他ギルドの挑戦者達⑫
「あたしもあやかりたいですぅ!ちょっと触ってみてもいいですかぁ~?」
なんだこの女アーチャー…。冗談めかして言ってはいるが、さっきからなんか酷いし怖いな。始終ニコニコ可愛いが、俺は女魔術師の方がタイプだ。
この女アーチャーはなんか怖い。
「じょ…冗談じゃないわよ…!」
さすがのリリスも青ざめている。いつも余裕たっぷりでナメた顔してるのに…う~ん、珍しいモン見れたな。
ジリジリと近づいてくる女アーチャーに恐怖を感じたのか、リリスは激しくもがき始めた。女格闘家も離してやるべきか迷う表情をしている。
「あ~ん、スラちゃん達ぃ!お願い、助けてぇ~~~!!」
リリスが絶叫した瞬間、どこからともなく大量のスライムが湧き出てきた。
「きゃっ!?」
「痛っ!?熱っ!!」
「やめ、止めてぇ~!!」
出てきた途端に一斉に攻撃し始めるスライム達。息つく暇もない猛攻撃だ。
うちの子達、こんなに戦闘的だったか?しかもなんか全体的にちょっとスライム達が赤っぽいんだが。
これは…前に見た事がある。やっぱこの赤い感じ、怒ってるんじゃねぇのか!?
特にリリスを羽交い締めしていた女格闘家と、不穏な空気を醸し出していた女アーチャーは手酷い攻撃を受けている。あまりの攻撃に、思わず腕が緩んだんだろう。
なんとか女格闘家の腕から抜け出したリリスは、ハァハァと荒い息をついた。リリスが開放された事で、漸くスライム達の猛攻撃も一旦は収まったようだ。
はは、気持ちは分かるがリリス不機嫌感丸出しだな。俯いてはいるが、拳をギュッと握り肩をふるふると震わせている。
バッと顔をあげたかと思うと、猛然と…なぜか女戦士に抗議した。
「なんなのその女!ちゃんと他人にセクハラしないように躾なさいよっ!!」
「いや、まぁ面目ない…」
リリスの涙目の抗議に、女戦士が神妙な顔で頭を下げた。しかし女アーチャーはそれすらどこ吹く風だ。
「いいじゃないですかぁ、減るもんじゃなし。形や大きさを記憶して、自分の胸に成長暗示をかけるんですよぉ。有効利用だと思いません?」
悪びれもせずそう言うと、ついでとばかりに「あ、カミアさんも触らせてもらった方がいいですって!」とか言っている。
「もうお前は黙ってろ…」
ぐったりした様子の女戦士。…日頃の苦労が偲ばれる。
「しかもなぁに?女だけのパーティー?いやぁね、つまんないわぁ」
リリスさん、ご立腹。
「今日はもう帰る~。スラちゃん達、後お願いね。あたしに酷い事した子達だから、ギッタギタにのしちゃってね♪」
なんて自由な!
リリスはスライム達に投げキッスすると、ふわりと空中に逃がれた。大量のスライム達は「任せとけ!」とでも言うように、一斉にぴょんぴょん跳ねている。
リリス、恐ろしいヤツ…。
すっかりスライム達を手懐けてやがる。
瞬間、バシュッ、バシュッと音がして、リリスは大きく体勢を崩し地に落ちた。
「嫌だぁ、逃がしませんよ?」
女アーチャーがリリスを見下ろし、ニッコリと微笑む。彼女が放った矢は、的確にリリスのコウモリ羽の骨を射抜いていた。
怖っ!やっぱこいつ怖い!!
「痛っ!いたたっ!」
もちろんスライム達も黙っていない。姫を守るナイトよろしく、スライム達が一斉に動き始めた。
リリスを守るスライム、回復をかけるスライム、女子会パーティーに総攻撃をかけるスライム…。びっくりするくらい役割分担も完璧だ。
リリスの「酷いわ…」と言う嘘泣きで、スライム達の士気は最高潮に達している。
戦闘が得意なスライム達は、挑戦者達と切った張ったの戦いを続けているが、女性陣もなかなかのもので、特にあの男らしい女戦士は一騎当千の戦いぶりだ。個性豊かなうちのスライム達を、バッタバッタと斬り伏せていく。
このダンジョンには今、全体回復できるスライムを配置していなかったから、回復が追いつかなくて、倒されてしまうスライム続出だ。ついに、防御力も高いメタルアシッドスライムが、女戦士の相手をかって出た。
一方リリス周りはなんとも和やかな雰囲気だ。嘘泣きリリスを慰めようと膝の上でポヨポヨ跳ねてみたり、心配そうにスリスリしたりしている。
スライム達、言っとくけどそいつ嘘泣きだから…。
全く、純真なスライム達を惑わすのは止めて欲しいもんだ。
「ハク、こっちも面白い事になってるわよ。見てみない?」
ルリの声に立ち上がる。まぁ俺の対戦相手はジョーカーズ・ダンジョンのオネェ呪符使い達だしな。そっちを見るのが得策ではある。
モニター移動の最中に、「まさか、まさかコボルトまで倒してしまわれるとは!感動!感動ですぅフェルマリアーノ様ぁ!」という叫び声が聞こえてきた。
あの漫才主従コンビは中間ゲートも突破してまだ頑張っているらしい。…意外だ…。
軽く驚きつつもジョーカーズ・ダンジョンのモニターを見てみると…。




