試作品登場!①
そして翌々日の夕食後、満を持して俺達は集まった。
「どうだ爺さん、なんか収穫はあったのか?」
「おお、あれからゼロ坊にも色々素材を召喚して貰ってのぅ、こんなにワクワクしたのは久しぶりじゃ」
ドワーフ爺さん、めっちゃいい顔してるなぁ。
「ただ武闘大会まではあと1週間を切っとるでのぅ、とりあえずすぐに使えるように今の武器の改良版を先に作ってみたんじゃ」
「え!?もう試作があるのか!?」
興奮のあまり思わず身を乗り出してしまった。
「まぁ幾つか作ってみたんじゃが、日も限られるで…これに皆の話を聞いて改良するのが手っ取り早いかと思ってのぅ。ぶっ飛んだ武器はその後ゆっくり作ってもいいじゃろ」
確かにそうだ。武闘大会は5日後だし、練習時間も限られる。使いこなせない程多彩な機能を盛り込まれても、無用の長物なのかも知れない。
「さすが爺さん、亀の甲より年の功だな」
言ってるカエンも地味に言い回しに年季が入ってるけどな。もちろんドワーフ爺さんはドヤ顔で胸を張り、なぜかグレイがそれを恨めしそうに見ている。
「でも酷い話ですよ。私の鞭が試作のためにとりあげられましたからなぁ」
「だからまた後でちゃんと作ってやると言っとるじゃろうが」
こんな拗ねたようなグレイは初めて見る。ちょっと面白い。ドワーフ爺さんはため息をつきつつ、懐から長さ20cm程の細長い包みを取り出した。
出て来たのは…鞭の柄の部分?
ちょっと反っているのはなんでなんだ?
「これが意外と多機能でのぅ。まずはこのボタンじゃが」
爺さんが押し込み式のボタンを押すと、一瞬で鞭になった。
またボタンを押すと、鞭は柄の部分にシュルシュルっと収納されていく。
「うわぁ…掃除機のコードみたい」
ゼロが目を丸くして呟いた。
…ていうか、何故に収納式?
ドワーフ爺さんはゼロが感動しているのが嬉しいのか、何度も鞭部分を出したり引っ込めたりした後、おもむろに鞭の先と柄の部分を差し示す。
「さらにこれを連結させると…」
おおっ!!
鞭が丸い輪っかになった!!
「あー、だから柄の部分が反ってたのか!」
なるほど!
正円をつくるには重要だもんな!
幾つか武器作ったって言ってたけど、1個めでこれか…ドワーフ爺さん頑張ってくれたんだなぁ。
「でのぅ、この輪っか形態にはちと問題があるで、お前さんの指定転写のスキルで何とかならんかと思っての」
「元々が鞭じゃからのぅ。見た目は輪っかになっても機能が追いつかん」
ドワーフ爺さんはそう言って、新作武器をゼロに向かって投げてよこした。
ワンバウンドした武器は…ほぼ跳ねる事なくコロコロと転がっていく。
「本当だ。全然跳ねない…。あっ!!重っ!!」
輪っかになった鞭を持ち上げたゼロは、驚愕の声をあげた。まぁ確かにゼロが持ってきたフープに比べればかなり重いからな…回すのは骨が折れそうだ。
「そうじゃ。素材自体が違う上、空洞もないで重いわ跳ねんわ…どうするかと思ってのぅ」
そう言いつつもドワーフ爺さんはポケットをゴソゴソとまさぐっている。
「そこでこれじゃ」
「あっ…スーパーボール!」
ドワーフ爺さんの手の中には、小さな丸いボールが握られていた。ゼロは心当たりがあるみたいだが、このボールがなんだってんだ。
「これね、ゴムボールなんだけどとんでもなく跳ねるんだよ!」
そう言ったゼロは、そのスーパーボールとやらを床に叩きつける。
「うおっ!?」
「どこまで跳んだ!?」
練兵場の高い天井に向かって勢いよく跳ねていったボールは、見失ってしまうくらい高い場所まで到達したようだ。
「あの弾力を指定転写できんか?」
なるほど!!
「出来る!」
歯切れのいい俺の答えに、ドワーフ爺さんは満足げにニヤリと笑った。
「やっぱりのぅ。便利なスキルじゃの、貴重な素材も欠片でもありゃ使いたい放題じゃ」
うわぁ、メッチャニヤニヤしてる。
「加工が難しい素材は、粘土で成型してから素材転写すりゃいいんじゃろ?いいのぅ~、こりゃ武器の礼はたっぷりして貰わにゃならんのぅ」
どんだけ夢が広がってるんだ…。さすがにカエンやグレイも苦笑いしている。
「そうと分かりゃあ話は早い。ほらさっさと転写せんか」
言われるがまま鞭にスーパーボールの弾力を転写すると、驚くほど跳ねるようになった。…つーか跳ね過ぎてフープ系の時は良くても、鞭の形状の時は跳ね返る軌道に癖が出てきた。
「あとは…フープの軽さを転写すればいいのか」
よし、軽くなった!完璧!
そう思った途端、カエンがう~ん…とうなり始めた。
「確かに軽い方が扱い易いが、敵にぶつけると考えると、それなりに重さがないとダメージが少ないんじゃないか?」
「まぁ鞭ならスピードでカバーできる分もありますがね」
確かに…考えれば鉛と軽石、ぶつかって痛いのは鉛だよな。重い方がダメージが大きそうではある。




