ジョーカーズダンジョン、2日目⑦ 10/13 1回目
格闘家を水中で確保し、聖騎士が水面に顔を出す。放物線を描いて水面に激しく打ち付けられたせいか、格闘家は意識を失っているようだった。
格闘家の顔を水面から出し、顎を背後から支えた状態で少しずつ岸辺に向かって距離を詰めていく聖騎士。へのへのもへじ達は息を詰めて、それを見守っている。
悠然と聖騎士達を眺めていた首長竜が、ゆっくりと首を振った。
さすがに首長竜だけあって、首のリーチは驚く程長い。みるみる聖騎士達に近づく首長竜の頭部。へのへのもへじ達が声にならない叫びを上げる。
パァーーーーーーン!!
乾いた音が響いた。同時に首長竜がめちゃくちゃに首を振り始める。
これは……狙撃手か!!
女性の手には余るようなゴツい銃をしっかりと構える狙撃手。銃からは薄く煙があがっていた。
どうやら狙撃手の放った銃弾が、首長竜の頭部に命中したらしい。デカい頭部だけに、致命傷にはならなかったようだが、大きなダメージを受けたのは確かだ。
痛みからか、首長竜が激しく体を揺らし首を振り回すもんだから、水面は大波が荒れ狂っている。
せっかく岸辺に近づいたと言うのに、波にもみくちゃにされて、二人はもはやいつ溺れてもおかしくないくらい浮き沈みしていた。
「このままじゃ二人とも危ない!!」
誰かの叫びに無言で飛び込んだのは、やっぱり男魔術師だった。
なんだよこいつ!
ちょっとカッコイイじゃねぇか…!!
ヘロヘロながらも、少しずつ二人に近づく男魔術師の手が、ついに聖騎士の腕を掴む。瞬間、三人の姿は波間から掻き消え……岸辺に転移していた。
すげぇ、男魔術師!!
よくやった!敵ながらあっぱれだよ!!
岸辺に戻った三人は、既に立ち上がる事すら出来ない。
格闘家は気絶しているし、聖騎士は大量の水を飲んだらしく、四つん這いで咳き込んでいる。そして男魔術師は、力なく地面に倒れていた。意識はあるようだが、顔色は紙のように白い。
転移は決して軽い魔法じゃない。あれだけ連発すれば、魔力はもはやすっからかんだろう。
加えて何度も投げ飛ばされたあげく、得意でもない泳ぎをあれだけ強いられれば、精神も肉体も限界を超えているんじゃないだろうか…。
俺は悩んだ。
格闘家はリタイア確実。聖騎士はなんとかまだいけるだろう。男魔術師は…どうする?
あんな状態ではあるが、ステータスは瀕死でも気絶でもない。
俺だったら……俺だったら、ここまで頑張ったら満身創痍でも最後まで戦いたい。
悩んだ末、俺は決断した。
キーツに連絡し、格闘家のリタイアだけを指示する。間もなくキーツのアナウンスが響いてきた。
「ジョーカーズ・ダンジョンの挑戦者、格闘家:サンさん、気絶のため残念ながらここでリタイアです!実に勇敢な戦いぶりでしたぁ!サンさんに惜しみない拍手をお願いします!」
カフェからは割れるような拍手と声援。しかし、へのへのもへじ達は逆に、全身でピンチを感じていた。
暴れまくっていた首長竜が落ち着きを取り戻し、へのへのもへじ達を真正面から見据えているからだ。
全身から怒りのオーラが出ている。
「おい、あれヤバいんじゃねぇか?」
「完璧怒ってるな…」
へのへのもへじ達が少しずつ後ずさる。
「扉から出るんだ!!」
「よし!ショウは俺が担ぐ!」
男魔術師を担ぎあげるへのへのもへじ。それを見て頷いた男召喚師は、扉に手をかけた。
「開かない!?」
焦ってガチャガチャとノブを押したり引いたりしているが、もちろん開く筈もない。
首長竜を倒さないと開かない仕掛けだって言ってたもんなぁ…。
「うわっ!近づいてきたぁ!!」
「ヤバい!ヤバいってぇ!!」
へのへのもへじ達の焦りまくった声がこだまする。
「ダメだ!マジ開かねぇ!」
「のけっ!オレがやってみる!!」
男召喚師を押しのけて、盗賊が扉にアタックしているが、もちろん開く筈もない。ガチャガチャと往生際悪くノブを回した後、扉をガツンと殴って盗賊は悔しげに叫んだ。
「くそっ!これ罠や鍵じゃねえ!多分なんか条件満たさねぇと開かないタイプだ!」
盗賊の言葉に、へのへのもへじ達は顔を見合わせる。
「条件……?」
そして、青い顔で首長竜を見上げた。
「条件……」
首長竜が長い首を振り回し、ついに咆哮をあげながらへのへのもへじ達に襲いかかる。
「絶対、こいつだ!!」
「マジで!?こいつ倒すの!?」
悲鳴をあげながら逃げ惑うへのへのもへじ達。人数が多いせいか、首長竜は今ひとつ照準を定めきれないようで、幸いまだへのへのもへじ達に被害は出ていない。
さて、いったいどう戦うつもりだろうか。
ただ、男魔術師と格闘家のおかげで、へのへのもへじ達はなんだかんだ言って、首長竜を陸地で迎えうてるワケだ。決して分が悪い勝負でもない。
さぁ、お前らの真価を見せて貰おうか。




