変化の可能性を追及してみる③ 10/9 2回目
翌朝。
相変わらずユキの朝メシ中継で目が覚める。
「ハク、おはよー!今日のゴハンは玉子かけご飯とお味噌汁だって!」
まさかの玉子かけご飯!!
潔いくらい手抜きじゃねぇか!
何があったんだ、一体…。
昨日は皆、俺の変化パターンのアイディアラッシュに夢中になってたから、付き合いきれずに先に寝ちまったんだよな…。
あくびを咬み殺しながら食卓に近づくと、ゼロが満面の笑顔で話しかけてきた。
「あっハク、起きたんだね!今日は短時間で食べられる玉子かけご飯だよ。その分たっくさん練習しようね!」
げっ!?まさかのオーダーだったのか!
…ホントだ。出汁ツユは数種用意されてるし、トッピングも豊富に用意されている。手抜き感は一切ないな…。メシの時間まで搾り取ろうとは。一体どんだけ練習させる気だよ…。
しかもこんなしょっぱいメニューでも、誰も文句を言わない。むしろ全員が笑顔で楽しそうだ。
「ああ~、楽しみね!ねぇ、とりあえず一通り変化してもらった方がいいんじゃない?」
ルリのこんな夢見るような瞳、久しぶりに見たな。
「今日はバイト君にギルドは任せてきたからなぁ。俺様も実戦まで観戦できるぜぇ?」
カエン!?ちゃんと仕事しろよ!
ていうかあんた達、ゆうべどんだけ盛り上がったんだ!!
実際に変化するのは俺なのに、周囲とのテンションが違いすぎて、かなりヒクんだが。
「ハク!オレちゃんとカッチョいいの考えたんだぜっ!」
「ぼくもーー!」
俺の気も知らないで、チビっ子達も元気いっぱいだ。泣ける…。
「さっ!早く食べて!自信作がたっっっくさんあるんだから!!時間は有限なんだよ!?」
ゼロ…その名言、使い所は今じゃないぞ。多分。でも最早何を言ってもムダな気がする。俺は諦めてメシを掻き込み、スケッチブックに手を伸ばした。それを横からルリが奪いとる。
「なんだよ、もう…」
イヤイヤながらも頑張ろうとしてるんだから、邪魔しないで欲しいんだが。
ルリはイタズラっぽく笑って、スケッチブックをパラパラめくる。手をとめてニンマリと笑うと、俺にぴらぴらと見せた。
「ハク、まずはこれからいってみない?」
ふーん…。ルリにしては無難なヤツを選んだな。これならまぁいいか。
俺はじっくりとスケッチブックを眺め、頭の中で立体にしたイメージを整える。後ろ姿や全身のイメージ、細部のディテールが固まったところで、ピアスに魔力を流した。
黒のタキシードにシルクハット。
全身を覆うような黒のマント。意匠をこらした巨大な鎌…見るからに死神だろう。
ただ、なんでかスカルの仮面は顔の左半分しか覆っていない。もう半分は青白い肌に赤い瞳、長い黒髪の不健康そうなイケメンだ。しかも、黒い翼も生えている。
どういう話の流れでこうなったんだか。
「うん、いいわね!どう?ゼロ」
「うん…これならギリでセーフ。人の範疇だって思えるし」
なるほど…アンデッド嫌いのゼロとイケメン好きのルリの奇蹟のコラボによって誕生したわけね。このハンパな死神感…なんというか、脱力感が拭えない。
「気持ちは分かるが…死神って怖さ最重要だろ…?絶対、スカルマスクはフルで顔を覆うべきだと思う…」
大事なものを見失ってないか?
人の範疇に見える時点でアウトだろう。
死神的怖さバロメーターがギュンギュン下がってる感じがする。
「大丈夫!充分怖い!」
ゼロはキッパリと言い放ったが、多分それゼロ基準だな…。
黙ってスカルマスクで顔全体を覆ってみたが、ルリは怒るしゼロはカエンの後ろに隠れるし…あーあ…俺的には納得いかないが、ハンパ死神でいくしかないらしい…。
「ハクっ、今度はこれな!」
急に右腕を引っ張られ、スケッチブックをグイグイと押し付けられる。ブラウ一押しのそいつは、イガイガの巨大な金棒を持った…赤鬼か? ん?ちっこくなんか書いてあるな。
…身長5m!?
外ならいいけど屋内だと厳しくないか?悩んでいたら、今度は左の袖をユキが引っ張る。
「えー、こっちがいい~。これ、変化してみて欲しい!!」
…なんだこれ。
ガジュマルの…樹…?
大きく枝を伸ばす立派な樹。
幹は多数分岐して繁茂し、気根が幾筋も幾筋も地面に向けて垂れ下がっている。複雑にからみ合い、不思議な生命力を感じる神秘の巨木だ。
「…え?樹に変化するのか?」
「ああ、昨日話してる時に、部屋のオブジェっぽいのに変化するのも面白いって話になってなぁ」
カエンが説明してくれる。
「それが急に攻撃してきたら挑戦者もビックリするんじゃねぇか、ってさ」
「すっごい沢山アイディア出たんだよ?ほらっ!」
ユキが開いたページには、所狭しと沢山の絵が描かれていた。
「え…要は騙し討ちするって事か?」
「うーん…そうなっちゃうけど、その中でもこの樹なら垂れ下がってる…枝?根っこ?これがムチみたいに使えるかなって」




