濃いめの挑戦者達⑥ 9/30 2回目
「ここのボススライムは、負け知らずらしいぞ」
ニヒルに笑う盗賊爺さんの言葉に、喧嘩っ早い戦士爺さんは、ニヤリと笑い返す。
「そりゃあ調子に乗っとるじゃろう!いっちょ叩きのめさんといかんなぁ!スライムごとき、相手ではないわ」
そう言いながら、跳ね回るウィップスライムを両断する。
爺さん達にかかると、第二ステージの個性派スライム達ですら、世間話しながら倒せてしまうものなのか…?
「…おい、筋肉バカ!新手だ。話してる暇があったらサッサと手伝え!」
魔術師爺さんが杖で指す先には、ミラースライム。魔法を跳ね返すミラーガードと合成された、魔術師は戦いたくないだろうスライムだ。
それを見てとった戦士爺さん、チラリと魔術師爺さんを一瞥し、ソッポを向いた。
「ああん?助けて欲しい時には何て言うんじゃったかの~?孫の教育に悪くないかの~?」
うわぁ~…。いい年して大人げない…。
魔術師爺さんは悔しそうに唇を噛んだが、「くっ…サーヤのため…。サーヤのため…!」と呪文のように唱えている。
絞り出すような声で、ついに言った。
「あいつ、魔法反射するから…物理攻撃で倒してくれ…。た…の…む…!」
…何とか言えた。
頑張った感がハンパない。
なんせ魔術師爺さん、握り拳がプルプル震えてるし。爺さんになっても、お互い素直になれない関係性ってあるんだな。
盗賊爺さんと格闘家爺さんも、さすがに苦笑している。
「二人とも相変わらずだな」
「ガレットの方がちっと進歩したかの」
「うむ。孫のおかげよな」
二人は笑いながら、次々にわらわらと集まってくる迷彩柄のスライムと戦い始めた。
あれ?このスライムは初めて見るな…。
合成した記憶もない。
ゼロも疑問に思ったのか、ダンジョンコアで確認している。
「わっ、普通のスライムから進化した子達なんだね!ジャングルに合わせて進化したんだ」
普通のスライムよりふた周りほどデカく、迷彩柄を身に纏う、カモフラージュスライム達。いつの間にか、相当な数分裂している。
爺さん達の周りを囲んだかと思うと、一斉に霧を吐き始めた。
「おっ…なんだ…?」
「目くらましか?」
爺さん達に焦った様子はなかったが、見る間にカモフラージュスライムは数を増し、濃密な霧が立ち込める。
その瞬間。
バリバリバリバリッッ!!!
轟音と共に、激しい閃光が辺りを包んだ。
「…っ!雷系の魔法か!」
「ぬぅっ!小癪な!」
濃霧で何も見えないが、爺さん達もそれなりにダメージを受けたようだ。ゴホゴホと咳こむ声も聞こえてくる。
強いとはいえご老体だから心配だ。
大丈夫だろうか…。
「ガレット!早く何とかせんかぁ!」
戦士爺さんが怒鳴る。
…なんだ。元気みたいだな。
「うるせー、役立たずは黙ってろ」
不機嫌そうな魔術師爺さんの声。
それでもすぐに、詠唱が聞こえてきた。
「…ドライブリーズ」
魔術師爺さんの囁きと共に、一瞬で霧が晴れ渡る。
この前の魔族魔術師は、霧を払うのに仲間ごと風でぶっ飛ばしていたが、この魔術師爺さんは、仲間にダメージがないソフトな魔法を使ったようだ。
さすが、年の功だな。
霧がはれた瞬間、ドミノ倒しのように、カモフラージュスライム達が次々となぎ倒されていく。
まさに一瞬の出来事だった。
「シーズさすがじゃの!百発百中じゃ!」
ガッハッハッ!と盛大に笑いながら、戦士爺さんは盗賊爺さんの背中をバンバンと叩いている。
…盗賊爺さんの手柄って事か?
よく見ると、倒されたカモフラージュスライム達には確かにナイフが刺さっていた。
意外にすげぇな、盗賊爺さん。
そう感心していた時。
バリバリバリバリッッ!!!
またもや轟音が鳴り響き、激しい閃光が辺りを包む。
「カハッ…!」
スライム達を倒したと思い込んでいたらしい爺さん達は、再びもろに雷撃をくらってしまった。
口から僅かに煙を吐いている。
相当のダメージを負ったようだ。
魔術師爺さんは回復魔法を唱え、他の三人は周囲に目を馳せる。
「おった!あやつじゃ!あの黄色いスライムじゃ!」
「むっ?待て…こっちにも…」
「なんだ?…囲まれてる…?」
あっちからこっちから、色とりどり、形も様々なスライム達が覗いている。
樹々が生い茂るジャングルの中でも、嫌でも分かってしまうくらい大量のスライム達が、爺さん達を取り囲んでいた。
爺さん達はさすがに息を飲んでいるが、うちのマスターは顔を上気させ、超嬉しそうだ。
モニターを覗き込みながら、「あはは、めっちゃぴょんぴょんしてる!可愛い~!」とニコニコしている。
いやぁ、挑戦者から見たら結構イヤな光景だと思うぞ?
しかし、かつてこれほどの数が一斉に出現した事はない。まさかスライム達、爺さん達が強敵だからって、総力戦に出たりしてないよなぁ…。




