濃いめの挑戦者達⑱ 10/6 2回目
「今度はスライムですかぁ!?」
「ああ~…美しい人が…スライムに…!」
「ていうか、どこ行った!?」
残る3人の挑戦者達は、三人三様の感想を口にする。そして、やっぱり体が小さいと、この18面ダイス的全面鏡張りの部屋に溶け込んじゃうんだな。
ぴょんぴょん跳ねながら挑戦者達の後ろに回りこむ。さすがにこの姿でどう攻撃したらいいか分からない…。スラっちすげぇな…。
俺はロボに変化した。
「おお~!!ロボだぁぁあぁぁ!!」
キーツの声で耳がキーン!とする。
アナウンスは基本、リタイアみたいな重要情報以外は入ってこない筈なんだが…興奮のあまり切り忘れたらしい。
挑戦者達が耳を押さえながらも、一斉に振り返る。
くそっ!
どデカい腕を振り回し、挑戦者達を吹っ飛ばしたあと、俺は瞬時に男魔術師を追う。回復役を片付けてしまえば、戦闘が一気に楽になるからな!
壁に激突し力なく床に落ちる男魔術師。瞬時に近づき首に手刀を入れる。
「ジョーカーズ・ダンジョン挑戦者、魔術師のロッカースさん、気絶により残念ながらリタイアです!」
よし…!
しかし相手を絶対に殺さずに無力化するってのは気を遣うな。殺せないようにガードがかかってるとはいえ、もしも…って考えるとKO技は限られてくる。ダンジョンモンスター達の苦労を実感するハメになった。
ホント皆よくやってるよ…。
「くそっ!ロッカース…!」
バトルマスターが悔しげに呻く。俺は不敵に笑いながら「二人め…」と低く呟いた。
「 ブレンディさん!杖取り戻して下さい!!お願い!」
女召喚師が必死に叫ぶ。終始軽い調子だったのに、さすがに危機感が出てきたか?
「…よし、任せとけ」
バトルマスターの雰囲気が変わった。
これは心してかからないと…。
今のところ戦闘系の姿は女豹の獣人だが…バトルマスターが相手だと面倒臭いし気持ち悪い。
もうイメージ気にしないで、魔術師爺さんで格闘するか?それともなんか他の姿…あったっけ…?
俺はチビ達に頼まれて変化した、数々のラインナップを必死で思い出した。
…あっ…面白いのがあったな。
俺は瞬時に変化する。
「へ!?…カ、カエン?」
「安心しろ。本物じゃない」
ニヤリと笑って蹴りを繰り出した。カエンの攻撃は結構足技が多いんだ。地獄の修行を思い出しながら、連続して技を放っていく。
「どうした。遠慮せずに反撃しろよ」
なぜか防戦一方のバトルマスター。やっぱり知り合いとは戦い辛いのか?
「卑怯ですよぉ!ブレンディさんはカエンさんに逆らえないのにぃ!」
へ?なんで?
思わずきょとんとしていたら、バトルマスターが鬼のような形相で女召喚師を睨みつけた。
「余計な事を言うんじゃない!」
「ホントの事じゃないですかぁ!カエンさんにボッコボコにされてから、頭が上がらない癖に~!」
何やってんだ、カエン…。
…ていうか、ボッコボコにされたって…何やったんだバトルマスター。
「いいんだ!これはあの恐怖を乗り越えるチャンスだ!試練なんだ!」
燃えるような目で俺を睨んでくる。
「…いや、俺カエンじゃないからな?」
「いきなり本物に挑めるかぁ!お前、その姿変えるなよ!まずはお前を倒す!!」
ええーー!?
なんだそれ、俺関係ないぞ!?
そんな個人的なカエン超えに使われても!
「動け俺の足!こいつはカエンじゃないんだ!いける筈だ!」
自分に言い聞かせながら、俺に突進してくるバトルマスター。
ああもう…!
どうしていちいち、こいつの面倒臭いスイッチを押しちまうんだよ…!
振り下ろされる剣を躱して、そのまま回し蹴りを入れる。「ぐはっ!」と呻き、体を折るバトルマスターの背中に体重を乗せたエルボーを決めてやった。
「くっ…なんで…!動きまでカエンそっくりなんだ…!」
いやぁ、そりゃカエン直伝だからな。当然っちゃ当然だろう。だが、それを教えてやる義理もない。
「さぁな。なんでだろうな」
俺はカエンっぽくニヤニヤ笑って、バトルマスターの攻撃を躱してはカウンターの大技を決めていく。次第にバトルマスターの動きも鈍くなってきた。
「勝てる気配ないじゃないですかぁ!せめて杖だけでも奪い返して下さいよぉ~。こんなの、生殺しですぅ」
ブレンディさんのバカぁ~、と女召喚師は涙声だ。目に見えてバトルマスターのHPが目減りしていくのに、何も出来ないのがもどかしくて仕方ないんだろう。
「うるせぇ!これは漢の勝負なんだ、黙って見てろ!」
「そんなワケの分からないこだわり、不要ですよぉ~!」
メソメソしている女召喚師を振り切って、バトルマスターが精神統一を始めた。
これは…何か大技をだすつもりだな!
俺も無意識にムチを取り出す。
バトルマスターの体を赤いオーラが包む。体の前で円を描くように剣を振った途端、激しい竜巻が発生し、真っ直ぐに俺に向かってきた。
突然発生した竜巻に体が押され、体勢を崩したところに、風を切ってナイフが飛び込んでくる。
俺の太腿に3本、脇腹に2本、左肩に1本が突き刺さった。




