武闘大会も準備中②
「あの爺さん達に勝てるくらい、手っ取り早く鍛えたいって事か」
ギルドの代表ともなれば、ギルドにとっても大切な人材だ。命を落とす危険もないダンジョンで、手っ取り早くレベルアップさせたいってのは、どこのギルドだって同じなのかも知れない。
「全く普段は対抗心むき出しの癖に、こんな時だけ全面的に頼ってきやがって…調子いいんだからなぁ。面倒くさいガキ共だよ」
心底面倒くさそうにカエンがぼやく。
あのむっさいギルドマスター達をガキ扱いか…。まぁ、建国当時からこの国の守護龍やってるカエンから見たら、どんな爺さんもおっさんも子供みたいなもんかも知れないけどな。
「頼りにされてるって事だよ」
「はっ…どうだかなぁ」
ゼロの前向きな言葉にも、何故か懐疑的なカエン。今ひとつ話がつかめないもんだから、さっきからボンヤリと遠い目をして茶をしばいているルリに、こっそりと話を聞いてみた。
「ああ…『カエン様の所の、しかも王室公認の訓練施設なら国営みたいなものでしょう?我らが守護龍様なら、皆を等しくお助け下さると信じております』…とか、説得しに来たイケメンマスターがいたらしいの♪」
うわー、うさんくさ…。
絶対心からの言葉じゃねぇな、それ。
そして、ルリがあからさまにご機嫌なのは、そのイケメンマスター情報があったからだろう。些細な情報だけで幸せになれるとは、案外お手軽なヤツだ。
「そんなわけでね、あさってくらいから他のギルドの冒険者達も来る事になったんだよね」
「言っとくが、武闘大会を視野に入れてるからなぁ。かなり強いヤツを送り込んでくると思うぜぇ?」
ゼロとカエンが二人して、そんな事を言いながら思い出したみたいに俺を見る。
…それって、もちろん俺とかスラっちが相手するんだよな?
「そうでしょうね。しかもパーティーで来る上に魔法も使ってくるから、実際は武闘大会よりも手強いんじゃない?」
確かに。
ルリの言う事はかなり的を射ている。
「そいつら…スラっちを瞬殺レベルで倒したあの爺さん達と比べて、どれ位だ?」
「まぁ強さで言えば爺さん達が間違いなく強いな。あいつらの代はやたら強えーヤツが多かったからなぁ、あん時にかなり駆逐されて今は危険な魔物は少ねぇし…」
そこで言葉を切るカエン。なぜか言いにくそうだと思ったら…。
「それに…お前達が来るまではダンジョンは見つけると同時に問答無用で潰してたからなぁ。冒険者達も今はレベル80もありゃ事足りるんだよ。」
うっわー…。
ダンジョンってやっぱりそういう扱いなんだな…。
あんまりカエンやアライン王子がフレンドリーだからうっかり忘れそうになるけど、やっぱりダンジョンが人類の敵である事には変わりがない。
そこだけは、肝に命じとかなきゃいけないんだよな…。
俺の微妙な顔を見て、カエンはうっすら苦笑している。さすがに考えている事はお見通しのようだ。
「ま、レベル的には爺さん達の方が断然強い。後は加齢による衰えがどれくらいかってトコだな。持久力も落ちてるだろうし…まぁ、長引けばいい勝負になるんじゃねぇかぁ?」
言いながらカエンは豪快に俺の頭をぐじゃぐしゃとかき混ぜる。
「ようは、爺さん一人とそこそこやり合えるくらいの実力がねぇと、あさってからくる他のギルドのヤツらの相手は厳しいってこった」
うーん…やっぱそうなのか…。
それはなかなか厳しい条件だな。俺にとっても、スラっちにとっても。
「しかも俺様のギルドに比べて、他のギルドのヤツらは全体的に荒くれ者が多いからなぁ」
ああ、なんか分かる。
最初にこの街に来た時ギルドをあちこちまわったけど、他のギルドは強弱はあれどここより数段ガラが悪かった。
ここが一番統制も取れてたし、冒険者達も落ち着いていたと思う。
「卑怯くせぇ事も割と平気でするからなぁ、気をつけた方がいいぜぇ?」
マジでか…。
まぁ俺もジョーカーズ・ダンジョンでかなりトリッキーな戦い方してるし、人の事は言えないけどな。
スラっちはスキルは豊富だから、戦い方次第で何とかなるだろうが、俺はぶっちゃけスキルもレベルも両方ヤバい。
8人もいたとはいえ、レベル50前後のヤツらとの戦闘でもヤバい場面があったってのに、レベル80クラスがパーティーでくるとか…。楽しみではあるが、コテンパンにのされるリスクも充分にある。
まぁ、今更グダグダ言っても仕方ない。使えるスキル検討しよう。真面目に。




