他ギルドの挑戦者達⑳
ミイラみたいに全身グルグル巻きにされたばかりか、さらに締め付けてくる呪符。
どうなってるんだ、これは…ヤバい…!
外の状況も見えないし、この状態で串刺しにでもされた日には防ぎようがない。一箇所に転がってたらいい的になってしまう。外の状況は一切見えないが、俺はとりあえず不規則に跳ね周りながら策を探す。
小さな虫に変化したら…?
いや、この呪符は締め付けてくるタイプだ。下手したら力に負けて締め潰されるかも知れない。
……あ、なんだ。締めつけてこれないようにすればいいのか。
そうと分かれば話は早い。
締め付けてくる呪符を金属に変える。締め付けた状態で金属になったせいか苦しいのは変わらないが、それ以上締め付けてくる様子はない。
…これならいけるか。
俺は小さな小さな虫に変化した。予想通り既に金属に変わっている呪符は人型のまま形を保っている。
小さな虫に変化してみると、幾つかの僅かな隙間から光が入ってきているのも見えた。なんとかその隙間から外に出た途端、その金属の人型が凄い勢いで吹っ飛んで行く。
あっ…危なっ…!
天使をかたどった金属は、床に落ちるとガランガラン…と、軽い音をたてて転がった。
「くそっ!手応えがねぇ!」
毒舌格闘家が悔しげに呻く。
「えっ…どういう事?」
驚く男戦士に、悔しげな表情のまま毒舌格闘家が説明する。油断なく周囲を警戒しているのはさすがだが…。
「人間蹴った重さじゃなかった!あれの中は多分、もう伽藍堂だ。」
やっぱり蹴ったのはお前か!危ないだろうが!危機一髪だったぞ!?
毒舌格闘家にはイラっときたが、それ以上にオネェ呪符使いが次にとった行動にギョッとする。
オネェ呪符使いは寂しげに転がっている天使をかたどった金属にゆっくりと歩み寄り、じっくりと検分し始めた。
「やっぱり完全に金属になってる。少なくとも素材転写…いえ、まさか指定転写…?」
マジで!?分かるのか…!?
これってそんなに有名なスキルなのか?
確実に核心に近づいてくるオネェ呪符使いに戦慄を覚える。
ただ一つ言えるのは、この戦いを長引かせるのは得策じゃないって事だけだ。長引く程俺の能力を暴かれる可能性が高くなる。変幻自在が売りのジョーカーズ・ダンジョンのボスの能力が丸裸にされる事だけは、何としても避けなければならない。
…こうなったら…!
一旦天井付近まで飛び、俺は本来のチビ龍の姿に戻った。
「上だ!!」
精一杯声を張り上げて、注目を集める。全員の顔が上を向いた瞬間、俺は閃光のブレスを力一杯吐いた。
「うっ…!」
「眩し…!!」
呻きながらも胸元から手探りで呪符を取り出そうとするオネェ呪符使い。ここで回復されたら元も子もない。
俺は慌てて急降下して、女豹の獣人に変化した。着地と同時に首筋に手刀を落とす。オネェ呪符使いは声もなく崩れ落ちた。
「テメェ…!!」
まだよく見えない目をしかめながら、毒舌格闘家が鬼の形相で向かってくる。まだ俺の姿も朧気なんだろう、拳の軌道にキレがない。
拳を軽くいなし、みぞおちに重い一発を放つ。前方に崩れかける毒舌格闘家の後頭部に、容赦無く回し蹴りを決めて沈めてやった。
「なんと呪符使いジュリアさんに続き、格闘家シャウさんも気絶によるリタイアです!!ジョーカーズ・ダンジョンのボス戦、力量差を見せ付けています!!」
キーツのアナウンスがインカムから流れてくる。これで残るは男戦士のみだ。
「チクショウ…姐さん、兄さん…!」
目をこすりながら、悔しげに呟く男戦士。下手にスキルを発動される前に倒してしまいたいが…鎧が邪魔だな。
少しだけ迷った後、俺は巨人に姿を変えた。
「え…ええ!?」
真っ青な顔で見上げる男戦士を無表情に見下ろす。悪いな、ここまでだ。
相手が気持ちを立て直す暇を与えないよう、一瞬で勝負をつける!
俺はデカい拳を振り抜き、男戦士を盛大に殴りつけた。
「ぐは……っ」
壁と拳の間で、完全に男戦士はノビてしまっている。
「続いて戦士フレッドさんも気絶です!最後はあっという間の幕引きでした!健闘した挑戦者の皆さんに、盛大な拍手を!!」
キーツのアナウンスに、ホッと息をつく。折角手に入れたスキルなのに、初めてのボス戦で丸裸にされちゃかなわない。
とりあえず、なんとかなっただろうか…。
マスタールームに戻ると、皆が口々に褒めてくれた。
「指定転写、なかなか使えそうじゃない」
「素材の属性を変えるだけでも、かなり戦闘の幅が広がるもんですな」
ルリもグレイも満足そうだ。
「ハク、かっこ良かった!!」
うんうん、ユキはいつも素直で可愛いなぁ。マジで癒される。
「変化との組み合わせで、いよいよトリッキーな感じになってきたね!あの呪符使いの人にはバレそうだったけど」
ゼロは満面の笑みで褒めてから、ちょっとだけ困った顔をした。




