濃いめの挑戦者達④ 9/29 2回目
「えー…?この先ブレンディさんが、考えなしに宝箱達に挑み続けると厄介なんで…」
「予防策よ。説得とか無駄ですもの」
…説得無駄とか、どんだけ我が道行ってんだよ、バトルマスター…。
「そうだ!無駄だぞ!」
デカい声が響く。
「あ、ブレンディ…」
いつの間にかバトルマスターが起き上がっていた。首をゴキゴキと鳴らしながら立ち上がると、鎧などを手持ちのデカい袋に入れる。
「宝箱は回収しながら、最短でダンジョンを攻略すれば文句ないだろう」
自信たっぷりのバトルマスターに、女盗賊は不満げに言い返す。
「…普通のダンジョンと違って、時間制限があるのよ?逃げる宝箱なんか、追いかけてる暇はないわ」
バトルマスターはそれでも眉一つ動かさない。鎧を入れた袋を担ぐと、スタスタと歩き始めた。
「ちょっと!」
「大丈夫だ。ヤツの動きは見切った」
……へ?…ヤツって、まさか。
「ヤツって…逃げる宝箱の事?」
男魔術師が、キョトンとした様子で聞き返す。
「ああ、一定のパターンがあるからな。もう逃げられたりしねぇ。それなら問題ないだろ?」
ま…マジか!
俺は唖然とした。それが本当なら、さすがにバトルマスターと言ったところだ。戦闘センスはなかなかのものだと思う。
バカっぽいと思った事をちょっと反省。
最終的に俺も戦うかも知れない相手だ。ここは是非、実力の程を確かめたいところだが…。
「なぁゼロ。あの逃げる宝箱、この先にもあるのか?」
「うん。マグマ部にもその先にも、合わせてあと3個設置されてる」
なるほど、じゃあ実力が確認できるな。
楽しみな展開になってきた!
モニターを見ると、他のメンバーも、しぶしぶ進み始めている。そして挑戦者達は、すぐにまたマグマの向こうに宝箱を発見した。
「早速ね」
「宝箱の出現頻度、高いですねぇ~」
女性陣がいや~な顔をして、宝箱を見やったその瞬間。
「グオォォォオォ!!」
突然の咆哮が、響き渡った。
ハッとして、振り返る挑戦者達。
彼らの目に映ったのは、赤銅色のグリズリーに殴り飛ばされた、男魔術師の姿だった。
「ロッカース!!」
大きな弧を描いて、ゆっくりと落ちていく男魔術師。その先には運の悪い事に、マグマが広がっている。
「くっ…!!」
バトルマスターの動きは早かった。
男魔術師を追って、マグマをものともせずに走る。落ちる寸前、しっかりとキャッチした。
「うぅ…ごめ…ん、ブレンディ…」
「いいから、早く回復しろ!」
魔術師は防御力が低い。バーニングベアの重い攻撃を受け、背中には深い爪痕、肋骨も何本かいってしまったようだ。
息も絶え絶えに詠唱し、男魔術師が光に包まれた時、二人の側にゴボゴボと音を立てて不吉な泡がたつ。
反射的に、男魔術師を抱えたまま、バトルマスターはマグマの領域から飛び出した。
彼らがいたその場所には、マグマを身に纏ったゴーレム…マグマンが現れている。一瞬逃げるのが遅かったら、二人ともあの灼熱の腕の餌食になっていたかも知れない。
「私が、あの溶岩男と戦います!ブレンディさんは、熊さんをお願いします!!」
女召喚師が叫び、そのまま詠唱に入った。確かにあの溶岩を纏った体には、術系の方がまだ分がありそうだ。
杖から出て来たのは、真っ青な硝子細工のような、小さいフェアリー。大きな黒い瞳、透き通る肌、とても愛らしい姿だ。
「あの溶岩男に、氷の矢!」
女召喚師の号令で、フェアリーちゃんは容赦ない氷系の魔法を放ち始めた。
一方バトルマスターは、バーニングベアに向かって駆け出していた。
走っている間にも、男魔術師の回復呪文がバトルマスターの体を包む。さっきマグマに入った時の傷を癒しているんだろう。
「ブレンディ!剣を投げるわ!」
背後から投げられた剣を走りながら受け取り、バトルマスターはそのままバーニングベアに切りかかる。
3m近くあるバーニングベアの巨体を、腹から胸へ、下から抉るように剣を振り抜いた。
鮮血がほとばしる。
「グガァァアァァァっ!!」
凄まじい咆哮をあげたバーニングベアの口から、大きな火球が矢継ぎ早に飛び出した。
火球は次々とバトルマスターを襲う。
「ぐあっ!…くそっ、何発も無駄に火球吐きやがって…!」
全身鎧を脱いだ、ぺらっぺらの薄い防具…というか、ただの服しか身に付けていないバトルマスター。
火球を何発も受けたせいで、既に布の服は焼け焦げだらけの穴だらけ、ボロ布レベルにまでなり下がってしまっている。
上半身裸同然のバトルマスターを、バーニングベアの鋭い爪が襲う。
巨体に似合わない俊敏な動きで繰り出された攻撃が、彼の肩を抉った。
だが、バトルマスターは痛みに顔をしかめつつも、そのまま敵の懐に飛び込んで、渾身の力で心臓に剣を突き刺す。
断末魔の叫びを上げるバーニングベア。一矢報いようと腕が動いた。




