武闘大会も準備中 10/21 2回目
スラっちが跳ねるモニターを見ながら、俺はおもむろに切り出した。
「なぁゼロ、今日アライン王子と武闘大会の事話すだろ?」
「うん」
「俺さ、武闘大会に出たいんだけど」
「えっ!!?」
おお、思ったより驚いたな。
スラっちを軽くのしたような爺さん達がでる武闘大会ときたら、やっぱり出たいじゃないか。もしかしたらもっと強いヤツもいるかも知れないし。
「いや、でも…」
なぜかゼロは渋い顔をしているが、今日も結局マスタールームに入り浸っていたカエンが助け船を出してくれた。
「いーじゃねぇか、何事も経験だ。いい修行になる」
「そうよ。面白そうじゃない」
ルリ…お前の基準は面白いかどうかしかないのか…。ブレないやつ…。
「でも残念ねぇ。ハクが出場者になるなら、武闘大会関係のアイディアラッシュにはハクは入れられないわね」
「え?そうなるのか?」
「本気で出る気なら、アライン王子との打ち合わせにも出ちゃダメよ?ズルしてるって思われちゃ心外でしょ?」
「マジで!?」
「まぁダンジョン関係者とは公表しないでしょうけど、念のためにね。ルールを決める側の会議に出場者が入るもんじゃないわ」
「そういう事だ。おめーは何のスキル覚えるかでも考えとけ」
カ…カエンまで…!
「言っとくけど、冗談じゃないのよ?ただでさえダンジョン関係者なんだから、もしも上位に残ったりした時に、変な腹探られたくないでしょ?」
確かにそうだよな…。ルリの言う事は正論だって分かってはいるけど、それなりに武闘大会の会場をどんな風に造るのか楽しみな部分もあっただけに残念だ。
ただ、それでも武闘大会に出たい気持ちは変わらなかった。やっぱり爺さん達みたいな猛者と本気で戦ってみたいからだ。
「分かった。俺は武闘大会の運営にはタッチしない。…だから、出場させて欲しい」
真っ直ぐにゼロを見る。
相変わらず困った顔で俺を見ていたゼロは、小さくため息をついてから、出場を許してくれた。
何を心配してんのか知らないが、出るからには優勝目指して特訓あるのみだな!!
俺は俄然やる気が湧いてきた。
実際、あの爺さん達にそう簡単に追いつけるとは思ってないけど、まだ少しは時間がある。
やれるだけの事をやらなきゃな!!
皆と別れて、一人マスタールームでスキルのリストを眺める。
武闘大会まであと10日ちょっとしかない。レベルもスキルもやっぱり底上げは必要だ。ただ、誰もが努力して努力して鍛え上げてきたものを全力で出し合う武闘大会なだけに、スキルチケットで苦もなくすっげぇスキルを覚えて参加するのは気がひける。
なんかこう、訓練によって開花するようなスキルを頑張って探すか、武闘大会が終わってからスキルチケットを使うかだな。
そう思いながらスキルを吟味していた俺だが、たった2時間後にはその作業も中断を余儀なくされた。アライン王子との打ち合わせを終えたゼロが、びっくりニュースを持って戻って来たからだ。
「…へ?ダンジョンに他のギルドの猛者達を受け入れる?…なんでまた」
「前にカエンが、他のギルドの冒険者達がうちのダンジョンに挑戦したがってるって言ったの、覚えてる?」
あった…ような…?
曖昧に頷くと、カエンから「絶対覚えてねぇぞ、こいつ」とチクられる。
ぶっちゃけ明確には覚えてないが…。
「しょうがねぇなぁ。頭っから説明してやっから、ちゃんと耳の穴かっぽじって聞いとけよ?」
腕組みして俺を軽く睨むカエン。
いや、申し訳ない…。
「このダンジョンは観客も多くて街でかなり噂になってるからなぁ。ちょっと前から、他のギルドに所属してる冒険者から、このダンジョンに挑戦したいって申し出がちょいちょいあったわけだ」
「 はぁ…」
…なんかあったな、そういう話。
「ただ、このダンジョンは俺様のギルドの訓練施設って名目だからなぁ、他のギルドマスターの手前、全部断ってたんだよ」
ふんふん、ちょっと思い出してきたかも。
あの血の気の多そうなギルドマスター達、そりゃ面白くねぇだろうな…って思った記憶があるな。自分の了解もなく他のギルドの訓練施設を使った冒険者を許してくれそうな、甘いマスターはいなかった気がする。
「諦めきれなかったんだろうなぁ、冒険者達が自分とこのギルドマスターにその話を持ってったらしくてなぁ」
「そりゃ…面倒な事になったな」
「全くだ。で、いくつかのギルドのマスターから王室の方に話がいったってワケだ」
うん?いきなり話が飛んだな。
「このダンジョンって王室公認になってるからね。王室を通じて他のギルドの冒険者も受け入れるように、って要請がきたんだよね」
ゼロがさりげなくフォローしてくれた。
「特に今は武闘大会が目前に迫ってるじゃない?どのギルドからも代表出そうとしてるけど、伝説級の冒険者達も出場するって聞いて、なんか火がついたらしくて…」
なるほど、気持ちは分かる。




