ジョーカーズダンジョン、2日目⑰ 10/18 2回目
「アシッド・レイン!」
女魔術師ちゃんの高い声が響く。
アシッド…酸か!ロボに酸の雨とか、意外に酷いな女魔術師ちゃん…。
なんて悠長な事を言ってる暇はもちろんない。雨粒が当たる度にジュジュっという嫌な音と共に体の表面が焼かれて微かな煙が上がる。デカいだけに激しく降り注ぐ雨粒がことごとく体中に当たって、尋常じゃない痛さだ。
ちくしょう、この体じゃ不利だな…!
俺が変化をした途端。
「かかったな!変化するのを待ってたぜ?さすがにあのデカさは戦い辛いからな!!」
喜色満面で叫びながら、聖騎士が飛びかかってくる。くそっ、嵌められたのか!
振り下ろされる剣を、とっさにヌンチャク状にした武器で受ける。ギリギリと力で押されているところに、女魔術師ちゃんが放った火球が、凄いカーブで飛んできた。
なんちゅうコントロールだ。
火球が脇腹を抉り、俺は軽く吹っ飛ばされる。地面に投げ出されるよりも早く、今度は炎を纏った石つぶてが俺に向かって降り注いだ。
あぶっ…ねぇな!!
ギリでなんとか避けたところに聖騎士の剣が襲う。さすがのコンビネーション…!!
しょうがねぇ、ここは禁断の…
「!!?消えた!?」
聖騎士が驚きの声をあげた。
その実、小さな羽虫に変化しただけ。俺は高速で女魔術師ちゃんの死角まで移動し、道化師の姿に変化する。
秘技:ワープに見えるかも!だ。
突然現れた俺に驚愕の表情を浮かべる女魔術師ちゃん。「悪いな」と軽くウインクして、首に手刀を落とした。ヘナヘナと倒れる女魔術師。隙さえ突ければあっけないもんだ。
ちょっと卑怯くさいが、ぶっちゃけ便利だ…この技。
そのまま姿を消し、聖騎士の背後に姿を現して同じように首を狙って手刀を振り下ろす。
おお!!?
驚いた事に、聖騎士は避けた。
今の、見えてた訳じゃないよな?
見れば聖騎士は目を瞑って精神統一しているようだ。視覚捨てるとか凄い度胸だが…視覚で翻弄しようと思ってたからやりづらい…!
チッ、こうなったら純粋にスピードと手数で勝負だ。覚悟を決めて、ただただ互いに攻撃し、防ぐ。最後は魔法も小細工もない純粋なせめぎ合い…。
激しい応酬の後、倒れたのは…聖騎士だった。
「ジョーカーズ・ダンジョン、ついに決着です!!なんと8人もの勇敢な挑戦者を翻弄し、見事に蹴散らしましたぁ!!」
インカムからキーツの絶叫アナウンスが耳に突き刺さってくる。
あれ?決着って…男召喚師は?
魔力はもうないにしても、まだ気絶してない筈だが…。キーツに忘れられてたりして。
苦笑しながらキョロキョロと辺りを見回すと、ゴロゴロと転がる気絶中のへのへのもへじ達の向こうに、それっぽいローブ姿があった。
…へ?まさか…。
近づいて覗き込むと、男召喚師は大事そうに杖を抱えたまま気を失っている。
マジで…?
いつの間に、なんで気絶?
魔力切れからだろうか、それともなんか魔法とかの流れ弾にでもあたった?
いつの間にか勝ってしまっていたらしい。カフェからは割れるような拍手が聞こえてきてはいるが、ぶっちゃけ拍子抜けのまま、俺の2日目のボス戦は無事終了する事となった。
「面白かったよ、ハク!!」
「かなり色々変化したじゃない」
「見応えがありましたぞ」
マスタールームに戻ると、口々に皆褒めてくれる。楽しんでいただけたようで何よりだ。
「もうちょっとキレイな姉ちゃん率が高い方がいいけどなぁ」
「却下だ」
カエンの要望は間髪入れずに却下する。
「その方が絶対人気出るぜぇ?」
超ニヤニヤ顔のカエン。あんたちょっとはマトモな意見言えねぇのかよ…。呆れて言葉も出て来ないんだが。
なのに、俺の横で何故かゼロは納得顔で深く頷いている。
「あ~ちょっと分かるかも。確かにリリスがいるキング・ロードとか人気だもんね」
ゼロ、それ分からなくていい…。
何が悲しくて俺がおっさん達の人気を気にしなきゃなんねぇんだよ。
「それよりスラっちは?勝ったのか?」
俺的に楽しくない方向性になりつつある話題を強制的に進路変更。少々強引だが仕方ない。それでもゼロは、凄く嬉しそうに報告してくれた。
「もちろん圧勝だよ!見てよホラ、可愛いよ?」
差されたモニターを見てみると…スラっちはくるくると楽しげに回っていた。
…ていうか…。
既に挑戦者達はいないけど、スラっちの周りには数え切れないほどのスライム達が思い思いに跳ねている。
「なんだこれ…」
「ああ、決め技がスライム一斉攻撃だったのよ」
「スライム達数増えたから、雪崩みたいにスライムが降ってきてね、なんか凄くキレイだったよ!?」
ルリとユキの説明に納得。なるほどな…ダンジョン中のスライム達が、今ここに集結してる訳か。
スラっちが跳ねれば全スライムが跳ねる。スラっちがくるくるっと回転すれば、全スライムが一拍おいて一斉に回転する。




