ジョーカーズダンジョン、2日目① 10/10 1回目
「なるほど…。」
巨木がいきなり腕を振り回して襲ってきたらそりゃ怖い。
そんな風に説明を受けては変化し、説明を受けては変化し、最後はもう面倒くさくなって、機械的にスケッチブックをガン見しては変化する繰り返しとなった。
「いや凄えなぁ、変化のピアス。こりゃ今日の戦いが楽しみだぜぇ」
カエンもご満悦だ。
むしろ俺の再現力を高く評価して貰いたいもんだよ…。
確かに俺のレパートリーは飛躍的に増えたが、どれだけ覚えているかはちょっと自信がない。でも、昨日よりは変化を駆使して戦える筈だ。ジョーカーズ・ダンジョンのラスボスとして!
ギリギリまで特訓を続け、昼メシを食ったら、決意も新たに本日もダンジョンに沢山のお客様と挑戦者を迎えいれる。
スラっちも準備万端でスライム・ロードのラスボス部屋で跳ねていた。もうすっかり気持ちは浮上したみたいだな。
俺も続々と入ってくるお客様を見ているうちに、テンションが上がってきた。
よし!今日も勝つぞ!!
「皆さん、本日もギルド:クラウンの訓練施設へようこそ!昨日は平均年齢72歳のおじいちゃんズが、無敗の王者スラっちを倒すという、波乱含みの展開でしたが、今日はどんな戦いが繰り広げられるのでしょうか!?」
キーツの高らかなアナウンスで今日も開場が宣言され、カフェには怒号のような声援が巻き起こる。
「昨日オープンしたばかりのジョーカーズ・ダンジョンは、宝箱からボスまで全てがトリッキー!果たして全貌が明らかになっているのか…興味が尽きません!」
キーツ、楽しそうにアナウンスしてるなぁ…。5つものダンジョンで平行して進んでいく挑戦者達を見ながらアナウンスしていくの、大変だろうに…。
頭が下がるよ。
「さぁ、本日の挑戦者の皆さんを紹介します!!」
キーツが手際良く各ダンジョンの挑戦者達を紹介していく。さて、今日の俺の相手はどんなパーティーかな?
…おっと、こんな大所帯は初めてだな。
何人だ?
1、2…おお、9人もいる!
とりあえずステータスを見てみるか。
聖騎士:男:レベル52
槍手:男:レベル48
戦士:女:レベル47
格闘家:男:レベル58
狙撃手:女:レベル52
盗賊:男:レベル48
召喚師:男:レベル47
魔術師:男:レベル58
魔術師:女:レベル52
…へえ、このレベルでこの大所帯とは…一体どんなヤツらなんだろう。これは楽しみだな。
ゾロゾロと列をなして進んでいく一行。
さすがにこれだけ人数が多いと顔も判別できないな。なんかもう目に入るのは戦士、狙撃手、魔術師の3人の女性陣くらいだ。頑張って聖騎士まで。
あとの男達はぶっちゃけ…へのへのもへじに見える。でも、昨日の挑戦者達よりは皆少し年上な感じだから…30代前半ってとこか。
「ここは確かマグマのフロアだったよな?意外と暑くもなくて快適だな。」
「そうだな、昨日のヤツらは結構暑いってボヤいてたけどな。」
「ちぇっ、折角耐熱服着てきたのによぉ。」
へのへのもへじ達が思い思いの感想を述べながら、慎重に歩を進めていく。
…しかしこんなフロアだったかな。確かに同じ洞窟タイプではあるけど、こんなにつるんとしてなくて、もっと岩肌がゴツゴツしてた気がする。
「…おかしいな。昨日見たダンジョンは、もうマグマがあちこちにあった筈だと思うが。」
聖騎士がそう言って立ち止まった。
だよな、俺もおかしいと思ってたとこだ。
モニターのこっち側で激しく同意した途端、ガチっ…と、何か嫌な音がした。
「うわぁあぁぁぁあぁぁ!!」
「ひいっ…!?」
「きゃぁあぁぁぁ!!」
響き渡る悲鳴。
続いてバシャーーーン!ドボーーーン!という派手な音と共に、盛大な水飛沫があがる。
なんと挑戦者達の足下が突然なくなり、広大な水場が現れていた。突然水に落とされ、わけも分からず必死にもがく挑戦者達。
「戻れ!岸に戻れ!!」
聖騎士の叫びに、皆一斉に元来た岸を目指す。崩れた足場の方は勿論すぐ近くにあるが、ダンジョンの先は延々水場が続いている。
ここはひとまず、戻るしかないだろう。
だが人数が多いせいで岸辺は大混乱だ。皆思うように岸にあがれずにいる。
思わずゼロの方を振り返ると、ゼロは「うん、巨大落とし穴、大成功!」と呑気な事を言っていた。
いや…いつダンジョン改修したんだよ!
昨日は俺の変化パターンの開発にかかりっきりじゃなかったのか??
「今日は水のフロアだよ」
満足げなゼロとは対照的に、モニターの向こう側は早くもかなり消耗してしまったようだ。
皆びしょ濡れ。なんとか岸には上がったものの、ゼエゼエと肩で息をしているヤツもいれば、大の字で寝転がっているヤツもいる。
まぁ鎧やローブみたいな、明らかに泳ぐのには向かない装備だもんな。
しかしダンジョンに入ってわずか10mでこの有様か…。




