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私の愛した旦那様は百姓上がりの陸軍士官様でございます  作者: 蔵前
幸せの中でも不幸が埋もれ不幸の中でも幸せが発芽する
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招かれざる客

「お客人のあなたに息子の世話までしていただきまして、本当に良いおじさんをもったと息子は喜んでおります。」


 ちゃぶ台を前に自分の家のようにして足を投げ出して座る利秋は、俺の挨拶に片眉を上げてからにやっと微笑んだ。

 紺色のむら染めの綿の着物の下に生成りのシャツという袴姿の利秋は、最近の書生とやらの若者を彷彿とさせ、たった二つ違いの年齢差なのに彼の方がずっと若く幼く見えた。


 いや、名家の坊ちゃんのくせに足を投げ出している行儀の悪さが、彼が十代の若者のように俺に錯覚させるのかもしれない。


「君は我が家で正座をした事が()な。」


「足が長いものですいません。骨格がきっと新時代向けなんですよ。」


「新時代?生き急ぎ過ぎて老けてしもたのじゃなかとか?ほら、ジジイは無駄に朝が()えと()やろ?」


「アハハハ、年寄りこそ寝ぎたないって聞きますけどね。ほら、私はまだ二十代ですからね。身体が無駄に動くだけですよ。」


「俺じゃっちまだ二十代だよ。かろうじてね。」


 俺は利秋の真正面ではなく、彼の左わきに腰を下ろした。

 居間にりまが来た時に、彼女が利秋の隣に座らないように、との俺の情けないくらいに小さな抵抗だ。

 ヨキなどは、俺と和郎までが、あれは危険だと言い募ったのに、利秋が訪れれば頬まで染めていそいそとおもてなしをしているじゃないか。

 …………!

 利秋の前に茶があるのは当たり前だが、湯のみの横に小皿があり、そこにはヨキ特製のくるみの味噌がらめが盛ってあった。

 俺にだって滅多に分けてくれないというのに、ヨキばあめ!


「そんなに機嫌が悪いとは、私は君の団らんの邪魔をしているかな?」


「君が邪魔なのはいつもの事だ。だが、息子の面倒を見てくれてくれたこちゃ感謝する。あれに寂しい思いをさせていたら、りまの方が落ち込んでしまう。」


「ハハハ。私に感謝の言葉を吐けるとは、君って本当に素直だよ。そこがお偉方の心を揺り動かすのかな?」


 利秋は婀娜っぽく微笑んだ。

 利秋は、嫌っている俺から見ても、美しいとしか形容できない目鼻立ちという、俺よりも数段上の存在として見える程の男前だ。

 中身は俺でさえ舌を巻く毒蛇そのものだが。


「何が言いたい?」


「いや。水口藩の加藤家の傍流、というガセ身上をでっち上げたのは君自身では無かったんだな、という率直な感想。」


 俺は何のことだと笑っていた。


「何を言い出すと思ったら。俺は水呑み百姓のせがれでしかないよ。そげなこち嘘を吐いてどげんすっんだ?戊辰の時にはな、俺が遊撃三番隊の隊長になった事を妬まれて、田吾作三番隊と揶揄されたぞ。」


 利秋は口元に手を当てて、少し悩んだ?様な顔つきをした。


「どうした?」


「いや。君を売るにはどちらを使った方がいいのかなってね。桐野さんにはでっち上げ身上が上手く行ったが、これから士族の時代ではないという潮流が必要でもあるでしょう。うーん。」


「聞き捨てならないな。だから、俺は嘘はついていないって。」


「それはわかった。もと盗賊の和郎さんなら由来でっち上げはお手の物だろう。嘘の身分で手下を商家に紛れ込ませて、手引きさせての金子泥きんすどろ。官軍の金庫狙いとはさすがの大物さんだよ。さて、そんな手下な君は桐野さんに初めて挨拶した時、苗字帯刀といういで立ちであったのだろう?」


「あ……ああ。腕のある剣士を求めていたからな。俺は剣は得意だった。ああ、確かに、和郎に加藤と名乗れと……。官軍の金子狙いの、泥?俺が引き込み……役、だった?」


「ハハハハ。君は!苗字帯刀自体が武士である身分証明なんだよ!士籍は無くとも、そのいで立ちで武士だと誰もが認識してしまう。ハハハハ、そうか、それで君は取り立てられ、それで、ハハッハ、そこまで位が上がったか!直系でなく傍系であるならば、加藤家も否定できまいし、それよりも、名をあげた奴を身内と認める方が得策だ。アハハハ、凄いな!」


 俺はばしんとちゃぶ台を叩いていた。


「笑うな!真面目に答えてくれ。俺が桐野様から切り捨てられたのは、結果としては騙した事実を知られたから、か?」


「知って、君を切り捨てる事が出来なかった、が正しいんじゃないのかな?君はなかなかいい男すぎるんだよ。」


「――それで、お前の言いたい事はなんだ?」


「名古屋に歩兵第六隊というのが発足するでしょう?三月くらいに。ちょっとそこに冷やかしに行きたいなって。その時に君が加藤さんちの人だと振舞った方がいいのか悪いのか悩んでいてね。どう思う?」


「俺が行く行かないの選択は無くそれか!俺の影と相談した方が早いのではないかな?」


 俺は俺を勝手に武士に仕立てていたらしい張本人の名前を呼んでいた。

 全く、和郎め!

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