれた。
閃光は激しくうねり暴れて、龍の形を成していく。光の龍は咆哮を上げながら一直線に俺に向かって襲いかかってきた。矢継ぎ早に龍を打ち出して来るのが遠目に見えて、布を全身を覆う盾にしてガードする。
龍の一撃一撃が、あり得ない程重い。
たまらず横に飛んでみるものの、龍は軌道を変えて追いかけてくる。本気で走って逃げたが、なんと龍の方がスピードがわずかに早かった。
ついに追いついた光の龍の攻撃が、息つく暇もなく打ち込まれる。オリハルコンの硬度で受けているとは言え凄い衝撃だ。弾き飛ばされないよう、踏ん張ってなんとか受け止めた。
その時。
またも全身を鳥肌が包んだ。
反射的に飛び上がって空に逃げる。
ほぼ同時に俺の胴があった場所を、鋭利な切っ先が薙いでいった。
「よく避けた!」
褒めたっぽいが着地の瞬間には重い斬撃を立て続けに入れてくる…!Mr.ダンディは早くも本気で決着をつけるつもりらしい。
打ち合った刃を渾身の力で跳ね返し、反動を使ってバク転を繰り返しながら距離をとる。飛ぶ毎に体スレスレを剣圧が過ぎるのを感じる。布一枚の距離で何とか躱している状態か!
「スピードも及第点だ。粘るじゃないか!!」
鈍い音が響いた。
そう思った瞬間には吹っ飛ばされていた。脇腹が猛烈に痛い。どうやらついに攻撃をくらってしまったらしい。服を強化していなかったら死んでたぞ…!
「ああ…本当にいい防具だったんだね。つい本気になってしまったから、少し心配したよ」
Mr.ダンディは安心したようにホッと息をついている。しかもゴホゴホ咳き込む俺を見てこう言いやがった。
「そろそろ降参するかい?」




