新スキル、お披露目。
翌々日、43日めの朝。
今日もユキから起こされる。
さすがにだんだん申し訳なくなってきた。誰か「目覚め爽やか」的スキルを所持してないだろうか。そしたらそのうち転写するのに…。
あれから俺は、結局「指定転写」を覚えた。
最初は扱い辛くても、修業次第で相当使えるスキルになるなら、むしろ願ったりかなったりだ。その方が俺も努力しがいがある。
スキルをゲットした後は、時間の許す限り延々とスキルを使い続けたもんだから、昨日寝る前には無機物を卒業して有機物の指定転写に移行する事が出来た。
おかげで今日も寝不足だ…。
「すごいアクビだね。ハクちょっと頑張り過ぎなんじゃない?夕べも相当遅くまでやってたよね」
ゼロに笑われてしまった。その横でルリはなぜか苦い顔をしている。
「色々試すのはいいんだけど、元に戻しておいてくれない?ビックリするから」
「……?なんかあったか?最後の方ちょっと朦朧としてたからなぁ」
ルリが唇を尖らせて「これ」とスプーンを持ち上げる。スプーンはへにゃりと力なく曲がってしまった。
ルリが左右に揺らすと、ひらひらとスプーンは波打つ。
ああ…そういえば、最後の方は有機物も指定転写出来るようになったから、ティッシュの「柔らかさ」をスプーンに転写してみたんだったな。
「すげー!!」
ブラウはワクワクした目で褒めてくれるが、ルリはやっぱり困った顔。
「悪い。戻すの忘れてた」
「次から気をつけてくれればいいわ。取り敢えずこのスプーンとティッシュ、元に戻してくれない?マーリンがティッシュ取ろうとしたら硬くて、指切っちゃったのよ。意外と危ないから」
ルリがティッシュの箱を振って見せてくれたけど、なるほどティッシュはヒラリともしない。
うん、ティッシュには逆にスプーンの「硬さ」を指定転写したな、確かに。
ペラペラに薄いのにしっかりと固いティッシュは、思いのほか切れ味抜群だったらしい。結構切ったのか、マーリンの細い指には絆創膏が貼られていた。
ティッシュでケガするとか、そりゃ驚くに決まってる。本当に悪い事をした。
「悪いな、マーリン。今後はちゃんと元に戻すから」
「はい!でも面白いスキルですねぇ。なんとなく錬金に近しいものを感じますよぉ。ねぇ色々やって見せて下さいよぉ!」
ルリは心配してるってのに、当のマーリンは指定転写の方に興味津々らしい。う~ん、さすが錬金オタク。
俺はメシを食いながら、小さなブドウの一粒に、リンゴの「色」と「形」を指定転写して見せた。
「うわぁ!ちっちゃいリンゴが出来た~!」
「すっげえ!!ヤルじゃん。ハク!」
チビ達まで大はしゃぎだ。
「味は転写してねぇからブドウのままだと思うぞ?食ってみろ」
ユキが口に入れて、目を白黒させる。
「ほんと…味はブドウだ…!なんか変な感じ…」
「えー!オレもオレも!オレも食ってみたい~!!」
「私もですぅ!!」
ブラウやマーリンはもちろん、なんだか皆物欲しそうな顔をするもんだから、結局全員分、見た目ちっちゃいリンゴ、中身はブドウ…という怪しい果物を作る羽目になってしまった。
「やはりなかなか面白いスキルですな。」
グレイがダンディーに顎を撫でつつ頷く横で、ブラウはぴょんぴょん跳ねながら目を輝かせている。
「うわぁ~、オレこのスキル超欲しい!!なぁハク、俺にもこのスキルいつか転写してくれよな!」
「ダメっ!!絶対に!止めて下さい!」
な、なんだよマーリン…。
マーリンがかつてない必死の形相で話を遮ってきた。なんで涙目のくせに尋常じゃないオーラを放ってるんだ…!
「絶対、絶対にダメですぅ~!!全ての物がイタズラされてないか不安で触れなくなりますよぉ!!」
地団駄を踏んでヒステリックに泣きながら抗議されてしまった…。ここまで反応するなんて、錬金部屋ん中でいったいどんだけイタズラしてるんだよ、ブラウ…。
マーリンの必死の抗議をよそに、当のブラウはにひひっと楽しそうに笑っている。
ダメだ。トラップ考えてる時のゼロと同んなじ顔してる…。
イタズラに使おうと思えばこれほど使い勝手がいいスキルもそうないもんな。イタズラ妖精ブラウニーとしての血が騒ぐんだろうが、ブラウにだけはつけちゃいけないスキルな気がしてきた。
「ま、俺が色々やって見せてやるから、とりあえずはそれでガマンしてくれ」
「えぇ~~~…そんなぁ~!」
がっくりと肩を落とすブラウ。
「そりゃしょうがねぇなぁ!まぁおめーとゼロは、ダンジョンのトラップでも考えるんだなぁ」
カエンが爆笑しながら、グリグリと頭を撫でる。いやホントその通りだ。その溢れ出るイタズラ心は、俺達じゃなく冒険者の皆様に遺憾無く発揮して欲しい。
ちょっと膨れっ面のブラウのために、それから俺は本日のダンジョンオープンまで、延々とスキルを披露し続けた。




