ジョーカーズダンジョン、2日目⑮ 10/17 2回目
俺の決心も虚しく、一足早く男召喚師が杖に口付ける。杖からは、これまで感じた事がない大きな魔力が溢れ出そうとしていた。
そうだよ、こいつはなんだかんだ言って、レベル50前後の高レベル冒険者なんだ。相当レベルが高い召喚獣と契約してても不思議じゃない。
ゴゴゴゴゴ……
効果音付きでやんごとない魔力を撒き散らしながら、何か赤い物体が姿を現し始める。
「出番かー!?」
出現したのはなんと、5~6才くらいに見える、ちっちゃな女の子だった。
子供??いや、でも溢れんばかりの魔力は確かにあのガキから出ている!!
それに男召喚師は真っ青になって膝をついてるし、明らかにオーバースペックのヤツを召喚したに違いない。多分全ての魔力を使い切ってしまったんだろう。
驚きのあまり、ばかみたいにポカンとした顔でガン見してしまう。
真っ赤な髪の毛をツインテールに結んではいるが、髪が短か過ぎてスズメの尾くらいしか結べてないし。そばかすも大きくくりっとした目も、おてんばそうにイキイキして可愛い。短いスカートからはかぼちゃみたいにふわっと広がった白いズボン?が見えていた。
可愛いが、これと戦うのか俺は!?
「お兄ちゃんが遊んでくれるのか!?」
そう言った瞬間、もう目の前にいる。
激しい衝撃を受けて、俺は天井付近から一瞬で床に叩きつけられた。
痛っっってぇぇぇ!!?
なんだ!?
蹴られたのか!?全く見えなかった…!
首筋に悪寒を感じて、反射的にバク転しながらその場を逃れる。俺がいた場所からは、もうもうと煙が上がっていた。
魔法も、ヤバいレベルかよ…。
「おーーー!お兄ちゃん、やるなっ!久しぶりに楽しめそうだぞー!」
ヤバい…!
このちっちゃい女の子、明らかに格闘のスキルは俺を上回ってる…!
「遊んでくれっ!」
キラキラ目で駆け寄ってくる。
高速の突きと蹴りが、容赦なく叩き込まれた。
「ぐあぁぁぁあぁぁっ!」
初めてだ…!
カエンよりも高速の打撃の応酬…。
ガードはするものの一撃一撃がハンパなく重い。情けない事に反撃する間もなかった。まるで袋叩きにあっているようなものだ。
「お兄ちゃんも攻撃していいんだぞっ!チィは見た目ほど子供じゃないんだからなっ?」
魔族だろ!?そんなの分かってる!
純粋に反撃出来ねぇだけなんだよ!
またも高まってくる相手の気を、必死でたぐる。その時突然、急速に自分の中の集中力が高まっていくのが感じられた。
……来た!
カエンと特訓してた時にも時々あったこの感覚。急に五感が鋭くなって、勝手に体が反応し始める…脊髄反射みたいな反応の速さ。
頭で考えるより断然早くて的確に動けるんだ。
繰り出される攻撃を左腕で防いで、右腕で渾身の正拳突きをお見舞いする。やっとあたった!
ガキンチョの身体が吹っ飛んだ。
壁に激しくぶつかるくらいの勢いだったのに、ガキンチョは壁際でフワッと止まる。
振り返ったガキンチョは、満面の笑顔だった。
「おっ?お兄ちゃん急に動きが良くなったな!そうこなくっちゃ!」
瞬時に目の前に現れ、楽しそうな顔でめちゃくちゃに攻撃してくるガキンチョ。なんとか凌ぐが、何発かくらってしまっている。
くそっあり得ねぇガキンチョめ!
反応速度MAXの俺でも、防げないのか…!
手持ちの武器は格闘とスターセイバー、幾つかのスキルとブレス…どう戦えば…
考えていたら、腹に激しい衝撃が!
俺は吹っ飛ばされ、そのまま壁にぶち当たる。
痛ってぇぇ…!
ちくしょう!格闘じゃ無理だ!
こいつ魔族だよな?いちかばちか…!
俺は6枚羽根の美しい天使に変化し浮かびあがると、本日2度目のスターセイバーを放つ。
光の刃が煌めきながら降り注ぎ…
「うあぁぁぁぁ!痛い!痛いよぅ!!」
やった!ダメージが与えられた!!
しかも聖騎士達も地味に被弾してる!
「痛い…痛いぞ…!お前、どこから現れた?キレーな顔して酷いなお前!チィは怒った!!」
目がギラギラしてる!
ヤバい、怒らせたか…?
黒いオーラを纏って、ガキンチョが浮かび上がってくる。
俺はとっさに本来の姿、チビ龍の姿に戻って閃光のブレスを吐いた。
「うっ、眩しい…!」
ガキンチョが顔を顰めた隙に、俺はまた姿を変える。こけ脅しだがしょうがない…!
目をこすりながら俺を見たガキンチョは、目を見開き、驚愕の表情を浮かべ…。
「ふわっ!?ひぃっ!!!」
あ、落ちた。
ガキンチョは驚きのあまりか、なんと墜落していった。
マジで!?効いてる!?
とっさに怖そうなものに変化したんだが…。
今俺は、黒のタキシードにシルクハット、全身を覆うような黒マントに巨大な鎌…そして黒い翼を持った死神に変化している。
大きな黒い翼をはためかせ上から見下ろせば、ガキンチョは俺を見上げて恐怖の表情。完全に体は逃げに入っている。
…これ、そんな怖いか?




