ボスへの最終関門②
そしてルリならテンション高い変幻自在のボスキャラが、容易に想像できる。……適役過ぎるんだが。
「ルリのボスキャラは面白そうで捨てがたいけど、もうトラップ&トレジャーのボスキャラは考えてあるんだよね」
ゼロが残念そうに言うと、皆の視線が自然に俺に集まった。
う………。
くそぉ。なんだよ、その目は。
「分かったよ、やりゃあいいんだろ!言っとくが、演技とかはしねーからな!!」
おーーーーっ!!と、歓声があがる。
「わ~い、楽しみ~!!」
「いえ~い!無段階変形~!!」
「さっさとやるって言えばいーのよ!」
皆の好き勝手な声援に、ウンザリした表情で応えていたら袖をツンツンと引っ張られた。
「ん?なんだ…?」
満面の笑みのゼロ。その手には、ノートが握られていた。
「女豹獣人とお爺ちゃん魔術師(樹人)のイメージ画!後ろ姿もあるよ!」
!!!??
驚愕のあまり、思わず口をパクパクさせちまったじゃねぇか!
なんだこのクオリティ!
いつ描いたんだ!
ヒュウ♪ …と、後ろから口笛。
「なんだよゼロ、上手いじゃねぇか!い~い具合のエロさだ!…だがもうちょっとだけ、メリハリが欲しいねぇ」
「えっ!もっと?下品じゃない?」
「いやいや、まだまだいける!」
ルリからゲンコツをくらっているゼロとカエンを見ながら、俺は密かに青ざめていた。
まさかとは思うが…これを、再現しろと…?
「ほら!あんたはさっさと練習!ボス戦に間に合わなくなるわよ!」
ルリにズイッとノートを突き付けられ、チビっ子達からはキラキラの期待に満ちた瞳で見られ…俺はしぶしぶ、変化の練習に入った。
ボス戦前の最後の特訓が、これとか…。
なんの嫌がらせだ…。
「おーー!すげ~!」
「絵の通りだぁ!ハク凄い!」
チビっ子達の素直な賛辞。…癒される。
「これしきで泣くんじゃないわよ!」
「泣いてねぇ!!」
ルリはなんでさっきから、こんなにスパルタなんだよ…!俺、ハッキリ言ってすげぇ頑張ってるぞ!?
「おお~、いいねぇ!いや、やっぱもうちょっと胸が…」
「お触り禁止!!」
…カエンにゲンコツ出来るのなんか、ルリぐらいだよ。初見で震えてたのが、今となっては懐かしい…。
ていうか、カエン。
あんた出勤の時間だろう…。
爺さんになったり、美女になったりを繰り返しながら、俺の最後の特訓は、昼メシまでみっちりと続けられた…。
昼メシ(もちろん出されたのはカツ丼だった…)を食ったら、今日もダンジョンの営業開始だ。
キーツの高らかなアナウンスで、開場が宣言される。
「皆さん、本日もギルド:クラウンの訓練施設へようこそ!本日は高レベルの冒険者の皆様に、ぜひチャレンジして頂きたい、ジョーカーズ・ダンジョンが新たにオープンします!」
おお~~~っ!!
という、怒号のような野太い歓声が上がる。高レベルの冒険者の皆様は、どうやら自分達のレベルに合うダンジョンを、心待ちにしていたようだ。
俺も武器を手元に置いて、ドキドキしながら本日の挑戦者達を見守る。
ぞくぞくと各ダンジョンに入ってくる挑戦者達。今日も大繁盛だ。
俺の、挑戦者は…?
なかなか出て来ないな。気を揉ませやがって…。
そうこうしているうちに、カフェからはどよめきが聞こえてきた。
「これは驚いた!本日スライム・ロードに挑戦するのは、熟練も熟練、なんと当ダンジョン挑戦者最高齢!平均年齢72歳のおじいちゃんズだぁっ!!」
……はぁ!?
キーツのアナウンスにギョッとする。
え…?
聞き間違いじゃないよな?
思わずジョーカーズ・ダンジョンのモニターそっちのけで、スライム・ロードに釘付けになる。
ホントだ…。
モニターには、4人の爺さん達が映し出されていた。
「え…なんで?大丈夫なのか?」
スライム・ロードを見守るゼロに、思いっきり心配の表情で確認してしまった。
うっかり心臓発作とか、嫌だぞ?
するとゼロは、困ったように眉を寄せ、小さくため息をついた。
「カエンから頼まれたんだよ…。断れなくて」
「なんでカエン……あっ!もしかして!」
「うん…今度、武闘大会に出るって張り切ってる、おじいちゃん達の一部らしいよ?ちょうどいいウォーミングアップになるからって…」
おいおい…どこまで元気なんだ。
モニターの向こうでは、筋肉隆々の爺さんが、どでかい大剣を振り回している。
格闘家風の爺さんは、軽いフットワークで、準備運動してるしな…。
ぶっちゃけ、見るからに、へっぽこ冒険初心者よりは、確実に強そうではあるが…。
……なんかもう、どこからツッコめばいいんだ…。
「ゼロ、とりあえず爺さん達のステータス、見せてくれるか?」
戦士:男:レベル152
盗賊:男:レベル148
格闘家:男:レベル147
魔術師:男:レベル158
……え……?
………ええぇっっ!!?




