ジョーカーズダンジョン、2日目⑭ 10/17 1回目
飛び降りながら、思いっきりムチを振るった。一番近くにいたへのへのもへじが餌食になる。
「ぐあぁぁあぁっ!!」
口から煙を吐いて、へのへのもへじはゴトリと倒れ込んだ。こいつは…盗賊か?ムチがあたる瞬間に電流を流してやったから、それがかなり効いたらしい。
「まずは一人…」
呟きながらムチを構える。
へのへのもへじ達の視線が集中した。
「ジャッシュに何をしたのよ!」
「くっ…今度は女か!ころころ変化しやがって…何者なんだ!」
「うわ、獣人…?妖艶すぎ…鼻血出る…」
「チラリズム最高…!」
さすがに人数が多いだけあって反応は様々だが、悲しいかな見るべきところがズレてるヤツもいる。
今の俺はゼロおすすめの九尾の狐・改だ。
真っ直ぐな黒髪に切れ長の目、透けそうな程白い肌に真っ赤な唇、そしてモフモフの9本のシッポはそのままに、朝の特訓では服装だけが改良されていた。
あの動きにくそうな服から、体にピッタリフィットした真っ赤なロングのワンピース?に変わっている。
一見動き辛そうに見えたが、足の付け根あたりから大胆に入ったスリットのおかげで、意外と行動も制限されない。ゼロによるとチャイナ服とかいうものらしい。カエンも絶賛だ。
ムチは構えたまま、ツカツカと無造作にへのへのもへじ達に近づき、対峙する。陣を組み直し俺の出方を窺うへのへのもへじ達。あと6人か…やっぱり面倒な魔術師系から片付けたいところだが。
一瞬、チリっと焼けるような気配を感じて、無意識に跳躍した。
同時に響く銃声。
危ねぇ!掠った!!
空中で体を捻り、そのまま攻撃に転じる。男召喚師を狙ってムチを振るったが、それは聖騎士によって阻まれた。
召喚師に向かって放ったムチを剣で受け、ピンと張ったムチを掴んで力任せに引っ張ってくる。思わぬ反撃に体勢を崩し、俺はへのへのもへじ達のただ中に引っ張り込まれた。
くっ…
バリバリバリバリッ
一瞬遅れでなんとか電流を流す。
「かはっ…!」
さすがに聖騎士は気絶にまでは至らなかったが、ムチを掴む力は緩む。
敵陣のど真ん中という状況に軽くテンパるが、俺は瞬時にムチを巻き取って、最短形状のヌンチャクで体を庇っていた。
あぶっ…
危ねぇ!!!
一斉に突きつけられた武器を、なんとかヌンチャクが捉える。危機一髪じゃねぇか!
渾身の力で武器を跳ね返し、横に転がり様、手近にあった足を思いっきり蹴った。赤いスカートがめくれ上がってるが、気にしてる暇もない。へのへのもへじが無様に倒れてぽっかり空いたスペースに向かって飛び出し、なんとかへのへのもへじ達の包囲網を抜ける。
そこにまたもや響く、銃声。
今度は脇腹に焼け付くような痛みが走った。
マジで痛いんだよもう!
脇腹を抑えながら、起き上がりかけたへのへのもへじの首筋へ手刀を落とす。力なくくずおれたそいつは…槍手か。
「あと…5人!」
間髪入れずにムチを振るう。
回復は後回しだ!厄介な狙撃手ちゃんを倒さねぇと、命を落とす予感がする!!
一撃めで銃を跳ね上げ、そのまま二撃めで胴をガッチリと捕らえて、高圧の電流を流した。
「うああっ!!!」
苦しげに呻きながら倒れ込む狙撃手ちゃん。罪悪感はあるがこればっかりは仕方がない。ごめん、狙撃手ちゃん。
「あと4人…!」
荒く息をつきながら、次の獲物へ目を向ける。
だが。
俺の足元から激しい火柱があがり、俺は炎に包まれた。
くっ…炎系って事は女魔術師ちゃんか!
こっちも必死だが、もちろん挑戦者達も必死だ。炎に巻かれている俺に、容赦なく女戦士の剣が振り下ろされる。
その剣を受け止め何とか跳ね上げると、俺は鳥に姿を変えて、炎から猛スピードで離脱した。天井近くの上空で、有翼の戦士に姿を変えて、素早く回復魔法を唱える。
今のは…結構ヤバかった…!
まともに戦ってたら命がいくらあっても足りねぇ。せっかく飛べるんだから、ヒット&アウェイ作戦でいこう。
俺はそのまま急降下して、女戦士が顔の前で構えた剣の柄を思いっきり蹴った。衝撃で後ろに仰け反る女戦士。ガラ空きになった腹に重い一発をお見舞いする。
頭から落ちそうな女戦士を、接地前に軽く受け止めて衝撃は柔らげてやった。既に気絶してる女にはさすがに優しくしないと…これでも俺は紳士だからな。
しかしボヤボヤしている暇はない。
女戦士を床に横たえると、すぐさまその場を離脱する。少しの隙でも命とりだ。
空中でホバリングして、足元を見下ろす。
「あと3人…!」
だいぶ有利になってきた!
これくらいの人数なら、十分気を回しながら戦える!
3人が固まって陣を組んでいるのを上から眺め、円を描くように周囲を飛ぶ。女魔術師と男召喚師が呪文を唱えているが……そういえば男召喚師、ボス部屋に入ってから何も召喚してないんじゃないか?
なんかイヤな予感がする。
一刻も早く倒さないと!




