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私の愛した旦那様は百姓上がりの陸軍士官様でございます  作者: 蔵前
革命は如月にこそ起きやすい
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茶屋の二階は休憩どころ?

 ヨキは言っていた。

 外に誘いなさい。

 外に出れば後は旦那様に任せなさい。


 意図を解って貰って連れ出すまでは大変だったが、外に出ればヨキの言ったその通りで、私を彼の腕にぶら下げたまま彼は私を真っ直ぐにとあるお店に連れて行ったのである。

 外見は食事も出来そうな茶屋であるが、衛が店の女将に一言二言言えば、私達は二階の個室に案内されて、そして、そこにはお布団が敷いてあった。


 真っ赤なお布団があからさますぎて、私は悲鳴が出そうな口元を押さえた。


「あ、りま?違ったか?俺は先走り過ぎたか?」


 私は深呼吸をまずした。

 衛が、取り返しのつかないことをした、と叫び出しそうな顔をしているのだ。

 とにかく、私が落ち着いて衛を安心させなければ。


 ただし、深呼吸をしても私の声は戻って来ず、でも、時間はどんどんと過ぎていくと私は非常に焦った。

 焦ったついでに、私は道行を脱いでほいっと部屋の隅に投げた。

 そう、言葉が出ないのならば、一目でわかる行動を取ればよい。


「りま?」


 次には帯と手を持って行ったが、そこで部屋の襖が開いた。


「ひょえ!」


 飛び上がった私を抱き止めたのは衛で、部屋を開けたのは女将でもなく、派手な小紋をだらしなく着た若い娘だった。

 真ん丸の輪郭に目は少し離れているという風貌で、美人では決してないが可愛らしい田舎娘という雰囲気の人好きのしそうな女性だった。


「あれ、旦那さんがいらしていると聞いたから。あら、すいませんね。お邪魔してしまったみたいです。」


 首を真っ白に塗ったその姿は私でも知っている夜の女性の姿で、私は直ぐにこの茶屋に来れた衛の実際を知った気がした。


 でも、……拒否していたのは私よね。


 私を襲わないようにと、そういった性欲を解消していたのならば、私は衛に感謝するべきじゃない?

 物凄く胸がむかむかするけれど。


「あなた?加藤がお得意さんだったのかしら。」


 ああ、言っちゃった。

 後で衛の息を吸う音がひゅうっと聞こえた。

 だって、我慢できなかったのだもの。

 女郎さんはお客さんと初っ端から寝ないと衛こそ言ったのだ。

 私が初夜が出来ないと泣いた時に。


 あとでヨキに聞いた話だと、一夜目は見合いと同じで互いに挨拶するだけで終わり、二夜目は一緒にお酒を飲んだりと遊び、そして、三夜目にして床を一緒にするという、男女のお付き合いそのものの流れなのだそうだ。


「ですからね、同じ店で他の女郎さんを指名するのは浮気と一緒で、絶対にできない決め事なんですよ。結婚した夫婦と同じという考え方ですなあ。」


 だから、加藤に指名されているらしい彼女は、この店では加藤の妻と同じという事だと、私は頭に血が昇ってしまったのである。

 けれど、そんな私に対し、襖を開けた遊女は私ににやっと笑って見せた。


「いいえぇ。こちらに来られた際はあちきと遊んでおくんなましとお願いしてましたからねぇ、あちきの勘違いでしたぁ。」


 襖は直ぐに締まり、私はゆっくりと衛に振り向いた。

 衛は右手を目がしらに当てて俯いているという風情で、私は遊女の言葉が真実ではない気がした。


 でも、だから、どうしたって言うの!

 私こそが、本当の本当の奥様なのよ。

 奥様になって見せるのよ!

 私は衛を突き飛ばした。


「おう!」


 衛は思いのほかたやすく転がり、真っ赤な布団のうえで間抜けに腹を出した犬の様な姿で私を見上げている。

 そんな犬とは違って、とっても吃驚した、いえ、期待しているような顔で?

 私はいつかのあの夜みたいに、自分の帯に自分で手を掛けた。

 するするっと帯を解き、衛が天女みたいだと言ってくれた肌をもう一度彼に晒して見せるのよ!


 …………!


「どうした!おかしな顔をして!動きが止まったぞ!」


「ああ、もう、だって、帯が外れません!お願いしてよろしいかしら?」


 衛は笑い出し、布団の上に胡坐をかいて座り直すと、彼の目の前に立つ私を引っ張って自分の上へと転がせて抱き締めた。


 ああ、久々の彼の腕の中だ!


 私はそれだけで嬉しくなってしまった。

 彼は私の考えが読めるのか、私の耳元に低くて素敵な声で囁いた。


「今日は出来なくても構わん。明日も出来なくても構わん。君をこうして抱きしめていられるだけで俺は果報者だ。」


 私は衛の右の頬をつねった。


「私はあなたが欲しいの!あなたを自分だけの人にしたいの!こんな、こんなみっともない私なの!私はあなたを愛しているのよ!外でもうちでもどこでも、私があなたの妻で、あなたは私の夫なの!誰にも渡したく無いのよ!」


 怒りのまま私は叫んでいて、そして衛を再び突き飛ばそうとしたが、私こそいつのまにか真っ赤な布団に転がされていた。

 私の上には真剣な眼で私を見下ろす衛の顔だ。


「良いのか?」


「私はあなたの本当のお嫁さんになりたいの。」


 私の唇は衛によって塞がれた。

 二分くらい。

 二分後に、私の帯に負けた男が私から唇を剥がし、私に情けない事をお願いして来たからである。


「一度体を起こして。帯が外せん。君が外してくれる?」


「もう!私も外せなかったからお願いしたのに!」


 私がぷりぷりと怒りながら身を起こすと、衛が早速と帯に取り掛かったが、彼は私の帯を外しながらぶつぶつと文句を言い始めた。


「もう!自分が外せん帯をどげんして締めたの。」


「私は着崩れない着方が上手と褒められてきた女ですの。自宅には女中という第三の手もありますしね!」


「今は夫という第三の手もあるか。さあ、俺を愛しちょっなら協力してくれ。こん帯締めは固すぎて俺でも無理(むい)じゃっとよ。」


「まあ!」

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