濃いめの挑戦者達⑦ 10/1 1回目
「なっ…なんじゃこの数は!」
「見た事ないスライムばっか…」
だ、大丈夫か爺さん達…!
顔色悪いぞ?
「痛ぅっ!!なんじゃ!?棘か!?棘を吹き付けて来よる!」
こっちでは、もう戦闘が始まったようだ。それを見た戦士爺さんは、大声で叫ぶ。
「さすがに不利じゃあ!走れ!スライム地獄を抜けるんじゃあ~!!」
言うが早いか、ジャングルの中を生い茂るシダをぶった切りながら、猛然と走り始めた。
状況判断が早くて的確…熟練とはこういう事を言うんだろう。走りながら、追いすがるスライム達を撃退していく。
「ああ~!サーヤが見てるのに~!多分殲滅できるって!」
孫にカッコイイところを見せたい魔術師爺さんは、逃げるのが遺憾なようだ。走りながらも積極果敢にスライム達を迎撃していく。
「こんなジャングルん中で大魔法でもぶっ放すつもりかぁ!お前の見栄はどうでもいいんじゃあ!」
戦士爺さん、一喝。
うん、戦士爺さんの方が正しい。
「サーヤぁ、おじいちゃんは逃げてるわけじゃないからな~!これは作戦だぁ~!!」
魔術師爺さんの叫びが虚しく響く。
逆にカッコ悪いですよ、魔術師爺さん…。
いやぁ、スライム・ロードとジョーカーズ・ダンジョンの挑戦者達が濃過ぎて、他のダンジョンを見る暇なかったな。
他のダンジョンはどんな様子なんだか。
「ユキ、プリンセス・ロードはどんな感じだ?」
「えっとね、中間ゲートを通ったとこだよ~?まだ10歳くらいの子達が3人」
「チビっ子じゃねぇか!」
「うん、何とか勝ててる感じ。ハラハラする…次くらい、ヤバいかも…」
心配なのかユキの眉は悲しげに下がり、耳もシッポもシュンと垂れている。
10歳か…。今日のダンジョン挑戦者は年齢の開きが激しいな。
モニターを見てみると、確かにちびっ子3人組が身を寄せ合って進んでいる。
先頭を進むのはキカン坊そうな男の子。ツンツン頭にでっかいどんぐり眼、顔や腕あちこちにでっかい絆創膏が貼られている。
あとの二人が後ろに隠れるようにして進んでいるところを見るに、この絆創膏がリーダーなんだろう。
三人とも小ぶりの剣と小さめの盾を持ってはいるが、金髪メガネの男の子は、盾に隠れるようにして歩く姿さえへっぴり腰だ。
逆に紅一点の女の子の方が勇敢なようで、しきりに大丈夫だから、とヘタレな金髪メガネを元気づけている。
情けないぞ、男だろ!?と、言ってやりたい。
3人は本当に街の子供のようで、職業欄は空欄。ダンジョン挑戦者、年齢制限した方がいいかも知れないなぁ。
…などと考えている間に、ちびっ子達がモンスターに遭遇した。
中間ゲートを過ぎたら、出会うモンスター達も少し強い。ちびっ子達…大丈夫だろうか。
絆創膏は剣を握り締めて、一歩前に出る。相手はポイズンスライム3体、ウルフ1体。
…子供には過ぎたる敵だ。
それでも二人を守ろうと、前に出た絆創膏は、なかなか勇敢だが…さすがに足は震えている。
そして後ろの二人は…なぜか女の子が、金髪メガネくんの前で、盾をがっちり構えて立ってるんだが。
金髪ポニーテールを勇ましく揺らし、「あたしが守るから!」と眉を釣り上げている女の子。
願わくば、金髪メガネくんのお姉ちゃんであって欲しいな…。
「グルルルル……」
威嚇するようにウルフが唸り、ちびっ子達の周囲を周り始める。飛びかかる隙を窺っているんだろう。
しかし、最初に飛びかかったのは、なんとポイズンスライム達だった。ウルフに気をとられた隙をついた見事な連携プレイで、次々とちびっ子達に襲いかかる。
「うわぁぁっ!!」
「痛い!」
ウルフに集中していただけに、完全ノーガードでポイズンスライム達の体当たりをくらうちびっ子達。
よろけたところに、今度はウルフが襲いかかる。
金髪メガネくんにのしかかるウルフ。
獰猛な牙が、頼りない肩を噛み砕こうとしたその瞬間、ウルフの背中に剣が深々と突き刺さった。
剣を握り締め、青い顔で震えていたのは、なんとポニーテールの女の子。金髪メガネくんの危機に、無我夢中で剣を突き立てたんだろう。
剣からゆっくりと手を離し、自分の両手を見つめたかと思うと、ふっ…と、糸が切れたように倒れてしまった。
可哀想に、ウルフを刺した感触は、彼女には耐え難いものだったようだ。
「カナちゃん!」
金髪メガネくんが叫ぶ。
だが、ウルフは悶絶し、血を大量に流しながらも、まだ金髪メガネくんを何とか抑えつけている。
「どけ!どけよ!」
激しく暴れ出す金髪メガネくん。
ウルフは苦しみながらも、抑える力を緩めない。
「うわぁぁあぁぁぁッッ!!!」
ついに、金髪メガネくんが剣を振るう。腹側から突き上げた剣は、ウルフの心臓を突いていた。
力なく、倒れ伏すウルフ。
金髪メガネくんは、しゃくりあげながらウルフの下からなんとか這い出し、ポニーテールちゃんの元に急いだ。




