武闘大会 初戦①
ついで、会場内にキーツのアナウンスが響く。
「第一闘技場のグレス・カリフさん、魔法の使用による失格です!」
やっぱり!
今なんか詠唱したと思った!
周囲からは魔法を使った男に、轟々と非難の声があがっている。特に一階は観客も血気盛んなおっさん達が多かったから、上から見てても野次が酷い。
「魔法を使うと今みたいに自動検知されてブザーなっちゃいますからね~、魔法戦士の方はウッカリ使わないように気をつけて下さいね!」
そういう仕掛けになってるのか。回復も勿論ダメだしな。使い馴れた魔法は無意識に唱えてしまう事もある。俺もうっかり使わないように気をつけよう…。
「なるほどね、詠唱なしで魔法使われるとバレないんじゃないかと思ってたけど、なんか感知するモンがあるんだな」
「ここのダンジョンはそういうとこハイテクなんだよ」
チャラたれ目にバトルマスターがダンジョン側視点でいちいち答えるのが面白い。そう思った時、インカムからゼロの声が聞こえてきた。
「ハク、時間だよ!控え室にそろそろ移動して。…頑張ってね!!」
…いよいよか!
残る2人に声をかけ、控え室に戻る。装備を一通り再確認し、軽くウォーミングアップしていたら、50代くらいのダンディなおっさんが入って来た。腰にはデカい大剣を差しているから、戦士なんだろう。
「君が相手か」
「…多分」
「正々堂々闘おう」
特に威圧的な態度をとられてる訳でもないが、気配で強さが充分に伝わってくる。気を引きしめてかからないと、1回戦敗退とかいう残念な事になりかねない。
「…時に君は、その格好で戦うのかね」
Mr.ダンディは困った顔で聞いてくる。俺が頷くと、さらに眉を下げた。
「そうか、君は格闘系か?なんだか鎧もつけてない相手に剣を打ち込むのは気が引けるね」
ああ、そういう事か。随分紳士的な奴に当たったもんだ。
「気にしなくて大丈夫です。こう見えて普通の鎧よりよっぽど強度があるんで、お互い後悔しないよう、全力で行きましょう」
俺の答えに、Mr.ダンディは安心したように破顔した。
「そうか、なら良かった。じゃあ手加減無しで行くから、君もそのつもりで」
互いに握手を交わした時、またアナウンスが入った。
俺達は頷きあって、闘技場につながる別々の魔法陣に向かって歩みを進める。魔法陣に足をかけた瞬間、周囲の景色が一変し、つんざくような音に包まれた。
静かだった控え室から一変して、周りから押し寄せるような熱狂的な歓声に包まれて、一瞬かなり驚いてしまった。
もちろん魔法陣の先は闘技場。
闘技場の向かい側にMr.ダンディ、そしてその後ろには熱狂する観客達と、興味津々の顔で身を乗り出して闘技場を見ているアライン王子達ロイヤルファミリーの姿が見えた。
これは…恥ずかしい闘いは出来ない。
俺は一つ深く息を吐いて、呼吸を整える。
「それでは第四闘技場、三組めは…既に冒険者は引退したものの、数々の武勇伝を残した英雄、アラレア・ディジーさん!彼の活躍に憧れた冒険者も多いのでは!?」
……初っ端から、まさか大物ですか…。
「しかもアラレアさん、なんとあのレジェンドの一人、オーグさんの一番弟子だそうです!」
ウオオォォォォォォ!!!
レジェンドの名前が出た事で、観客からは地鳴りのような歓声が巻き起こっている。Mr.ダンディにかなり近いポジションで、檄を飛ばしている爺さんがいるが…あれがオーグとかいうレジェンドなんだろうか。
Mr.ダンディが苦笑しながら相手をしてるとこ見るとそうなんだろうなぁ。自分では出れずに、弟子に託したとかそんなところかも知れないが…。
レジェンド…血の気が多い奴が多かったんだな。
「対するは…クロさん!ギルドも出身も全て空欄ですが…一体どんな戦いを見せてくれるのでしょうか!」
キーツも困ったのか微妙な紹介になっていた。Mr.ダンディの対戦者が箔も何もない奴だったもんだから、今は一斉に聞いた事もねぇぞ的ヤジが飛んでいる。
アウェー感がハンパない。
さっさと戦闘開始して欲しい。
その思いを込めて闘技場中央に歩み出る。それに呼応してMr.ダンディも中央に進み出てくれた。
審判が俺達に交互に目をやり一つ頷くと、高らかに開始の合図をおくる。
「始め!!」
お互いに睨みあい、相手の隙を探る。
もちろんこれだけの手練れ、そう隙がある訳もないが。
Mr.ダンディが目線は俺と合わせたまま、ゆっくりと剣を抜く。
「あんな紹介をされると負ける訳にはいかなくなるね。お師さんに殺されてしまう」
にっこりと笑っているが、どんどんと気迫が漲っていくのを肌でビリビリと感じる。
…これは…格闘だけでは勝てない。
中盤で出そうと思っていたが…俺は首からかけていた布をフワリと広げる。
Mr.ダンディの眉がピクリと動いた。
「まさかその美しい布が、君の武器かい?」




