新武器開発会議③
ゼロによると棒を使って輪っかを操る人もいたそうで、本当に色々な使い方ができるらしい。
「本当はね、思い出してたらトリッキーな動きするの本当に色々あったんだけど…僕がうっすらでも教えたり、説明できそうなのがリボンと輪っか位しかなかった…」
ゼロは無念そうにため息をついているが、結構参考になったけどな。
「この輪っかもね、大きさもだけど、形状とか材質も色々あって…それこそ円形の刀みたいに平らなのとか、普段はビヨンビヨンしなる棒で両端を丸く繋げると輪っかになるってタイプもあったよ。」
へぇ…扱いは癖がありそうだが、それなら色んな戦い方が出来るかも知れない。グレイも同意見なのか、目を細めて頷いている。
「いや、充分ですよ。そういえばさっきの南方の舞踏民族ですが、面白い衣装を身に纏っていたのを思い出しました」
グレイはそう言いながら、さっきゼロが振り回していた割り箸からリボンを外し、首からかけた。
「普段はこう…首に長い布をかけているだけなんですが、戦闘ではそれを武器にしていましたよ。」
「ただの布か…?」
「ジャラジャラ飾りはついてましたが、丈夫なただの布です」
そう言ってから、グレイは目を閉じて記憶を辿るように話し始めた。
「戦闘になるとそれを目くらましに使ったり、ロープのように使ったりするんです。飾りが重りになるのか、打撃と言うか…足払いとかにも意外と使えてましたね」
「あー、俺様も見た!俺様が見た奴は布の先に拳大の石詰めて、明らかに打撃用にして使ってたなぁ」
……カエンが見た奴はかなり武闘派の凶暴な奴なんじゃないだろうか。グレイが言うような舞踏をベースにした華やかさとか美しさとか、そういうイメージ全然湧かないんだが…。
ただ、俺にはそっちの方が向きそうだ。
元々格闘スキルもあるわけだし、新しい武器をうまく戦いに組み込むイメージが何となくだが浮かんでくる。
「ふむ。インスピレーションが沸くのぅ。ゼロ坊、その輪っかを1日貸してくれんか」
「ふはっ!爺さんインスピレーションとか、粋な事言うじゃねぇか!」
ドワーフ爺さんの言葉に、カエンは爆笑している。爺さんはすました顔でドンと胸を叩いた。
「お前さんよりは数倍若いでの。ゼロ坊、できればそのしなる棒も欲しいんじゃがのぅ。…それからカエン、お前さんは転移でちょっくら南方に行って、その武器やらを手に入れて来てくれんかの?」
ドワーフ爺さんからテキパキ出される指示に各自頷きつつ、お互い明日やるべき事を確認する。
なにせスキルがスキルだから、今すぐパッと素晴らしい案が固まる…という訳にもいかない。一旦話に出て来たものを見たり、構造を検証したりしながら2日後にまた集まって話し合う事になった。
そうと決まれば後はお決まりのただの宴会だ。たまにしかない無礼講の宴会に、おっさん達は浴びるように呑んでいた。
俺はもう気が気じゃない。
おいおいドワーフ爺さん、そんなに呑んで大丈夫かよ…明日ちゃんと輪っかとかの構造検証出来る程度に控えてくれよ…?
俺の心配をよそに、ゼロは楽しくてしょうがない様子だ。酒も呑んでない癖に、なんでそんなにテンション高いんだ、お前は…。
「あははっ!皆楽しそうだね~僕、おつまみ追加頼んでくる!」
「おうゼロ!ついでにエルフ達やシルキー達も連れて来い!もう真面目な話は終わったからなぁ、後はもう宴会でいーだろ!」
「リョーカイ!折角だからもう、皆連れてきちゃうね!」
え!?なんでそうなる!?
ゼロがダッシュで出て行ったと思ったら、あれよあれよと言う間に、あっちからこっちからモンスターも人間も入り乱れて、会場である練兵場に入ってくる。
すげぇ…なんだこのカオス。
こっちではスライム達がうっすらピンクに色付いてぴょんぴょんクルクル回り始め、あっちではドワーフのおっさん軍団が肩を組んでダミ声で歌い始め…。そうこうしている間にイナバが楽しそうに景気のいい曲をピアノで奏で始めた。
調理場からはシルキーちゃん達が盛り沢山のパーティー料理を運んできて、ビールや酒もドンドン開けられていく。
完全に大宴会だ。
子供達までパジャマでオヤツを頬張っている。明日も普通にダンジョン開催するのに、なんでこんな事になっちまったんだ!?
「なによぉハクぅ、難しい顔しちゃってぇ呑みが足りてないんじゃない?さぁ呑め呑め~!!」
ルリ…完全に出来上がってんじゃねぇか!
俺は酒には呑まれねぇからな!
皆と違って俺は明日も命がけのバトルがあるんだよ。そんな何もかも忘れては呑めないんだ。たとえスラっちが楽しげに呑んではミラクルジャンプをかましていたとしても!
つーかスラっち…明日のバトル大丈夫か…。
今ひとつ場に乗り切れないまま、その夜はダンジョン総出の大騒ぎで、賑やかに更けて行った。




