濃いめの挑戦者達①
な、なるほど…。
腕に覚えがある熟練冒険者って、このレベルか…。それは、武闘大会ともなれば、黙ってられないだろう。
モニターの向こうの爺さん達は、あくまでも元気だ。
「それにしてもこの年でこの筋肉とは、まだまだ衰えちゃあいねぇようだな」
盗賊爺さんが、戦士爺さんにニヒルに笑いかけた。
戦士爺さんは、ガッハッハッ!と盛大に笑いながら、自分の大胸筋をバチーン!!と叩いて見せている。
ひぃぃ…なんかムサ熱い男、ザイガン兵士長を思い出すんだが!
俺の若干ヒキ気味な気持ちとは裏腹に、戦士爺さんはすこぶる上機嫌だ。
「当たり前じゃあ!毎日の筋トレは欠かさんからのう!ひょろひょろモヤシのガレットとは違ってなぁ!」
そう言って戦士爺さんが魔術師爺さんの背中をバーン!と叩くと、魔術師爺さんは2m程ぶっ飛んでしまった。
魔術師爺さんから黒いオーラが立ち昇る。かなり怒ってないか…?
「…相変わらずムカつくな。俺にはそんなムダ筋肉は1mmたりとも必要ねぇから鍛えねぇだけなんだよ。筋肉バカが」
怖い!絶対、こっちの爺さんの方が怖い!目が笑ってない!…そしてシャベリが爺さんぽくない…!
俺は戦慄したが、魔術師爺さんは、諦めたように息を吐いて、呟いた。
「…まぁいい。筋肉バカには何言っても一緒だしな。大体俺は孫のために来てるんだ。お前の評価はどうでもいい」
そしてモニターに向かって「サーヤ、おじいちゃん頑張るぞ~!」と信じられない笑顔を見せた。
爆笑する盗賊爺さんと格闘家爺さん。
「あの皮肉屋のガレットが、満面の笑顔!」
「孫とは恐ろしいもんじゃな!」
魔術師爺さんは笑われてもどこ吹く風だ。「なんとでも言え」とさっさと歩き始めてしまった。
追いかけながら、まだも悪態をつく筋肉戦士爺さん。
「ふん!孫の前で入れ歯飛ばして、詠唱失敗しないといいがのぅ!」
「残念ながら俺の歯は全て自前だ」
ケンカしつつ前を歩く二人のあとを、格闘家爺さんと盗賊爺さんは苦笑しながらゆっくりとついていく。4人の後ろ姿には、何十年もそうして冒険してきた、貫禄が漂っていた。
「……なんか、濃いメンツだな」
「うん…。初めてのパターンだね」
あまりの驚きについ見入ってしまった。
うっかりスタートを見逃してしまったが、俺のジョーカーズ・ダンジョンにも、初めての挑戦者が入場していた。
俺のデビュー戦の相手、お顔拝見だ!
ジョーカーズ・ダンジョンに挑むのは、4人の男女。20代後半くらいだろうか、落ち着いた隙のない動きで進んでいく。
「えー…っと、ステータスは…」
バトルマスター:男:レベル58
盗賊:女:レベル54
魔術師:男:レベル48
召喚師:女:レベル52
これくらいの年齢でレベル50オーバーなら、かなりいいペースの成長だ。
しかも、やっぱり高レベルになると、あまり見ない職種がでてくるな。バトルマスターと召喚師は初めてじゃないか?
ウキウキしながらモニターを注視する。挑戦者達は、早くも嫌な顔をしていた。
「…暑いわ」
露出度高め、人目をひくグラマラスボディの女盗賊が、気だるげに髪をかきあげる。…目立つ盗賊だなぁ…。
「ですよね~!ってか、ブレンディさん、暑くないんですかっ!?全身鎧!」
女召喚師が可愛らしくバトルマスターの顔を覗き込む。
女召喚師はヒラヒラのミニスカートにショートブーツ、この中では一番軽装だ。アクセサリーがジャラジャラついてるから、防御力を高める効果があるのかも知れない。
一方バトルマスターは苦い顔で汗を滴らせている。
「暑いに決まってんだろぉ?誰がこんなとこにマグマフィールドがあるとか想像する!?もう鎧自体が熱い!火傷する!」
「僕ももう脱ぎたい…!」
男魔術師も厚手のローブを着込んでいるせいか、既に汗だくだ。
「うわぁ、おっさんが脱いでも楽しくないですからぁ!」
「お、おっさんとか酷い…」
女召喚師の楽しげな毒舌を真に受けて、男魔術師は地味に落ち込んでいる。
「そうですね~…脱がれても困るしぃ、誰かに助けてもらおうかなぁ」
そう呟くと、女召喚師は不思議な呪文を唱えて、杖の先に幾つかある宝珠のうち、小さな青い宝珠に口付けた。
青い宝珠から、光の粒がキラキラと溢れ出し、彼女の周りをくるくると周る。光が集まり形を作ると、そこには青い小さなイルカが、小首を傾げて現れていた。
「キュイっ?」
一声鳴くと、召喚されたのが嬉しいのか、何度もジャンプしては女召喚師にスリスリしている。
可愛い…!
…なんか、こっちまで癒されるな~…。
女召喚師はイルカを愛しそうに撫で、早速指示を出す。
「このフロアを《水属性の領域》に変えてくれない?」
指令を受けたイルカが、フロア中を凄い速度で、泳ぐように周り始めた。
まさか、マグマから水属性に変更とか、出来ちまうのか!?




