ジョーカーズダンジョン、2日目⑨ 10/14 1回目
一抹の不安は感じるが、へのへのもへじ達は少し休むつもりみたいだし、ちょっと他のモニターも見てみるか。
まだ残っているのはプリンセス・ロードとスライム・ロード、そしてこのジョーカーズ・ダンジョンの3つだけだ。
プリンセス・ロードを進むのは、びっくりするくらい凸凹の二人だった。
一人は身長190cmはあろうかという大男。肩幅も広く筋肉隆々、重そうな斧を担いでいる。とても超初心者用ダンジョン、プリンセス・ロードに挑む駆け出しには見えない。
もう一人は小さい可愛い女の子。身長は140cmもないだろう。杖と大きな唾広帽子から、魔術師だろう事が窺える。
一見親子かと思うほどの身長差だが、年は多分一緒くらいだ。しかも女の子の方が主導権を握っているらしく、大男は完全に尻に敷かれている。
わらわらと出てくるコボルトを大きな斧で薙ぎ払い、最前線で勇敢に戦う大男に、女魔術師が右だ左だと指示を飛ばし、適度に回復するという、なかなかのコンビネーション。
本当になんでプリンセス・ロードなんかに挑んでるんだろう。このパーティーは確実にクリアするに違いない。
そしてスライム・ロードは…乱戦だった。
第二ステージのスラレンジャー達が楽しそうに戦っているのは、見たところ男三人全員戦士という、むっさいパーティーだった。
「おーーー…三人とも戦士って、スライム・ロードに向かないんじゃないか?」
どう考えても魔法は駆使するわ、体は硬いわの個性派揃いのウチのスライム達には通じなさそうなんだが。
「それが意外と善戦してるんですよ。」
「いや全く。俺様も、こいつらどうやって依頼こなしてるんだか…って思ってたんだが、純粋に強いと思うぜぇ?」
グレイの言葉にカエンがかぶせてくる。
へぇ、カエンも認める強さか。ちょっと興味あるな。
モニターを見てみると、スラレンジャー4体と戦士3人が丁々発止のやり取りをしている。スライムもう一体はやられてしまったのか…?
あ、部屋の隅っこにピンクちゃん発見。
やっぱり定位置はそこなんだな。
微笑ましく思いながら、ステータスを確認する。なんせスラレンジャーの中には不思議スライムがいるから、どんな状態異常があってもおかしくないし。
「あ、一人は魔法戦士なのか。」
「ああ、見たところ回復だけみたいだけどなぁ。」
俺の呟きに、カエンがすぐさま答えてくれた。なるほど、最低限の回復手段はあるわけか。
えーと他には…挑戦者達にステータス異常は…
ん……?
HAPPY
なんだ、これ。初めて見た。
ハッピー…幸せ?楽しい?
なんにせよあんまり悪くなさそうなステータス異常だが…。
その場にいる全員、戦士達にもスラレンジャーにも漏れなくついているそのステータス異常。どんな効果なのかは予想がつかない。
モニターから見るバトルシーンは至って普通だ。ちょっと戦士達がうるさいが。
「うおぉぉりゃあぁぁぁあぁぁ!!」
「オラァ!来い!どんどんかかって来んかぁ!!」
「はははははっ!そうはいくか!まだまだ甘いなっ!」
熱血戦士が3人もパーティーに揃うとか、相当レアじゃないだろうか。むさ苦しさも3倍増し。少なくとも俺はこのパーティーには入りたくない。
戦い方も豪快で、力いっぱい剣を振り回すから、空振りも多いが当たればホームランだ。ガツッと固い音がして、スライム達も欠けたりヒビが入ったりしている。
まぁ、スライム達も楽しそうだからいいんだが。
……って、そういう事か!?
興奮剤飲んだみたいな状態なのか!?
そう思って見てみると、スライム達の動きもなんか変だ。
何の意味もなく跳ねて5~6回転してみたり、誰もいない所で蒸気を思いっきり噴射してみたり…無駄な動きが相当多い。
戦士達は攻撃が決まればいちいち「イエーーーイ!!」とハイタッチ。
なんだこのテンション。
「いやーー、こいつら寡黙なヤツらだと思ってたが、戦いになると人が違うみたいだなぁ」
「手綱を握ると性格変わる、みたいなものですかな」
カエン、グレイ…。それ、多分違う…。
正気に戻ったら、かなり恥ずかしいだろう。覚えていればだが。
その時、激しい閃光が辺りを包んだ。
「おーーーっと!これは激しい雷だ!……これは……どうしたんでしょうか!?スラレンジャー達も雷を受けているようです!誤爆か?自爆か?とにかく皆真っ黒です!!」
キーツのアナウンスと同時に、スラレンジャーが一斉に飛び跳ね始めた。
な、なんだ!?
今度はなんなんだ!
一際高く飛び上がったレッドがスピンしながら周り中に熱風を吐き出す。
ハイテンションだからか、無駄に大技が炸裂するわ、仲間を巻き込むわ、酷い状況だ。
「あっちぃ!!痛てぇし!!」
「はははははっ!!」
「すげ~な、スライムすげ~!」
戦士達も酷いダメージなのに、なぜか爆笑。
なんかもう、完全に酔っ払いのノリに見えてきた。




