第三クールはスライム祭り!⑫
「グリード、何とかならない?」
「んー…、出来ない事もないけど…。手荒になるよ?」
言いつつも、詠唱に入る。
暴風が吹き荒れた。
真っ黒な煙はさすがに吹き飛ばされ……ついでにその場にいた全員が被害を受けたようだ。スライム達も挑戦者達も、あちこちで転がっている。
「いってぇ~!グリード、てめぇ!」
「手荒過ぎでしょ!」
戦士姉弟が口々に文句を言うが、魔族魔術師は澄ました顔だ。
「しょうがないだろ?視界ゼロで誰がどこにいるんだか、全然わかんないんだし」
それでも手加減はしていたようで、怪我人はでていない。スライム達もぴょこぴょこと起き上がる。
「…あら?こんなスライム、いたかしら?」
あ、ヤバい。
ピンクスライムが見つかってしまった。
慌てて逃げだすピンクスライム。
「あっ!!待ちなさい!!」
逃げられれば追いたくなるのが人情だ。
女戦士が猛ダッシュで追いかける。
「ああっ!ピンク、逃げて!!」
「ひどい!攻撃もできない弱スライムに!」
マスタールームは大騒ぎだ。
必死で逃げるピンクスライムを、ひたすら追いかける女戦士。
そこに、激しい雷が落ちた。
ピンクスライムを守るように、女戦士との間に立ちはだかったのは、黄色スライム。
盾をベースにした体を活かし、鉄壁のガードの態勢だ。
「おおっ!!かっこいい~!!」
スライムなのに、なんとなく威風堂々と見えるから不思議だ。その間にピンクスライムは、距離を少しでも離そうと、一生懸命跳ねている。
……あれ?
女戦士が起き上がらない?
「アイカちゃん…?あ、マヒった?」
女戦士の顔を覗き込み、魔族魔術師は「ラッキー♪これって据え膳?」と、呟いた。
その後頭部に、トゲトゲ青スライムが炸裂する。
「痛ってぇ!!」
なんと、弟戦士が青スライムを投げつけたらしい。投球後の美しいフォームで、魔族魔術師を睨みつけている。
「アホな事言ってねぇで、さっさと回復!」
魔族魔術師は、後頭部をさすりながら、「ちぇー、ちょっとした冗談なのに」とブツブツ言いつつ、魔法の詠唱に入った。
そんな魔族魔術師に、不思議スライムがポヨンっとタックル。
詠唱途中の魔族魔術師は、青い顔で不思議スライムを凝視しながら、固まった。
でたのか!?
禁断の魔封じタックル!(俺命名)
ガン見してくる魔族魔術師に、
??
…と小首を傾げる不思議スライム。(多分)
一方魔族魔術師は、震える声で問いかけた。
「…今ぶつかったの、お前?」
あれ?話せてる。
魔封じゃないのか…?
え?じゃあなんだ?今のタックル。
別の特殊効果か?
魔封に失敗したのか?
まさかの普通に攻撃したつもりか?
……プルプルしてるだけじゃ分かんねぇし!
「つーか声出るじゃねーか!脅かしやがって!!」
言いつつ魔族魔術師は回復魔法を放つ。
どんな時でも女戦士が最優先なんだな。
その隙に魔族魔術師から距離をとる不思議スライムに、投げナイフが突き刺さる。
盗賊くんは、次々にナイフを放ってくるが、不思議スライムはなんとかギリギリで避け、追加ダメージは受けていないが……そこで、ついに不思議スライムの体が、キラキラと光り始める。
うん?回復魔法か?
ピンクスライム、ようやくなんか役にたったのか!!
そして、キラキラと光り続けた結果…何故か不思議スライムは、光り輝き始めた。
……どういう、効果だ??
なんだか神々しい光を放ちつつ、不思議スライムは高く高く飛び上がり、クルクルっと2回転。
これまでの経験上、何か魔法を放ったんじゃないだろうか。
ピカッ! と、光が周囲を満たした後、光の矢が広範囲に降り注ぐ。敵味方の区別さえもなく、その場にいた全員が、光の矢に貫かれた。
あれは…聖魔法「スターライトレイン」!
上位の全体魔法だ。
何を放っちゃってるんだ、お前は!!
不思議スライムは、スターライトレインを放つと、体の色も元の真っ黒に戻り、何事もなかったかのように軽くぴょんぴょん跳ねている。
ピンクスライムが全体回復魔法を放ったおかげで、スラレンジャーは全員全回復。皆元気にぴょんぴょんしている。
一方、挑戦者達の状態は深刻だ。
なんせ、魔族魔術師がのたうちまわって苦しんでいるからだ。
「ぐあぁぁぁあぁぁぁ!!」
スライムに比べて人間はデカいせいか、他の3人もかなりたくさん傷を負ってはいるが、魔族魔術師の苦しみようはそれに比べても尋常じゃない。
「わぁ…やっぱり、ダンジョンが聖属性だからかなぁ。凄い辛そうだね。」
だからだろうなぁ。
やっと苦痛が収まってきたのか、魔族魔術師は肩を揺らし、大きく息を吐いている。
そして、傷だらけでスラレンジャーと戦っている仲間達をチラリと見ると、全体回復魔法を放った。




