第三クールはスライム祭り!⑮
二人をかばうように剣を構え、他のシルバーウルフ達を牽制していたトマスも、ローラのあまりに痛々しい姿に、一瞬隙が出来てしまったらしい。その隙をついて、2体のシルバーウルフが一斉に飛びかかる。
その時。
その内の1体が、悲痛な叫び声と共に、弾かれたように地に落ちた。それを追うように、シルバーウルフCの体に、次々と矢が突き刺さる。
……マークか。良い仕事するなぁ。
トマスは残るシルバーウルフDの牙を、剣で何とか防いでいる。
体長がトマスよりもはるかにデカいシルバーウルフD。明らかにトマスは力負けしている。押し切られる寸前、マークの弓がシルバーウルフDを襲った。
「サンキュー、マーク!助かった!」
トマスの元気いっぱいのお礼に、マークは微かに笑った。
お~、笑顔レアだな。
そしてマークは、小さな声でトマスに指示を出す。
「僕、こっちのウルフを弱らせる…。さっきのウルフ…トドメ刺して」
なるほど。シルバーウルフCは、何本もの矢を体に受けながらもヨロヨロと立ち上がり、まだ戦意を失ってはいない。まだマークの腕では、弱らせる事は出来ても、絶命させるほどのダメージが与えられないんだろう。
「分かった!!」
ニカッと笑って、トマスが剣を振りかぶる。弱々しく唸るシルバーウルフCと、ちびっ子剣士の一騎討ちが始まった。
一方、何とか回復したものの、血まみれの服で痛々しいローラは、またも難局を迎えていた。目に矢が突き刺さったままのシルバーウルフAが、ローラめがけて走り込んできたからだ。
さっき襲われたのがよっぽど怖かったのか、可哀想にローラは、真っ青になって、ぶるぶる震えている。
もはや、逃げる事も出来ないようだ。
「危ない!」
「ローラちゃ~ん!!」
「逃げて!!」
カフェからは、おっさん達の悲痛な叫びがこだまする。もちろん、モニタールームでも、息をつめて見守っている。
「大丈夫…!あの子、意外と負けず嫌いなの。大丈夫。…大丈夫…!」
ルリが祈るように呟く。
チビ達の話になると、ルリもちょっとだけ母っぽくなるのが面白い。
ぐんぐんとローラに近付いていくシルバーウルフA。恐怖に耐えきれず、ローラはぺたんと座り込んでしまった。
地を蹴って、シルバーウルフAがついにローラに飛びかかる。カフェでもマスタールームでも、息をのみ誰もが目を覆った。
奇妙な静寂。
だが、その牙はローラまでは届かなかった。
飛びかかってきたシルバーウルフAのその腹に、ナイフが深々と刺さっている。
ローラの後ろから飛び出して来たナギが、ガラ空きになったシルバーウルフAの腹目掛け、渾身の力でナイフを突き立てたからだ。
もんどり打って倒れ込み、のたうち回るシルバーウルフA。あまりの暴れように、ナギも近付けないでいる。
それをただただ涙を流しながら、茫然と見ていたローラ。
人形のように固まったままだったのが、やがてゆっくりと視線が動き…杖をしっかりと握って、呪文を詠唱していく。
「ウインドカッター!」
腰はまだ抜けたままなのか、座りこんだまま、それでも風魔法を放つローラ。焦点があっていないように見えた目も、今はちゃんと、冒険者の目に戻っていた。
正確な軌道で風の刃が飛び、シルバーウルフAに命中する。
「ギャウゥン!!」
風の刃をいくつも受けて、動きが鈍ったところに、ナギのナイフがトドメとばかりに突き刺さり、ついにシルバーウルフAは絶命した。
カフェからは盛大な拍手が沸き起こる。
「ローラ…良かった…」
涙ぐむルリ。
お母さんか、お前は。
ユキによしよし、と頭を撫でられ慰められるルリ。滅多に見られない光景で、ちょっと面白い。
そうしている間にも戦闘は進み、最後はちびっ子剣士:トマスの一撃で幕を閉じた。
「プリンセス・ロード、ついに決着!ヒヤヒヤする場面もありましたが、可愛い4人の挑戦者が、シルバーウルフを倒しましたぁ~!!」
キーツが高らかに宣言する。
「皆さん、暖かい拍手を!!」
カフェからは割れるような拍手。そして、おっさん達によるローラコールが巻き起こった。
号泣してるおっさんもいるし。
きっと明日、ローラは接客時に、おっさん達にめちゃくちゃ可愛がられるに違いない。
こうして、スライム・ロードのお披露目は終了した。
まだまだ全貌を明かしていないスライム・ロード。ぶっちゃけ第三ステージも、べらぼうに強くなったスラっちも、まだお披露目出来ていない。
お楽しみはこれからだ。
興奮冷めやらぬ様子で、騒がしくおしゃべりしながら帰っていく人々をぼんやり眺めていたら、ゼロの慌てた声が耳に入って来た。
「わかった!すぐにいくから!!」
……どうしたんだ?いったい。
「ハク、アライン王子が呼んでるって。一緒に行こう」
……すっかり忘れてたな。
アライン王子…。




