ついにこの日が!!
ゼロがミントティーを淹れてきてくれた。
もうちょっとなのに、出来ない自分がもどかしい。
「いいとこまで来てるよね。あと一歩だから、一旦落ち着いて、気持ちリセットで慎重にやれば、絶対いけると思う!」
ゼロが超笑顔で励ましてくれる。
そうだよな、俺もあとちょっとな実感がある。昨日まで手応えすらなかったんだから、凄い進歩だよ。
ミントティーの爽やかな香りで、少しリラックス出来たし、やりますか。
もう一度、魔道書の呪文をしっかり頭に叩き込む。口の中で二、三度唱えてみて、深呼吸。
両手に魔力を集め、呪文を詠唱する。
ついに、無数の光の刃が降り注いだ。
次いで巻きおこる轟音。
「!!!!!」
出来た!
ついに出来た!!
「ハク凄いっ!!やったね!!」
ありがとう!ありがとう!!
長かったぜ~!
自分の覚えの悪さにびっくりしたけど、ゼロのおかげで何とか習得できた!!
本っっっ当~~~に、嬉しい!!
「おめでとう!はい、これ…」
「変化のピアス!!!」
「これでいつでも、ダンジョンボス出来るね」
ヤバい。
泣いてしまうかも知れない。
嬉し過ぎる…!!
赤い小さな石が揺れる、見た目何の変哲もないピアスを身に付け、それでも俺は感無量だった。
何と言っても、俺のボスデビューを左右する、大切なアイテムだからな…!
「なぁに?凄い音がしたけど…」
ルリが億劫そうに、部屋から出てきた。ユキも心配そうについてくる。
「敵襲ですかぁ!?」
「なんだ!?今の音!」
マーリンとブラウも、錬金部屋から飛び出してきた。そんなに音、響いたのか…。
まあ、確かに凄い音はしてたが。
「あっ、みんな!ハクがね、ついにスターセイバー覚えたんだよ!!」
「へぇ、良かったじゃない!」
「おめでとー、ハク!」
「やったな!!」
みんなが口々に褒めてくれる。
素直に嬉しい。
「じゃあいよいよ、クラスチェンジするのね?」
ルリの一言に、思わずニヤつく。
そう、出来るんだよ。クラスチェンジ。
これで全ての条件は整った。
ゼロに視線を送ると、ゼロはにっこり笑って頷き、おもむろにダンジョンコアへむかう。
『ハクを、聖なる龍幼体へクラスチェンジしますか?』
「承認!!」
俺の体から、まばゆい光が発っせられ、俺は静かに瞳を閉じた。
これで、ついに…!!
光がゆっくりと消え、静寂が訪れる。
目を開けると、何故かみんなの驚愕の表情が…。
……え?……なんだ?
次いで起こる、爆笑。
え…?なんなんだよ、一体!
そして俺は、自分の体の異変に気がついた。
ふよふよとした浮遊感。
何故か自分の手足を見ようとしても見えない。
ジタバタしてみたら、しっぽみたいなものが目に入った。
これは、まさか…。
「か・わ・い・い~~!!」
マーリンにぎゅうっと抱き締められる。
いやぁ、役得……じゃない!
「ゼロ!鏡!鏡を出してくれ!!」
ジタバタ暴れながら、俺はゼロに必死で頼む。もうなんか予想はついたが、俺は現実を知るべきだ!
「ああん、もう、暴れないの!」
ジタバタしたところで、マーリンの腕から逃げられるどころか、むしろガッチリとホールドされてしまった。
「マーリン!言っとくが俺はハクだからな!?早くも子供扱いは止せ!」
ルリもブラウも爆笑だ。
ちくしょう…!床を叩いて笑ってやがる!
ユキはユキで、「かわいー!かわいー!」と、俺の頭をナデナデする始末だ。
「ゼロ!早く鏡ーーー…」
目の前に召喚された姿見には、マーリンの全身が映っている。
腕の中に抱き込まれているのは、プチドラゴンサイズの、真っ白で可愛い、赤ちゃん龍……。
短い手足。ぴょこぴょこ動かしても、耳も掻けない。届かないからだ。
頭には小さな2つの角。背中には翼。しっぽは意外と長くて、体と同じくらいの長さはある。
「最悪だ…」
がっくりと項垂れる。
心なしか声も高くなってるし…。
確かに「龍幼体」って書いてあった。
でも、だからって…!
そこに、けたたましいアラームが鳴り響いた。
「ただいま~。メシ、出来てっかぁ?」
最悪な時に、最悪なヤツが登場しやがった…!絶対に大爆笑されるに違いない…。
もはや何も言う気がしなくて、俺は黙って項垂れた。
「あれ?そいつは…?」
カエンの視線を痛い程感じる。しかも誰も事情を説明してくれない。笑いを堪えてるあたり、絶対に面白がってやがる!
マジマジと俺を見たあと、カエンはニヤリと笑った。
「ああ、ハクか。クラスチェンジ出来たんだなぁ。良かったじゃねぇか」
……あれ?
「いきなりチビ龍になるから、ビックリするよなぁ。俺様も龍幼体になった時は、軽く落ち込んで引きこもったからなぁ」
そうか!カエンもクラスチェンジで火龍まで進化した、龍幼体経験者なんだった!
良かった…!
「あ!ブレス!ブレス吐いてみな!俺様は飛べたのとブレス吐けたのが、一番嬉しかったぜぇ?」




