濃いめの挑戦者達⑤ 9/30 1回目
バトルマスターの頭部に向かって振り下ろされる、バーニングベアの太い腕。
しかしその腕に、ナイフが一斉に降り注いだ。7本ものナイフを受けて、一瞬だけ腕の振りが鈍る。
バトルマスターは、瞬間生まれた隙をついて、大きく後ろに飛びのいた。バーニングベアの腕は虚しく空をきり、最後の攻撃は不発に終わる。
無念の咆哮と共に、バーニングベアの体は地響きをたてて崩れ落ちた。
「ふい~…結構、やばかった…」
荒い息をつきながら、バトルマスターは額の汗を拭っている。なかなかキレのある動きだったけどなぁ。
「全く…ボロボロじゃないの。装備全部脱ぐなんて、バカな事するからよ」
女盗賊が呆れながら、鎧が入った袋を投げる。
「それ着て、すぐにヘルプに入って!モンスターが増えてるわ」
言い置いて、すぐに踵を返す女盗賊。
見れば、女召喚師もかなり苦戦しているようだ。
マグマンに加え、火鼠2体、火蜥蜴1体が加わって、かなり賑やかなバトルになっている。
確かに召喚師と魔術師の、魔法系コンビだけでは荷が重いだろう。
「ロッカースさん!その、ちんまいネズミ、お願いします!」
「リョーカイ!!」
詠唱を始めた男魔術師に、女召喚師がさらに叫ぶ。
「あっ!息の根止めるレベルのヤツで!ハンパな攻撃だと分裂しましたぁ!」
「マジで!?」
慌てて詠唱を止める男魔術師。
攻撃で分裂するモンスター もいるって聞いた事あるけど、火鼠がそうなんだなぁ。
「どのレベルで分裂した!?」
「アイスボールはダメでしたぁ!」
男魔術師は渋い顔をする。
「…ちっちゃい癖に厄介だな。」
愚痴りながらも新たに魔法を詠唱し、高らかに杖を掲げると、杖から無数の氷の矢が出現する。
氷の矢は恐ろしいスピードで火鼠達に向かって放たれ、一斉に小さな体に襲いかかった。
「ギュイィィー!」
小さな断末魔をあげ、火鼠達が息絶える。
「よしっ!」
男魔術師、小さくガッツポーズ。
続いて火蜥蜴に魔法を放とうとした時、男魔術師の後ろから大きな影が飛び出した。
「…ブレンディ!」
男魔術師の顔に、ホッとしたような笑顔が浮かぶ。そして、次には眉間にシワが寄った。
「…相変わらず、無茶するよ…」
小さく呟き、詠唱に入る魔術師。
多分、回復魔法だろう。
一方、女召喚師は様々な召喚モンスターを呼び出しては、マグマンを果敢に攻めている。
度重なる氷系の魔法攻撃を受け、マグマンの体は既にあちこち黒く色を失い、あまつさえひび割れ始めている。
巨体を揺らし、女召喚師を捕らえようと近づいては、手痛い魔法攻撃を受けている状況だ。
「こっちよぉ?にぶいなぁ」
相手がマグマンだけになり、余裕の表情を浮かべる女召喚師。
「これでサヨナラ♪」
楽しそうに召喚したのは、巨大ハンマーを担いだ、スキンヘッドのイカツイ大男だった…。
上半身裸のムッッッッサイおっさんだ。
無駄に白い歯が眩しい。
…なんだか、ムサ兵士20人を相手に特訓していたあの頃の、嫌な記憶が蘇る。ボス戦でこいつ出されたら、ちょっと泣いてしまうかも知れない…。
スキンヘッドのおっさんは、巨大ハンマーを振りかぶり、マグマン目掛け…
叩きつける。
叩きつける。
叩きつける。
ひたすら、叩きつけた。
轟音が響き、溶岩石のカケラがバラバラと飛び散る。
「あちっ!危なっ!!」
味方にもそこそこ被弾しているが…。
マグマンは腕が飛び、体の半分以上が吹っ飛ばされ…ついに体の核の部分を壊されて、バラバラと崩れ去ってしまった。
時を同じくして、バトルマスターも火蜥蜴を撃破する。
戦闘の幕切れは、意外とあっけなかったが、挑戦者達は厳しい表情で、ため息をついた。
「まだ序盤なのに、結構な魔力と体力使っちゃいましたね~…」
「そうね。魔力も体力も…時間も…。節約していきたいところね」
そう呟やきつつも、バトルマスターを見る女盗賊は、どこか諦めた目をしている。
気の毒に…。
「ハク!ハクっ!凄いよっ!おじいちゃん達、凄いよ~!!」
突然、ゼロに肩を掴まれ、凄い勢いで揺さぶられる。
なにがあったんだ、一体…。
興奮冷めやらぬゼロに、ガクガクと揺さぶられながらモニターを見ると、爺さん達はすでに、スライム・ロードの第二ステージ、ジャングルまで進んでいた。
第一ステージの中ボス、スーパースライムは相手にもならなかったらしい。スーパーの名を冠している割に、残念なヤツだ…。
爺さん達はただ今戦闘の真っ最中。
ただ、生い茂る樹々が邪魔で、スライム達が何体いるのか、パッと見では判別できない。
「 ふむ、ちっとは相手になるようなヤツが出て来たかのぅ」
「ワシらでも見た事のないスライムが、わらわら出て来るもんじゃな!」
爺さん達は楽しそうで、何よりだ。




