濃いめの挑戦者達⑧ 10/1 2回目
「ふ…えぇ…ん…カナちゃん…ごめ…ん…!」
ポニーテールちゃんの側で、女の子座りで泣きじゃくる金髪メガネくん。
気持ちは分かるが、絆創膏が一人でポイズンスライムを引き受けてるのを思うと、泣いてる場合じゃないだろうと一喝したくなる。
やきもきしていたら、金髪メガネくんはポニーテールちゃんの顔を優しく撫で、ついに言った。
「ごめんね…。僕…僕が…守るからぁ…」
泣きながらも立ち上がる。
おお…!それでこそ男の子だ!
剣をがっと手に取ると、金髪メガネくんは走り出した。目には強い光が宿っている。
「うわあぁぁぁあぁぁッ!!!」
あまりかっこよくない叫び声をあげながら、絆創膏にたかるポイズンスライムを切り裂いた。
「ラウェル!?」
絆創膏はドングリ目をさらに見開いて、驚きまくっている。
「ごめん!僕もちゃんと戦うから…!」
どういう事だ。
金髪メガネくんが凛々しく見える。
絆創膏はさらに驚いた顔をしたが、すぐに、最大級の笑顔を見せた。戦闘中のポイズンスライムにトドメをさし、残る一体を指差す。
「ラウェル…あいつ、頼む」
既に絆創膏からも傷を受け、あちこち切れているポイズンスライム。
金髪メガネくんは、唇を引き結び、またへなちょこな叫び声を上げながら、必死でポイズンスライムに切りつけ…ついに倒してしまった。
「はは…やるじゃん…」
弱々しい声で金髪メガネくんを褒めながら、絆創膏はぐったりと座り込む。どうやらかなり毒を受けたようだ。
「クロード!どうしたの!?大丈夫!?」
金髪メガネくんが真っ青になって駆け寄る。絆創膏はそんな金髪メガネくんに、ニッと笑いかけた。
「…なぁラウェル、お前やればできるじゃん。カナの後ろに隠れてないで…これからもさ、たまには一緒に冒険しようぜ!」
「うん…うん、でもっ…クロード顔が変な色だよ!?だ、大丈夫なの!?」
絆創膏は金髪メガネくんを安心させるためか、またニッと笑って見せる。10歳程度でも、ちゃんと侠気があるんだな。
「へへ…毒受けたみたいだ。カナもあんなだし…リタイア、しよう…」
「…!!…毒!?た、大変だっ!リタイア、リタイアします!!!」
慌てふためいた金髪メガネくんの声が響き渡る。
「プリンセス・ロード挑戦者の皆さん、宣言によるリタイアです!弱冠10歳の可愛らしい挑戦者達、よく頑張ってくれました!皆さん、盛大な拍手を!!」
キーツのコールに、カフェからは盛大な拍手が巻き起こる。
いや、よく頑張った。
金髪メガネくんがひとつ成長できた瞬間も見る事が出来て、まあまあ満足だ。
「ルリ、プリンス・ロードはどうだ?」
「残念、こっちもたった今全員リタイアよ。…って事で、治療に行ってくるわ」
もはや手慣れた様子でマスタールームから出て行くルリ。近頃はダンジョンに挑戦した猛者達から、癒しの美女とかなりの人気を誇っているらしい。
……しゃべらなきゃ、ホント絶世の美女だからなぁ…。挑戦者の皆様の為にも、くれぐれも余計なシャベリは控えて欲しいところだ。
「グレイ、キング・ロードは?」
「いやぁ、なかなか楽しませてくれてますがね。ことごとくトラップに引っかかっておりますな」
え…?キング・ロードに挑戦するくらいだから、レベルだってそれなりに高いだろうに。
「5人で挑戦したと言うのに、もう2人脱落してますからね…。最後まで残れるかは、やや心配ですな」
グレイの見立てに不安を覚えつつ、残る3人のステータスを見ようとした時、ゼロが俺を大声で呼んだ。
「ハクっ!悪いけどジョーカーズ・ダンジョンのモニターチェックに戻って!どっちも動きが激しくて、一人じゃチェックムリ~!」
悪い事をしてしまった。
スライム・ロードの爺さん達も、ジョーカーズ・ダンジョンの4人パーティーも、かなり個性が強い。
確かにゼロ一人で両方のモニターチェックは難しいだろう。申し訳なく思いながら、慌ててジョーカーズ・ダンジョンのチェックに戻る。
彼らはまだ第1層にいるようだが…周囲の景色は明らかに変わっている。
これは…毒の沼地…?
もはやマグマは無いが、代わりにボコボコとデカイ泡をたてる怪しい色の沼がそこかしこにある。立ち枯れた樹々も不気味なホラーなイメージ。
「おいゼロ、ひとつのフロアにマグマも毒もあるのか?」
「うん、今回はそうだね。このダンジョンの挑戦者達くらいになると経験も豊富だからさ、ひとつじゃつまんないでしょ?」
いや…そんな気遣いはいらないんじゃないかな…。
そしてモニターの向こうでは、相変わらずバトルマスターがワガママを言っている。
「毒の治療くらい、ロッカースが簡単に出来るだろう?ちょっと行ってくる」
うん、また毒の沼地の真ん中にちょこんと置いてある宝箱を巡っての会話だな。もはや仲間達もバトルマスターを止めない。
こりもせずに鎧を脱ぎ、沼地に大ジャンプ!




