他ギルドの挑戦者達㉓
「そういうのは他所でやって頂戴」
おおっ、ハッキリ言った!
怖いもの知らずの救世主を振り返って見てみれば…。
「あっ、癒しの美女!」
しっぽがあったら千切れんばかりに振ったであろう男戦士の視線の先には、腕組みでうんざりした様子のルリがいる。そして、その後ろには苦い顔のカエン。
「お前達、ナルサンのギルドの奴らだろう。今日のダンジョン挑戦は別として、勝手に別のギルドに出入りしてたら、ヤツにネチネチいびられるんじゃねぇかぁ?」
カエンの言葉に男戦士と女アーチャーは青ざめた。良く分からないが、他のギルドにはあまり出入りしないルールでもあるんだろうか。さらに畳み掛けるようにルリが俺を指差しながら言葉を足す。
「それに言っとくけど、この人まだ人間に転写できる状態じゃないのよ。今性別をどうにか出来るわけじゃないわ」
「えっ!?」
ルリの言葉に驚きの声をあげるオネェ呪符使い。そうなんだよ、俺はまだ生き物に指定転写出来る程スキルを使いこなせてないんだよ。
「だから、今日のところは帰ってお互いゆっくり話し合ったら?それでもどうしても…って事なら…」
そこまで言って、ルリは俺に視線を投げた。そこで俺に振るのはズルくないか?
「…ま…まぁ、スキルが成長した暁には…相談にのってやってもいいが…。」
としか言えねぇだろ!
カエン、頼むから吹き出してねぇで助けてくれ!
俺の願いが通じたのか、カエンが笑いながらもしっかりとオネェ呪符使いにクギを刺してくれた。
「ジュリアって言ったか…お前、もしもの時は後腐れが無いようにしろよ?仲間もギルドもちゃーんと納得させてからだ。ナルサンはヘソを曲げると後が面倒くせぇからなぁ」
「そうよね…」
オネェ呪符使いはすっかり意気消沈してしまっている。
「なんだか一人で突っ走り過ぎて、皆にも迷惑かけちゃったし…しっかり話し合って、考え直してみるわ。…なんだか色々…反省したわ。…勝手な事してごめんなさい」
その場にいる全員を一人一人見つめて、オネェ呪符使いは本当に申し訳なさそうに謝罪した。毒舌格闘家はフン、と鼻を鳴らしてその謝罪を受けた後、俺達をチラリと見てこう言った。
「 …あんた達も、騒がせて悪かったな」
どうしたんだ毒舌格闘家!そんな常識的な事を言うなんて!
「このバカはこっちでしっかりシメとくから、勘弁してやってくれ」
超レアな笑顔で言われたのが逆に怖い…。
男戦士に「大丈夫、骨は拾うっす!」とガッツポーズで言われ、オネェ呪符使いはちょっと顔を顰めているが、とりあえずこの場は収まりそうだ。
なんとかオネェ呪符使い達を追い出した頃には、夜の鐘が鳴っていた。子供ならもう寝る時間だ。遅い夕食をとりながら、思わず愚痴がこぼれた。
「酷い目にあった…」
「サッサと無理だって言わないからよ」
ぐったりしている俺に、ルリは一切容赦がない。まぁ、今回に関しては確かにその通りだけど…。
「しっかしやっぱ人間はとんでもない事考えるよなぁ。女になりたい!とかもそうだが、それをスキルで何とかしようってのはちょっと独特だよなぁ」
カエンは完全に面白がっている。
「ジュリアさんまた来るかな」
ゼロがポツリと言った言葉に、カエンが「賭けるか?」と返したもんだから、その場は軽く騒然となった。
「私、来る方!」
「では私は来ない方で。格闘家の反対が厳しいですからなぁ」
「来ると思いますぅ」
「じゃあ僕は来ない方に賭けようかな」
「ぼく、また来て欲しいー!」
…ユキは賭けの意味分かってないな、多分。
「カエンは?」
「来るだろうなぁ。あのジュリアって奴はそう簡単に諦めるタマじゃねぇだろ。まぁそうなるとナルサンが面倒だがなぁ」
ナルサンってさっきからちょいちょい名前が出るけど、多分他のギルドのマスターなんだよな…?
「そういや他のギルドには、あんまり出入りしないもんなのか?」
「いや?そこのギルドマスターの性格によるなぁ。あんまりカチッとした取り決めとかはねぇんだが…」
気になってた事を聞いてみると、なんとも微妙な答えが返ってきた。しかもそう言いつつも、カエンの眉根はかなりギュッと寄っている。
「ただなぁ…ナルサンは面倒見はかなりいいんだが、その分なんでも仕切りたがるんだよ」
ああ…ウザい仕切り屋タイプなワケか。
「え?でもナルサンって…あのイケメンって噂の人でしょう?」
「まぁイケメンだが」
さすがルリ…イケメン情報なら覚えが違うんだな。
「兎に角あいつが臍曲げると、他のギルドマスター巻き込んで色々ねじ込んでくるから面倒なんだよ」
そうか…過去に何があったのかは知らないが、相当面倒なヤツなんだろうな。ゼロも少し困った顔をしている。
「そっかぁ…武闘大会も迫ってるし、今は揉め事は勘弁して欲しいよね」
確かに。今はヤバい。




