ジョーカーズダンジョン、2日目⑩ 10/14 2回目
このワケのわからない状態異常、明らかにブラック…不思議スライムの仕業だろうなぁ。
本当に何が起こるか謎だ。
連続してかなりの大魔法をくらって、戦士達もスラレンジャー達もダメージは大きいだろうに、それを感じさせない乱闘状態。
酔っ払い、怖い…。
その時。
キラキラとした光がその場にいる全員の体を包んだ。
おっと、ピンクちゃんが回復魔法でも唱えたか?良かった、さすがにあの状態で戦ってたら、ドクターストップかけるハメになるとこだった。
みるみる全員が回復していく。
そして、さっきまでの乱闘がまるで幻だったみたいに、その場に静寂が訪れた。
「あれ…?」
「何してたっけ…?」
「ん?スライム…??」
戦士達の様子がおかしい。キョロキョロと辺りを見回し、怪訝な顔をしている。
これは…状態異常HAPPYが解けたのか!!
ステータスを見れば、案の定全員のステータスから状態異常がなくなっている。
そうか、ピンクちゃんは正式名称【エリクサースライム】だ。
エリクサーとの合成で誕生したピンクちゃんは、HP、MP、状態異常をフルで回復する、回復系のスペシャリストだった。攻撃では一切役に立たなくても、仲間のピンチを救えるヤツだったんだよ、そういえば!
ポヨン…
ポヨン…
と、暫く所在なげに跳ねていたスラレンジャー達も、徐々に動きがしっかりしてきた。
「まずい!ボス戦の途中だったか!」
「くっ、なんだか記憶が曖昧だが…気を引き締めていこう」
「分かった」
戦士達も意識がはっきりしてきたようで、お互いに声をかけあっている。おー…、これが平常時の戦士達の姿か。むしろ違和感。
状態異常:HAPPYか…面白いもん見たな。
不思議スライム、侮り難し。
お互いに正気に戻り、仕切りなおしで真剣な表情で戦い始める両者を見届け、俺は改めてジョーカーズ・ダンジョンのモニターに戻る。
へのへのもへじ達も、そろそろ次のエリアに入っただろう。
どれどれ…?
お、今度はちゃんと進んでるな。
普通に洞窟タイプのダンジョンに見える。さすがに水路の後に海、みたいなベタな事はなかったらしい。
モンスターを倒しながら、順調に進んでいくへのへのもへじ達。水路で手間取った分を取り戻すように、かなりのスピードで進む。あまりに順調でちょっと退屈だ。
「ねぇ…なんかおかしくない?」
女魔術師が眉をひそめてへのへのもへじ達に問いかける。
「なんだか乾燥がひど過ぎない?歩いてるだけで肌からどんどん水分が蒸発していく気がするの。」
「あー、まぁ確かに乾燥は酷いが…水よりマシだし」
「なんだぁ?お肌のダメージでも気にしてんのか?」
「曲がり角デスカ?」
口々にからかっていたかと思うとグーで殴られている。バカだ…。
怒った女魔術師が、イライラした様子でへのへのもへじ達をおいてどんどん先に進んでいく。
いくらなんでもダンジョンなんだから、その行動は少し危険じゃないか…?
案の定、先を行く女魔術師の足が、はたと止まった。大きな目は、驚愕に見開かれている。
洞窟を抜けると突如広がる広大な砂漠。上部は厚い雲に覆われて見えず、雲からは幾筋もの雷が絶え間無く地面を穿つ。
女魔術師を追って洞窟を飛び出してきたへのへのもへじ達は、その光景を見て一様に唖然とした顔で立ち止まっている。
「なんだよこれ…」
「雷を縫って進めって事…?」
へのへのもへじ達はまたも顔を見合わせるはめになった。ため息と共に、がっくりと肩を落としている。
「砂漠の中を…?足場、悪過ぎだろ…」
しかもこの大所帯だからなぁ。
雷避けて通るって、かなり難易度高そうだよな。
「あっ!!皆見て!向こうにあるの、あれ家だよね!?」
狙撃手ちゃんの嬉しそうな高い声が響く。
「ホントだ!あれが次のステージか!?」
「そうじゃなくても絶対なんかあるよね!」
その場が一気に盛り上がる。ついさっきまで途方にくれた様子だった癖に現金なもんだ。へのへのもへじ達は円になって座り、作戦会議タイムに入る。
「俺の考えだが」
聖騎士がおもむろに口を開いた。
「ジクザグに雷を避けようと走ったところで、当たらないって保証はどこにもない」
「だよね~。いっその事あの家まで一直線にいったほうが最短だしまだ安全な気がする」
聖騎士の投げかけに誰かが答える。ここは異論を唱えても仕方ない部分だろう。へのへのもへじ達も一斉に頷いた。
「念のために聞くが…魔法系で雷の衝撃を和らげるみたいな…そんな都合のいいもんはないよな?」
「さすがにないけど……水路の時みたいに…なんか、せめて危険度を減らせるもんがある気がして…」
男召喚師がそう言うと、へのへのもへじ達は今度は一斉に考え始める。人数多い癖に、チームワーク乱れないパーティーだな。




