ジョーカーズダンジョン、2日目② 10/10 2回目
息が整ってくると、へのへのもへじ達は渋い顔で話し始めた。
「な、なんなんだ…!昨日のダンジョンとは別物なのか?」
「ああんもう、ビショビショ…!」
「どうしよう、これどこまで水場が続いてるのかな」
「見渡す限り足場になりそうなとこすらないな。…泳げっていうのか」
そう、挑戦者達が歩いていた道は、今やどこまでも続く水路になっている。確実に泳いで進むしかない仕様だ。
「俺、泳げない…」
その場の空気が凍りついた。
「やっぱりか…」
「さっき溺れてたもんな」
「この近辺海ないからなぁ。泳げないヤツ多いよ。俺もなんとか泳げるって程度だ。長距離はキツい」
そうか、そうだったな。意外と厳しいフロアだ。泳げないと話にならないが、確かさっき水に落ちた時…溺れかけたヤツが二人いた。今も床に転がされている。
聖騎士は苦り切った顔で、ゆっくりとメンバーを見渡す。
「全く泳げないヤツ、挙手」
床に転がる二人が、力なく挙手する。
「なんとか泳げる程度ってヤツは?」
さらに三人が手を上げた。ああっ女魔術師ちゃんが挙手してる!
「こんなに居るのか…。じゃあ逆に泳ぐの得意だってヤツは?」
誰も手を上げなかった…。うわ、前途多難だな。聖騎士もここは判断が難しい場面だ。
「参ったな…。これ偵察すら難しいぜ。俺も泳ぐのは得意って程じゃない」
「はいはいっ!あたし策があるっ!!」
女戦士が元気よく挙手した。
聖騎士が一瞬微妙な顔をしてから、女戦士に発言を促す。
「あのねっ、ペッパーさんに巨人さんを召喚してもらって、向こうまで投げてもらうの!」
何と言う乱暴な案…。それって泳ぐよりマシなのか?聖騎士が微妙な顔してたのがわかる気がする。多分いつもこんな感じなんだろう。
「確かにこの水路、かなりの距離が直線ではあるけどな…」
言いかけた聖騎士の肩を、渋いおっさんが軽くたたく。
「いや、意外といい案かもしれないぞ?泳いで消耗するよりはかなりいい。私が偵察に行って来よう」
屈伸したり腕を振り回したり、もう行く気マンマンだ。その時、つんざくような悲鳴があがった。
「あああああ~~~~!!!銃が、銃がぁ !どうしよう、ビショビショだよ~!!」
狙撃手ちゃんが半べそになっていた。
「使えないのか!?」
「使えるけど…銃身に水が溜まると威力落ちるし、思わぬ方向に弾道がそれたりするって聞くから…」
それを聞いた聖騎士は、ホッとしたように息をついた。
「なんだよ脅かすな。じゃあ、サンは偵察に行ってくれ。エリーゼはその間に銃を手入れすりゃいいだろ?」
サンと呼ばれた渋いおっさんは首をゴキゴキと鳴らすと「行ってくる」とひと言残し、へのへのもへじ達の輪の中に入って行った。
今度は輪の中からひょろい男が出てくる。話の流れから察するに、こいつが召喚師なんだろう。すぐに呪文を唱え始め、光る杖に口付ける。
…この召喚方法、男がやるとキモさしかないな…。
そして召喚されたのは、上半身裸でムッキムキの大男。なんで召喚で出てくる巨人は総じてムッキムキなんだろうな…。夢に出そうだからじっくり観察したくない。
大男は深く頷くと、渋いおっさんを軽々と掴み上げ、無造作に投げた。
うっわぁ、すげぇ飛んだな!!
「うわぁ、あたしも早く飛びたいな!」
女戦士が無邪気な事を言ってるが、あれ…投げられただけで本人に自由度は一切なさそうだから、そんな楽しいもんじゃないと思うぞ?
…そして言いたくはないが、女戦士…30歳前後だよな。無邪気なまま成長しちゃったんだな…。
どうでもいい事を考えている間に、渋いおっさんは遠く遠くの壁まで飛んで、うまいこと壁を蹴って、反動を使って右の方へ消えていった。
やっぱりうっすら向こうに見えている壁までじゃなく、右に折れてダンジョンは続いてるんだな。
…この泳げない集団にとっては、ますます厳しいダンジョン攻略になりそうだ。
聖騎士を囲んで、へのへのもへじ達は会議の真っ最中だが、全員が浮かない顔をしている。
「泳ぐにしても、武器や防具がなんせ重いからなぁ」
「置いていくわけにもいかねぇよな」
「あ、転移の魔法ならどうだ!?」
その発言に、全員がパァッと表情を明るくする。
「それ、いけるんじゃね!?」
「おいショウ!一回行ったとこなら転移出来るんだよな?」
「ああ…そうだが」
頷いたものの、浮かない顔をしている。
「なんだよ、浮かない顔だな」
「…なんにせよ俺は、あの方法で先に進むわけだよな」
「そうなるな」
「飛ばされたくもないし、第一なんとか泳げるって程度だし」
はぁ~…と、ため息。まぁ気持ちは分かるな。俺だってあの立場なら嫌だ。
「うわ!まさか水に入らないでショートカットしようとしてる!?」
わっ!びっくりした!
いつの間にかゼロが後ろから覗き込んでいた。




