他ギルドの挑戦者達⑰
今は普通の布に戻っているスカーフを、いくらガン見しても分からないだろう。残念だったな毒舌格闘家。
考えても無駄だと悟ったのか、頭を2~3回振ってすぐに攻撃を再開する毒舌格闘家。ひらりひらりとチャイナドレスの裾を翻しながら避けていたら、目の端に男戦士の大剣が閃いた。
咄嗟に左腕で体を庇う。スカーフがまるで盾のように広がり、そのまま固まった。
ガキィィィィン!
硬質な音が響き、スカーフが男戦士の大剣を弾き返す。
目を丸くする男戦士に口の端で笑いながら、そのまま鮮やかな回し蹴りを決めてやった。
飛び降りるついでに、回転をかけながら毒舌格闘家にも回し蹴りをお見舞いすることも忘れない。
二人は倒れこみながら、血飛沫もあげている。
まぁ、ただの回し蹴りじゃないからな。
高速回転によって翻ったチャイナ服の裾とスカーフの先端は、鉄の硬度を与えた事で、思いの他切れ味を増して彼らにダメージを与えたらしい。
「くっ…!どうなってる…!!」
悔しげに呻く毒舌格闘家は、鎧がない分体のあちこちから流血している。
「まさか…まさか、転写系のスキルなの…!?」
驚愕に目を見開くオネェ呪符使い。あまりの驚きに、回復すら忘れているようだ。
「分析は後だ!とりあえず回復してくれ!」
毒舌格闘家の声にハッとした様子で、オネェ呪符使いは呪符を取り出し、フッと息を吹きかけた。呪符から白い光が溢れだし、傷ついた体を癒やしていく。
…しかしまさか、こんなに早くスキルを見破られるとは…予想外だ。
思わず苦い顔をしてしまう。無意識に取り出した鞭で、俺は回復したばかりの男戦士を打ちのめし、電流を流した。
「くは…っ!」
苦しげな顔をしながらも、男戦士は電流に耐えている。心なしか全身が青い光に包まれて…これは、属性防御魔法…?
いつの間に…!?
そういや最初男戦士達が向かって来た時、後ろでオネェ呪符使いが何やら呪符使ってたが…あの時か!
「ちっ…!」
電流の威力がガタ落ちだ。悔しいが手数でいくしかない。幸い相手は戦士と格闘家、俺の方が武器的にリーチが長い。
素早く距離を取り、鞭を振り上げた。
突然。
俺の背中に裂かれるような痛みが走る。
くそっ!真っ赤なチャイナドレスがズタズタだ…!背後から無数の風の刃が俺を襲ったらしい。
血塗れで振り返る。
…エロかわ精霊ちゃん!?
ていうか、何そのデカい竜巻!!
「あんたがこのダンジョンのボスなのね!?あんな酷い状態異常…あんた性格最悪!許さないんだから!」
いや、俺じゃねぇ!
「違…!」
「問答無用!!」
巨大な竜巻を投げつけて来た!
エロかわ精霊ちゃん、一旦呪符に戻った事で状態異常は解けたんだな。竜巻のデカさにエロかわ精霊ちゃんの怒りの深さが現れている。
…なんて悠長に考えてる場合じゃない!どうするんだ、この巨大竜巻!
前に炎の竜巻を巨人になって受け止めたが…あれは痛かった!!
今度は逃げる!
心を決めて横に走ると、竜巻は微妙に軌道を変えて追ってきた。
「無駄よ!自動追尾であんたに当たるまで追いかけるわ!!」
酷いよエロかわ精霊ちゃん…!
仕方なく、俺は瞬時に姿を変える。小さな小さなネズミに変化すると手近にいた戦士によじ登り、鎧の中に忍び込んだ。
ホントはエロかわ精霊ちゃんに匿って欲しいが、距離的に無理だから仕方ない。
自分で走り回って逃げるのも疲れるし、鎧の中ならダメージも少ないだろう。頼むぞ男戦士!
「あれ!?キレイなおネーサンが消えた!」
男戦士の慌てた声が聞こえてくる。
つーか鎧の中、地味に汗臭い!!
しかも暑い!蒸れる!汗でベタベタする!もう一回言うが臭い!
新鮮な空気を求めて戦士の体をよじ登り、鎧の首元から顔を出した。くすぐったかったのか、男戦士が身を捩って笑っているがそこは勘弁してもらおう。
すーーーー……
はーーーー……
ああ、生き返る…。新鮮な空気最高!
「バカ、何笑ってやがる!前を見ろ!つーか逃げろ!!」
毒舌格闘家の声にハッとして前を見ると、竜巻が目前に迫っていた。
これはヤバい。
男戦士を見上げると、真っ青な顔が見えた。
「なんで~~~~!?」
叫びながら、猛然と走り出す男戦士。申し訳ない、確実に俺のせいだ。俺が懐にいる限り、竜巻の標的からは逃れられないもんな。
頑張れ、男戦士!!
他人事みたいに言った事を、3秒後には後悔するハメになった。
なぜかって…男戦士のなりふり構わぬ猛ダッシュで再び鎧の内部に転がり落ちた俺は、ただ今この世の地獄を体感中だからだ。
懐の中は暑いわ蒸れるわ、汗でベタベタするわ…の基礎ダメージに加え揺れるわ擦れるわ臭いわ…まさに最悪の事態だ。
こんな事になるなら、素直に竜巻のダメージをくらった方が遥かにマシだった…。なんで戦士に匿って貰おうとか思ってしまったんだ!
俺のバカ!




