他ギルドの挑戦者達⑨
ジョーカーズダンジョンのモニターに戻ろうと振り返ると、ルリが代わりに見ていてくれた。
「悪ぃな、ルリ」
「別にいいわよ、ここが一番イケメン率高いもの」
……ありがたさも半減だよ。
ルリの行動基準はいつも揺るぎないな。
仕方なくスライム・ロードを見てみると、ムサイカツい男達がスラレンジャーが待つ樹のうろに、今まさに入っていくところだった。
…確かにこっちのメンツはルリのお眼鏡にはかないそうもないな。おっと、つい失礼な事を考えてしまった。反省して真面目にモニターを見つめる。
「ボス部屋っぽいなぁ、おい!」
「タリぃ。どうせ所詮スライムだろ?」
…その所詮スライムに、さっきは相当手こずってたけどな。
「さっさと出てこんかぁ、コラ!!」
バトルマスターが周囲を見回しながら叫ぶ。するとそれに応えるように、どこからともなく5色のスライムが現れる。
挑戦者達の前に5体が並び、中央のレッドから順に、プルプルっと揺れ始めた。
うん、安定の可愛らしさだ。
毎回必ずこうだから、やっぱり名乗りをあげてるんだろうなぁとは思うものの、結局何を言いたいのかはさっぱりだ。
ひと通りプルプルしたら、最後に5色一斉にプルプルプルっと盛大に揺れる。
…多分、キメポーズだな。
「なんだなんだコラァ!!かかって来いとでも言うつもりかぁ!」
「マジタリぃ。超生意気なんですけど」
バトルマスターと魔法戦士は早くもキレ気味だが、ハゲでヒゲのムキムキ格闘家は何故か嬉しそうに手をワキワキと動かしている。
「うはっ!こりゃまた可愛いのが出てきたなぁ!超倒してぇ!!」
「…怖い。なんかキモい」
珍しく魔術師が喋ったと思ったら、俺の気持ちを代弁してくれたらしい。
「行くぞぉ!野郎ども!!」
バトルマスターのむさ苦しい雄叫びと共に、戦いの幕が開く。3人の戦士達が一斉にスラレンジャーに襲いかかった。
おもむろにメモを閉じ魔術師が呪文を唱えると、3人の戦士達に赤みがかった光が降り注ぐ。このタイミングでかけるなら、戦闘力を底上げする補助魔法なんだろう。
ここまで極力魔法を使わずにきた癖に、驚く程戦いの序盤から魔法を繰り出して来たな。この魔術師は、スラレンジャーの強さを正しく理解しているのかも知れない。
魔法を受け勢いを増した3戦士達は力任せに斬り込んで行くが、スラレンジャーはビリヤードの玉が弾けるように、散り散りに飛び跳ねた。
飛び退きざま、黄色いライジンガードスライムが稲光の槍を一斉に打ち出した。
バリバリバリッと盛大に音をたて、稲光がムサイカツい挑戦者達を襲う。
「くらうかぁ!」
おお!?
驚いた事に挑戦者達は稲光をすんでのところで躱した。さっきの魔法はスピードアップ系だったんだろうか。反射速度がハンパない。
しかし避けた先にもスライム達が待ち構えている。バトルマスターの前には、真っ赤なレンジスライムが立ちはだかっていた。
「おっ!テメェがリーダーだな!俺様の相手に相応し…うあちぃっ!!?」
バトルマスターが言い終わるより早く、レンジスライムから 激しい蒸気が噴射された。蒸気噴射好きだよな…。
「熱っ!熱っ!っっテメェ、卑怯だろうがコラぁ!!」
叫ぶバトルマスターに、矢継ぎ早にレーザーが放たれる。
「くっ!そう全部くらってたまるか、今度はこっちから行くぞコラぁ!」
右に左に大きくステップを踏みながら素早くレーザーを避け、走り寄りながら左肩から大鉈を抜いて凄い勢いでぶん投げた。大鉈を追うように、立派な大剣を振りかざして走りこんで行く姿は、さすがにバトルマスターといったところだ。
しかしレンジスライムは何故か微動だにしない。プルっともしないで、迫りくる大鉈とバトルマスターを迎え討とうとしているようだ。
「生意気じゃねぇかコラぁ!!」
バトルマスターが大剣を振りかぶり、大鉈が一足早くレンジスライムを両断しようとした瞬間。
突然。
大鉈がかき消えた。
これは…スキル:分解だろうか。初めて見たかもしれない。地味に凄いスキルだな。
「!!!??」
驚愕の表情を浮かべ、一瞬動きが鈍ったバトルマスターに、今度こそレーザーが炸裂した。
「ぐあぁぁあぁぁぁあ!!」
至近距離でレーザーを受けたバトルマスターは、かなりの深手を負っている。
回復役の魔術師に目をやると、今まさにブラック…不思議スライムに体当たりをかまされているところだった。
ポヨン、と擬音がつきそうなくらいソフトタッチな体当たりだが、こいつの場合は何が起こるか分からないからな…。
魔術師からちょっぴり離れた位置で、ポヨ~ン、ポヨ~ンと軽く飛び跳ねている不思議スライム。まるで魔術師を見守っているかのようだ。
一方魔術師は、黙って俯いている。
……ん?
微妙に肩が揺れ始めた…?
「フ…フフフ……」
……なんだか怪しげな声が魔術師から漏れてるんだが。




