他ギルドの挑戦者達⑯
ムサイカツい戦士達とひょろ長魔術師、3人頭を寄せあってコソコソと相談する様を、暇そうにポヨ~ン、ポヨ~ン、と飛び跳ねながら見守るスラっち。
「ちくしょう、余裕こきやがって!」
「ギッタンギッタンにのしてやるからな、コラぁ!」
言いざま、バトルマスターと魔法戦士が走り出す。ぶっちゃけひょろ長魔術師はもはやMP残量も少ないだろうし、戦士達が何とかするしかないだろうが…。
申し訳ないが、ギッタンギッタンにのしてやるどころか、スラっちにギッタンギッタンにのされてる姿しか思い浮かばない。
スラっちはぐんぐん近づいてくる2人を見ると、一際高く飛び上がり楽しそうにクルっと回転した。
これは…魔法か!
思った瞬間、猛ダッシュしていた戦士達が大きく後ろに跳ね飛ばされた。
スラっちから放たれた無数の弾丸のようなものが、まるで散弾銃のように凄まじい勢いで彼らを襲ったようだ。
まさかこれって、石つぶてなのか?
さすがスラっち。
たかが石つぶてでも威力が違う。
「ハク、もうすぐ出番よ。ジョーカーズ・ダンジョンの挑戦者達がボス部屋に近づいてるわ」
ルリからお呼びがかかる。
ああ、このところいっつもこうだ!
スラっちの戦闘が面白くなってきたところで席を外すハメになる…。かなり無念だ。
しかも俺、途中からスラっちのボス戦見はまっちゃって、スキルの訓練も中途半端だし…。仕方ない。ぶっつけ本番で出来るだけの事をやるしかない。
覚悟を決めつつボス部屋に向かう。そう言えば今日はどんな姿で戦闘をスタートするか…まだ考えてなかったな。
さて…どんな姿でお相手しようか。
選択肢が多いのも考えものだ、普通だったらこんな事考える必要すらないのに。
本日の挑戦者、オネェ呪符使い達を思い浮かべ軽く悩む。
他ギルドのメンバーなワケだからこれまでの俺の戦い方はさほど知らないだろう。一方で、それを知っているカフェの観客も出来るだけ楽しめる戦闘にしたいとも思う。
悩んだ末、一つの姿に変化した俺はボス部屋に足を踏み入れる。
…そういやエロかわ精霊ちゃんはもう呪符に戻っちゃったんだったな。出来れば戦ってみたかった。
「ジョーカーズ・ダンジョン、いよいよボス戦です!変幻自在な戦いが人気のこのボス戦、今回は一体どんな戦いを見せてくれるのでしょうか!」
キーツのアナウンスがインカムから流れてくる。
…いよいよか。
ついに、扉が開かれた。
「うっわ、これ何!?目が痛てぇ!」
男戦士が入ってくるなり大袈裟に驚くと、オネェ呪符使いも周囲を呆れたように見回しながらボス部屋に入ってきた。
「鏡張り…?何面鏡なのかしら…酷い映り込み」
しかめっ面で不安そうに呟いている。
「戦い辛いな」
毒舌格闘家も渋い顔だ。3人ともキョロキョロと部屋中を見回し…やっと俺に目を止めた。
「お前がボスか」
毒舌格闘家の問いに、僅かに微笑して肯定の意を伝える。
「うおーっ!美人のおネーサン!倒すの勿体ねぇな!」
明らかにテンションが上がった男戦士は速攻で毒舌格闘家から頭をはたかれた。
今日はチャイナ服の九尾美女でスタートだ。地上戦ではなかなか使い勝手がいいからな。
今日の挑戦者は格闘家と戦士、呪符使いと言うメンツなだけに、空に逃げると実は一気に戦闘は楽になる。だが、今日の俺には是非とも試したいものがある。そのための、敢えての地上戦と言うわけだ。
「行くぞ!」
毒舌格闘家の短い叫びと共に、男戦士も同時に走り出す。二人がぐんぐん近づいてくるその後ろで、オネェ呪符使いが呪符を掲げて呪文を唱えているのが見えた。
阿吽の呼吸というヤツだな。特に作戦などなくても、お互いが何をすべきか分かっている動きだ。
ワクワクする気持ちを抑えながら、俺は左手の中指に、大判のスカーフをくくりつけた指輪を装備した。
これが今日是非とも試したいものなんだが…さて、俺の思惑通りにいくだろうか。
右手にはムチがあるが、敢えて2人が襲いかかってくるのを待つ。
さぁ来い!!
素早さで勝る毒舌格闘家が、上体へ鋭い突きを繰り出してきた。体を躱した瞬間、足首を狙って放たれた蹴りを軽く飛んで避ける。
浮いた体に容赦なく無数の拳が浴びせられた。腹を庇うように、左腕で防御の型をとる。
「ぐぅ… っ!?」
痛みに呻くような声をあげたのは、毒舌格闘家の方だった。
「なんだ…?何をした?」
怪訝な顔をされたが、大した事はしていない。左腕にまとわりついたスカーフが、毒舌格闘家の拳を止めてくれただけだ。
拳があたる直前に「指定転写」でスカーフをオリハルコンの強度にしたから、そりゃかなり痛かっただろうが。
しかし思ったよりも上手くいったぞ!!
これは使えるかも知れない!
実は右手のグローブに、オリハルコン他幾つかの素材を仕込んである。必要に応じてこの素材の特性を「指定転写」で活かすつもりだ。




