濃いめの挑戦者達⑲ 10/7 1回目
痛ってぇ…!
ナイフなんか隠し持ってやがったのか!!
素早くナイフを抜き、迎撃態勢に入ろうとバッと顔を上げる。
ガキィ…ン!!!
あっ…危ねぇ!!眼前に迫った剣をすんでのところで受け止めた。間髪入れずにヤツの左腕が、下から抉るように振り上げられる。
体を捻って避けるが、脇腹から胸にかけて4本の爪痕が走り、血が流れた。
くそ…!ただのガントレットだと思ったら、仕込み爪か…!
幾つもの武器がありながらここまで隠し通し、剣一本で戦ってきたとは…さすがバトルマスターを名乗るだけはあるな。隠し玉はギリギリまで隠してこそ意味がある。
内心バトルマスターを称賛したいところだが、あいにくまだまだ真剣勝負中だ。
俺が回復魔法を唱えるのを聞き、「チッ」と舌打ちしながらバトルマスターが更に剣を連続して突き出してくる。
さっきのコンボでカタを付けようと思ってたんだろうが、甘いぜ!こっちは地獄のような特訓を毎日受けてるんだ。そう簡単に負けてたまるか!
剣を突き出してくる腕を狙って下から盛大に蹴り上げてやった。
「しまっ……!!」
後ろに仰け反りガラ空きになった腹に、武器をヌンチャク状にしたまま連打。前のめりになった後頭部へ仕上げに軽く回し蹴りを決める。
かろうじて意識を保っているのはさすがだが、HPはほぼすっからかんだろう。
ここまでだ。
せっかくだからカエンっぽくシメてやるか。カエンから言われ続けてめっちゃムカついた事を、そのまんま言ってやる。
「おいおい、これでお仕舞いかぁ?おめーは進歩しねぇなぁ」
オマケで見慣れたニヤニヤ笑いを付けてやった。
「カ…カ…カエン…!?」とうわ言のように呟いたまま気を失うバトルマスター。
…しまった、効果覿面すぎたか。
カエンへの更なる恐怖心を植え付けてしまったかも知れない。
悪ノリが過ぎたと反省する。
「ブレンディさん!?うそぉ!」
驚愕の叫びをあげる女召喚師に瞬時に近付き、首に手刀を当てる。女召喚師はあっけなくくずおれた。
「ジョーカーズ・ダンジョン挑戦者、全員が気絶により残念ながらリタイアです!」
キーツの声の向こうから、わあっという歓声が聞こえる。カフェのお客さんにもどうやら満足いただけたようだ。
俺は密かに、ホッと息をついた。
安心した途端、急にスラっちが心配になる。爺さんにコテンパンにやられたスラっち…大丈夫だろうか…。
俺がボス部屋に移動する直前に見た時は、形も保てないほど落ち込んでいたスラっち。
マジで大丈夫かな…。
普通のスライムから、頑張って頑張って進化して、スライムエニグマとかいう聞いた事も無いようなスライムにまで進化した、努力家のスラっち。
本当に、マジで強い。
このダンジョンが、ギルドの訓練施設としてオープンしてからずっと、ボスとして闘ってきたが、俺はスラっちが負けたのを見たことが無かった。
…ついさっきまでは。
初めての敗北に、スラっちの落ち込みようは凄かった。
形も崩れ、色も変に白くて、なんだかもう見てられないくらい可哀想で…。
ひっそりと回復し、ノロノロとボス部屋を出て行ったスラっちを、俺達は見守る事しか出来なかった。
あれから結構時間経ってるし、そろそろショックからも立ち直ってるかも知れない。スラっちが落ち込むなんて初めてだから、何か役に立てればいいんだが…。
俺はマスタールームに戻りながら、インカムで問いかける。
「なぁ、スラっち大丈夫か?今どうしてる?」
僅かな間のあと、ゼロが「わかんない…」と困ったような声で言った。
「皆ハクのデビュー戦見てたから…今どこにいるかもわかんないよ…」
それもそうか。
「分かった。…ユキ、悪ぃんだがちょっとブラウ連れて、スラっちを探しに行ってくれねぇか?」
「うん、いいよ!すっごく落ち込んでたし…心配だもんね」
ユキはすぐさま捜索に向かってくれたようだ。ユキなら幻狼だから鼻がきくし、ブラウはスライム語が分かるから、何かあれば通訳できる。
…ひとまずこれでいいだろう。
早く見つかってくれれば俺も安心できるんだが。ユキ達とは入れ違いで、マスタールームに戻る。
俺は戻るなり、盛大な祝福を受けた。
「ハクっ!!初勝利おめでとう~!!」
ゼロも満面の笑みだ。
そうか…俺、勝ったんだよな…。
戦闘が終わってホッとした途端、すぐにスラっちに気が向いて、なんだか勝利の実感が湧かなかったが…そうか。そうだよな。
フツフツと喜びが湧き上がってきた。
「やったじゃない!」
「なかなか見事な戦いでしたな」
ルリとグレイも珍しく褒めてくれる。
なんか、地味に嬉しいもんだな!
「…ありがとう」
そう言いかけたところで、ルリの声に遮られる。
「変化もなんだかんだ言ってノリノリでやってたじゃな~い!」
「あれは予想より、かなり良い戦法でしたな」




