ジョーカーズダンジョン、2日目⑤ 10/12 1回目
少し呆然と各モニターを見ていたら、いきなりキング・ロードのモニターから、リリスの高笑いが響いてきた。
「あらぁ、アーチャーも意外と使えるのねぇ。ご褒美あげたいくらいだわぁ」
見ればアーチャーが矢を乱れ射っている。高速で放たれる矢の雨に、仲間達は近づく事さえ出来ないようだ。
「クロック!頼むから正気に戻ってくれよぉ」
情けない声をあげているのは、体のあちこちから出血している男戦士。すでにかなり矢を受けてしまっているようだ。
当然アーチャーは男戦士の声に応える事なく、無表情で矢を放ち続ける。
「ムダよ、魅了されてるんだもん!もう諦めてよ!」
女の子の高い可愛らしい声が響く。
男戦士に降り注ぐ矢の雨を防いだのは、小柄でなんとも愛らしい少女だった。
へ…?
まさかアレが盾…いや、武器か!?
少女は小さなリボンが沢山ついた傘を開いて、戦士を矢から守っている。…なんであの傘で、矢が跳ね返るんだろう…。魔力でも込められてるんだろうか。
矢の雨を防ぎきると、少女は一瞬で傘を閉じ、亜麻色のふわふわカーリーヘアをなびかせて、アーチャー目掛けて駆け出した。
傘を振りかぶったまま、大きく跳躍する。そして思いっきり、アーチャーの脳天をぶっ叩いた。昏倒するアーチャーを飛び越して、華麗に着地する少女。
フリッフリのピンクのドレス…?かなり豪快にめくれてしましまタイツが丸見えだが…この格好で戦士系なんだろうか…?
さらに、少女は着地と同時にリリスに向かって駆け出す。
「アナタには、男は役に立たないって分かってるもん!私が倒す!!」
少女の宣言を楽しそうに聞き、リリスは相変わらずからかうような口調で話しかけた。
「やだぁ怖い。可愛い顔が台無しよ?ねぇ、その服可愛い。どこで買ったの?」
「縫ったのよ!」
言いながら、少女は傘で突きを繰り出す。完全に戦闘系だな。しかも、よく見ると傘の先端はかなり鋭利で、槍としての機能もあるようだ。
「凄~い!アタシにも縫って?黒い、繊細なフリルが沢山ついた…ゴシックロリータがいいわぁ…!」
「私に勝てたらね!」
少女の攻撃をヒラヒラと躱しながら、リリスは楽しそうだ。…なんで女って服の事だと盛り上がるんだろう。
「…約束よ?じゃあ、本気で行こうかしらぁ。…ウフフ♪」
妖艶に笑ったリリス。傘の攻撃を避けると同時に空に舞い上がり、ムチを放った。
響いたのは、二つの悲鳴。
「……っ……ひきょ……も…の…っ」
悔しそうにそれだけ呟き、少女は動かなくなってしまった。人形のように横たわる彼女のふわふわピンクドレスの上で、メタルアシッドスライムが嬉しそうに跳ねている。
…いつの間に…。
どうやらリリスが空に逃げたと同時に、メタルアシッドスライムが少女に攻撃したようだ。運悪く、その一撃でマヒまでくらってしまったんだろう。
「ゴシックロリータ、約束よぉ?」
リリス…多分、ムリだと思うぞ?
モニター通してでも、動かない少女から怒りのオーラだけは感じるし。
「ドレスかぁ…。本気でリリスの服、考えた方がいいかもね」
ゼロが突然、呑気な事を言い出した。
まぁ、分からないでもないが。
リリスの格好はかなりエロい。
素肌に黒のコルセット、短か過ぎてスカートかどうか怪しいレベルのミニスカートにガーターベルト。首の黒レースのチョーカーも何となくエロい。
まぁリリスだし…と思うとこんなもんかと思うけど、確かに少し考えるべきか?
リリスが出現すると、決まってイナバが奏でるピアノの音が、ムーディーなものに変わるのも分かる気がするもんな。うちにはチビ達もいるからなぁ…教育に悪い。
ぼんやり考えていたら、リリスの楽しげな声が聞こえてきた。
「うふふ…そんなに見つめられると照れちゃうわぁ」
見ればリリスのムチが捕らえていたのは、矢傷だらけの男戦士だった。既に絶望の表情で、目を見開いてリリスを凝視している。
目を細め、嬉しそうに笑うリリス。
うわ、ついに舌なめずりしやがった!
涙目の気弱そうな男戦士は、真っ青になってふるふる震えている。ムチでギリギリと巻かれ、もはや見るからに抵抗出来そうにないな。
リリスが空からフワリと舞い降りる。
ああ…ご愁傷さま…。
「いただきまぁす♪」
「キング・ロード挑戦者の皆さん、全員ここでリタイアです!さすがリリス、圧巻の強さです!」
キーツのアナウンスが入ると同時に、カフェからは男達のムサい声援が飛んだ。
「うおーーー!!色っぺえ!」
「リリスちゃ~~~ん!!」
「俺もチャレンジするぜぇ!!」
……キング・ロードの挑戦申し込みが変に多いのって、まさかリリスのせいなのか?
若干微妙な気持ちになりながらも、俺はジョーカーズ・ダンジョンのモニターに戻る。
他のモニターも気にはなるが、やっぱり自分の対戦相手の方が気になるしな。




