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歩兵第六連隊にて

 明治維新後、廃藩置県により四鎮台・八部営が配置されるにつき、地方城郭は全て兵部省の管轄となった。またその後、明治四年二月に兵部省が廃止されると、その管轄は陸軍省に移り、今後の処分や存続をそこに委ねることになる。


 そして、明治六年一月九日の鎮台制度の改定に伴い、同月十四日の太政官達でもって、軍事上必要な「存城」と必要のない「廃城」がとうとう決定した。

 存城となったものは、引き続き陸軍省の管轄となって軍事的拠点とされ、廃城は大蔵省管轄となっての解体だ。


 愛知県内では名古屋城と豊橋城が存城となれた。


 さて、俺を散々に揶揄う利秋が愛する名古屋城の金のしゃちほこは、陸軍省の管轄となった時に城から外されたのではない。

 金のしゃちほこは廃藩置県前の名古屋藩より、「天守のしゃちほこは現在では全くの無用の長物です。お渡ししますので、同じく無用となった城を壊したり修繕するお金下さい。」というお手紙付きで宮内省に納められたものなのである。


「名古屋藩が無用の長物と言い切った城は、文化的にも軍事的にも称賛され、東京鎮台第三分営と六番大隊のねぐらとなり、終には歩兵第六隊本丸とおなりあそばされたとは、何と皮肉な事なのか!いいや、陸軍省様を尊敬するべきだ。維持費を考えずに使用保存を続けるその懐古主義的精神を!」


「利秋殿。海軍もお城が()しと勝海軍卿様に願い出られたらいかがじゃっとな?」


「バカなことを!結局は維持できないと散々に蹂躙された上で破壊されるのであれば、一気に華々しく散らして欲しいと望んだだけだ。それこそ侍の美学であろう?」


「あなた様ではピカレスクロマンの方を感じもす。」


「君は!」


 利秋は俺の言い返しに対し、より機嫌の良さそうな声を上げた。

 利秋は最初から機嫌も悪くないどころか上機嫌であり、俺が自分の不機嫌さを彼に反論しながらあてこすりしている、というだけである。


 確かに俺の目的は、俺が願った事では何一つないが、名古屋の歩兵第六連隊の視察研修である。

 りまと藤吾を連れての、名古屋観光巡りなどでは決してない。


 では、りまと藤吾は名古屋まで連れて来られてのお留守番なのか。

 いいや。

 彼らは我らが大将の副官が観光案内の付添人としてついており、俺無しで名古屋名物を散策しているはずなのである。


 苛立つ俺に見守られながら利秋は品よく自分の前に置かれている紅茶のカップを手に取り、それはそれはため息が出る程の優雅さでお飲みあそばしはじめた。


 俺と彼しかいない、高級官僚用の応接間にて。


「未だ誰も来ずとは。どうなされたのかな。」


「私のお手紙をまだ読めてなかったのかもな。出来る限り簡潔に書いたのに。」


「……また、英文で書簡をお書きに?」


「海軍の正式な書類である決まりでしょ。もっとも、顧問のエゲレスが我らの内情を盗み見たいからだろうがね。だが、ああ、英文は好きだよ。書面の意図がわかりやすくて何よりだ。」


()()ちゃいかお聞かせ願いもはんか?」


「徴兵で狩り集められた人員の能力値を計りたい。こちら精鋭六名連れてくるから、そちらも六名小隊を十組作り、こちらの精鋭との実地演習いたしませんか?これを英文で書いた。だが失態だったかな。ちゃんと日本語で書いてあげれば良かった。こちらさんは、それがし云々候へと、無駄な文字があって初めて言葉が通じる場所だったものね?」


「いや。多分(かった)内容にくさ戸惑っているんだと()もよ。で、六十人に当てらせられる六名の精鋭って。おい、俺以外に連れっきて控えにいる君の(わろ)らは五名だよな。」


「君こそ実地訓練したい人でしょう。今回は君のためのお遊びじゃないか。」


 俺は大きく舌打ちの音を立て、利秋は嬉しそうな笑い声を立てた。


「ふふ。衛、苦虫を噛み潰すぐらいなら君も飲んだらどうかな。海はイギリス式だからと、わざわざ紅茶を淹れてくれたんだ。堪能しようよ。君は紅茶は飲んだ事は無いでしょう。さあ、チャレンジだ。」


「茶に砂糖(さと)を入れて、牛の乳を()っ、か?口の中がべったべったしそうだ。」


「りまは好きだな。ジャムを舐めながら飲むロシア式も目を丸くしながら可愛らしく楽しんでいたな。ああ、陸軍応接間なのにイギリス式アフタヌーンティーが用意されている。何と素晴らしい。ここにあの子もいれば喜んで君のカップを空にしてくれたことだろう。」


「りまは紅茶が好きじゃったのか!」


「おや知らなかったのか?攻略したい女の好みを探るのは、最初に聞き出す大事な事では無いのかな。」


 俺は利秋を眇め見るしか無かった。

 それは、俺こそ完全にぐうの音も出ない程に殴られた気持ちなのだ。


「どうした?」


「いや。俺が付き添ってはりまは()っなものが()がならんな、そう気が付いた。」


 リマは俺にものを強請った事など無いではないか。

先に言っとく時代考証:鎮台は当時の軍隊の編成単位。恋愛小説なので人数がどうとかは書きません。軍人衛の語りとなるので四鎮台・八部営と当時のまま表記です。また、海軍の書類が全部英文は小説用の設定です。

 しかし、金のしゃちほこについては事実です。

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