他ギルドの挑戦者達⑱
嘆いたところで最早遅い。
鎧の中で転がり続け、盛大に揺さぶられ続けてヨレヨレの俺には、この地獄から抜け出す術すらない。
いっそ早く竜巻に巻き込まれてくれ…!
真剣にそう願うハメになった。
「エアリルちゃん、頼むから竜巻消してぇ~~!!」
しぶとく走りながら絶叫する男戦士。
「ごめんなさい!一旦出すと消せないの!」
申し訳なさそうに叫ぶエロかわ精霊ちゃん。
マジで?さ、最悪だ…!
「なんで竜巻がフレッドを狙うんだ。バカ精霊、お前まさか…」
「ち、違うわよっ!もう状態異常は解けてるもん!!」
毒舌格闘家の疑うような声に、慌てふためいた様子のエロかわ精霊ちゃん。
「もう!しょうがないなぁ。んーーー…とぉ…あ、相殺なら出来るかも!」
しばらくの間の後、爆発音のようなものがしたかと思うと、一瞬宙に浮く感覚が訪れる。次いでゴロゴロゴロゴロっと、激しく転げ回る男戦士。
エロかわ精霊ちゃんが竜巻を相殺した衝撃のあおりなんだろうか、男戦士の懐にいる俺も勿論激しく転げ回るハメになった。……酔う。
やっと回転が止み、フラフラヨロヨロしながらも、小さな虫に変化して鎧の中から脱出し何とか壁際にたどり着いた。
…
散々だ。酷い目にあった。
ダメージがデカすぎて、取りあえず回復を唱えながらひと休み。ぶっちゃけ俺は、ちょっと休まないと動けないくらい消耗していた。
「それにしてもボスはどこに隠れやがったんだ」
不機嫌そうな毒舌格闘家の声が響く。
まだ目が回ってクラクラするから、もうちょっとだけ待って欲しい。
「…バカ精霊の竜巻はフレッドを狙ってたな」
毒舌格闘家は疲労困憊でぐったり横たわっている男戦士の体を、容赦なくゴロッと転がしては無遠慮な視線を投げる。
「…特におかしな点もないな」
一通り検分して気がすんだのか、腕組みでフンと鼻を鳴らした毒舌格闘家は、しばらく考え込んだ後ゆっくりとオネェ呪符使いを見た。
「…ジュリアン」
「ジュリアって呼んで」
ジト目の後の完全シカトで、毒舌格闘家は嫌な推論を展開して来た。
「さっきお前、ボスのスキル…転写とか言ってたか?」
「ええ、スキルや姿形をコピーしたり…って、まさかシャウ…フレッドを疑ってるの…?」
二人は顔を見合わせた後、まだぐったりしている男戦士を凝視している。
おお!まさか俺の姿が見えない事でこんな面白い誤解が生まれるとは!
「自動追尾の竜巻が完全にフレッドを狙ってたんだ。バカ精霊が正常ならフレッドが怪しいのは必然だろう。疑いたくもなる」
冷たい目で男戦士を見下ろす毒舌格闘家。
「え、ちょ、待って!オレ本物だし!」
さぁっと青ざめ物凄い勢いで後ずさる男戦士。その動きを見てオネェ呪符使いは軽く吹き出した。
「この怯えようはまさしくフレッドじゃない?このダンジョンのボスがシャウ相手にここまで怯えるとは考えにくいもの。」
なるほど。
言い得て妙だな。毒舌格闘家は不満そうな顔をしたものの、自分でもそう思うのか開きかけた唇を不機嫌に引き結んだ。
「じゃああの女はどこに隠れたってんだ」
「さぁ…鏡の反射が酷いから、それを利用して見えないようになってたりするのかしらねぇ…」
ガクブルしている男戦士はもはや眼中にない様子で、オネェ呪符使いと毒舌格闘家は周囲に注意を向け始めた。
もうちょっとすり替わり疑惑で楽しませてくれるかと思ったが仕方ない。少しは休めて気力も回復してきたし、正々堂々戦うか。
俺は有翼の戦士に姿を変え、天井近くでホバリングする。挑戦者達はまだキョロキョロと周りを見回して、天井付近の俺には気がつかないようだ。
う~ん…不意打ちには絶好のチャンスだが、今回は不意打ち無しで戦いたいんだが。
あまりにも気付いてくれないもんだから、一生懸命辺りを見回す挑戦者達に、ついにこっちから声をかけるハメになってしまった。
「あー…こっち…上だ。上を見ろ」
ハッとしたように上を見上げる4人。
「よう。早く気付いてくれよ。隙だらけだぞ」
挑戦者達はあっけに取られた顔で見上げている。
「…あんた誰?」
……ん?
間抜け面で俺を見上げ、眉根を寄せて呟く男戦士。
…あっ、そうか。こいつらは俺が変化しながら戦う事を知らないのか。
転写のスキルだと思ってたら、脈絡なく姿が変わるとなれば、むしろ混乱するかも知れない。ちょっと面白くなってきた。
よし!
今日は変化増量で戦うか!
唇の端でニヤリと笑い、勢いをつけて急降下、ヌンチャク状にした武器で勢い良く男戦士をぶっ叩く。その反動を活かして宙返りしながら毒舌格闘家の後頭部に膝蹴りをキメる。
翼があると空中も足場出来るから、やっぱり途端に戦闘が楽になるな。
男二人が転倒した隙に、瞬時に女性陣(?)の元まで移動する。回復が使えるオネェ呪符使いを早めに倒しておきたいからな。




