新ダンジョンの構想
「確かに小人目線なら面白そうよねぇ」
「ピクシーサイズまで小さくすれば、蚊でも、蜘蛛やネズミとかでも強敵になるしな!」
「…虫は召喚しないから…」
俺のごく自然なアイディアに、ゼロは速攻で反応する。…どんだけ虫が嫌いなんだよ、お前は。
しかし小人化とくれば、昆虫類と壮絶バトルは避けられないだろう!俺は粘ってみる事にした。
「いやいや、蚊とか蜘蛛とか、普通サイズのちっちゃ~いヤツだぞ?さすがに怖くねぇだろ?しかもモニターの向こうなんだし!」
「だから余計にイヤなんだって!!小人目線で見たら、蜘蛛なんてめっちゃデカいよ??目が8つもあるんだよ!?」
想像したのか、自分の腕を自分で抱いて、ふるふると身を震わせている。モニターいっぱいに襲ってくる蜘蛛を想像したら…確かに気持ち悪い。
「う~ん、女性客は引きそうね」
「だよね!そうだよね!!」
ルリという味方を得て、ゼロは勢いこんで同意する。確かに女性客は引くだろうなぁ。
「しょうがない。虫系は諦めるか…」
俺の無念の言葉に、ゼロはホッと胸を撫で下ろしている。カエンはそんな俺達を見ながら、ポツリと一言。
「構想は面白れぇと思うんだが、どうやって小人にするんだ?そんな魔法、聞いた事もねぇんだが」
「よくぞ聞いてくれました!」
ゼロのテンションが一気にあがる。
「これ見て!」
ゼロが指差したダンジョンカタログのページには「小人スプレー」なるものが掲載されていた。
なになに…?
モンスターが貧弱でも大丈夫!小人スプレーで冒険者を小人にしてしまえば、モンスターを強化しなくてもローコストで冒険者を殲滅出来ます。
………。
まぁ、ダンジョンマスター用のカタログだから仕方ないのか…?かなり酷い事書いてある気がするんだが。
コストは1000DP。初期投資としては厳しいが、むしろ小人スプレーさえあれば、モンスターなんか召喚しなくてもいいかも知れないな。
「はぁ~、なんでもアリだな」
カエンは頭を抱えている。
「しかもね、これ見てよ!これがあれば臨場感ある映像が撮れると思うんだよね~!」
超小型CCDカメラ、とかかれたページを自慢気に見せてくる。説明を読めばなるほど、これで小人になった冒険者達目線の映像を撮るわけか。もう準備万端じゃねぇか。
「もうモンスターとかも決めてるのか?」
ため息まじりに聞いてみる。
「ううん? 今言ったの以外はノープラン。皆で考えようと思って」
なるほど、小人化構想に熱が入り過ぎて、他は手薄になっちゃったわけね。
それからは晩メシまでの間、ユキやブラウ、グレイまで交えて、状態異常盛りだくさんダンジョンの詳細について話し合った。
これまでのダンジョンの中でも、最も深く話し合ったかも知れない。
多くの仲間のアイディアを得て、俺がボスを務めるこのダンジョンは、かなりイヤな感じに出来上がりそうだ。
その名も「ジョーカーズ・ダンジョン」。
晩メシ後に、ゼロとカエンで、一回造ってみる事になった。一刻も早く形にしてみたいのか、ゼロとカエンはメシを掻き込んでいる。
俺は残念ながら、特訓優先だ…。
もちろんすげェすげェ気になるが、俺が武器を自由自在に使えるようにならないと、ダンジョンの公開がおぼつかないし。
さっきの混沌とした話しあいを元に形作られるダンジョンかぁ。楽しみなような、怖いような…。
いいなぁ、ちくしょう!
「さ、気を散らさないで、特訓といきましょう。ダンジョンボスともなると、さすがにみっともない戦いは出来ませんからなぁ」
グレイは既に準備万端で、練兵場にスタンバっている。執事っぽい黒服の代わりに纏うのは、動きやすい武道着だ。手にはもちろん、講師用に作って貰った俺と同じ武器が握られている。
グレイは元々、ムチもヌンチャクもスキルがあったから、扱いに慣れるのも早くて、既にMAXの5mの長さでも使いこなせる。
対して俺は、やっと3mが確実に操れるようになった所だ。
今日は5mをマスターしたい。
…あわよくば、ムチの長さを変えながら自在に操れる所まで、今日クリアしてしまいたい。ダンジョンの準備が出来るなら、1日も早くオープンしたいのが人情だろう!
だが、それまでにクリアしないといけない特訓事項がまだまだあるんだ。
実際、ヌンチャクとしての使い方も、この武器を使っての防御の仕方も、複数の敵への有効的な使い方も…その他諸々、これからの課題だ。
しかもこの武器自体まだ試作品だしな。
ドワーフ爺さんもかなり頑張ってくれてるから文句は言えないが、早く本番の武器で、特殊能力とか使ってみたいもんだ。
グレイは「驚くほどのスピードで、成長していますよ。」とか言ってくれるけど、俺的には時間がいくらあっても足りない気持ちになって来た。
早く、早く使いこなしたい…。
その一心で、その日も体が動かなくなるまで、俺はムチを振るい続けた。




