第三クールはスライム祭り!⑨
魔術師のお姉さんが、傷だらけで倒れていたからだ。倒れる寸前に、最後の力で回復魔法を放ったんだろう。
「プリンス・ロードの挑戦者、魔術師のルルさん、気絶により残念ながらリタイアです!戦闘終了後、責任持ってスタッフが救援に向かいます。そのまま戦闘を続けてくださいね。 」
キーツのアナウンスに、猫少年は今にも泣き出しそうだ。
それでもモンスターはまだ3体残っている。猫少年は拳をギュッと握りしめ、頭を2~3回振ると、ギガントフラワーに向かって駆け出した。
残るはロングイヤーとギガントフラワーだけだが、猫少年だけでは荷が重い。特にギガントフラワーは、HPも相当高い上、一発の攻撃が重いからだ。
健闘しているが、じわり、じわりとHPが削られていく。
「プリンス・ロードの挑戦者、格闘家のにゃん太さん、HP切れにより残念ながらリタイアです!また挑戦してくださいね!」
ついにHPが底をついた猫少年。
最後までよく健闘したと思う。
…ていうか名前、にゃん太…。
誰だ名前付けたの。あのお姉さんか!?
しかし、個性的な挑戦者達も次々と脱落し、残るはスライム・ロードとプリンセス・ロードだけになってしまった。
特にスライム・ロードは、主戦力の魔族魔術師が魔法を使えないという、ピンチの状態が続いている。
あれからちょこちょこスライム達と戦っているが、魔族魔術師はイライラと見ているだけだ。そして、全員がほぼHPが半分以下まで落ち込んでいる。
「なぁ、グリード?まだムリか?」
弟戦士も、もはやからかう様子はない。
力なく首を横に振るだけの魔術師を、心配そうに見て、姉を小突いている。
弟戦士から小突かれて、女戦士はしどろもどろで魔族魔術師を慰めた。
「あ~…あの、グリード。魔法が使えない間は、あたしがしっかり守るから、魔法復活したらまた頼むね」
恥ずかしそうな女戦士に、魔族魔術師が飛びついている。「アイカちゃ~ん!」と叫びたいところだろうな。口がパクパク動いてるし。
「今度から、もう少しいざって時の回復薬とか、準備しないとだね」
盗賊くん、そう言ってくれると、訓練用ダンジョン作ったかいがあるよ。
相変わらず、生い茂るシダをザクザクと切りながら進んでいるパーティーの前に、次のボスが潜む、大きな木のウロが見えてきた。
魔族魔術師の魔法が復活しないまま、あの5色のスライム達に挑むのは自殺行為だとも思うが…。
あいにくそれを伝える術もない。
それに、魔族魔術師の魔法がいつ復活するのかは俺達にも分からないんだよな。時間で効果が切れるのか…、何か回復薬が必要なのか。だんだんこっちまで心配になってくる。
デカい木のウロを見て、挑戦者達は相談し始めた。
「確実にボスがいるパターンじゃない?」
「いや、キング・ロードのマーメイドの店みたく、可愛いエルフが可愛いお店をやってるかも!」
ここはさすがに経験の差が出るところだ。女戦士は冷静に、弟戦士は能天気な予想をたてている。
「店だったら、グリードの魔封の回復薬も買えるかも知れねぇじゃん!」
魔族魔術師が、バッと顔をあげた。喋れず、魔法も使えずで、かなりストレスが溜まってるんだろう。藁にも縋りたい思いかも知れない。…目が必死だ。
「…まあ、どっちみち入らないといけないし、グリードがいつ治るか分かんないし。覚悟を決めて入りましょうか」
女戦士の言葉に、魔族魔術師は盛大に頷く。
弟戦士は「イヤッホウ♪エルフちゃ~ん♪」と、飛び上がって喜び…結果、女戦士からゲンコツをくらっている。
…バカだが、憎めないヤツだよな。
まあ、待っているのは可愛い5色のスライムだ。存分に戦っていただこう。
木のウロに向かって歩き出したパーティーの行く手を、またもやスライムが阻む。たった2体だが、どんな戦い方をするのかちょっと楽しみだったスライム達だ。
大天使の兜と合成したスライムは、体に兜をそのままかぶったような見た目だが、兜についていた羽根がハタハタと動いて、飛べてるし、聖魔法も幾つか使えるようだ。
もう一体は大地のハンマーと合成したスライム。 見た目、プルプルしてるハンマー…。多分打撃中心なんだろうけど…。触った感じはプルプル柔らかかったし…攻撃の時は硬くなるのか?心配なスライムだ。
「なんだよ!?エルフちゃんが待ってるのに!ジャマすんなっ!!」
弟戦士がいきり立つ。
…彼の中では、木のウロの中身は完全にエルフのお店になっているらしい。
一刻も早く倒したいのか、弟戦士はスライム達に突進した。HPは半分以下なのに、元気なヤツだな。
盗賊くんも「…お店って決まってないけどね」と苦笑しつつも投げナイフを取り出し、大天使の兜スライムに投げる。
だが、上手く兜部分を使って投げナイフをたたき落とされてしまった。兜を着込んでいるだけに、防御面はしっかりしている。




