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アメカレ  作者: 悦司ぎぐ
32/45

32  夢も未来も無いフェアリーテイル




御持(おも)たせだけど、」

 艶子はそう言い添え、母恵夢(ポエム)を小皿に乗せ卓上へ並べた。言葉どおり、母恵夢はアメリが『お近づきの印』と持参した物である。


(もともとは一ノ瀬さんからの手土産だけど……)

 真相を噤みたいという点はさておき、果恋は異常(おか)しい現状へのツッコミを必死に我慢していた。



   なんで!

   私が!

   自宅で!

   持て成されてるのかな!!!!



 今一度堪える。住み慣れた我が家に帰宅するなりの客人扱い……姉を自称する不法侵入者が振舞うハーブティーとお茶菓子……

(また増えてるよなんかお洒落で高級チックな食器! やたらいい香り漂ってるのはお茶のせいかな!? それともまたアロマ焚いてくれてやがるのかな!)

 山ほどの指摘点(ツッコミポイント)は話の進行を妨げる弊害とみなし、ただひたすらに我慢する。


「わ~いローズヒップ~! アメリ、ハーブティー苦手だけどこれだけは好きー。」


(気楽でいいなあんた!!!!)

 のほほんとはしゃぐアメリへ向ける内面が、般若と化す。



「こちらこそ、まさか母恵夢にお目にかかれるとは思わなかったわ。前から気になっていたの。ありがたく頂戴するわ。」

「あはー。ま。それ親戚からの頂き物なんだよねー。めんごめんご。」


(あーそこも暴露しちゃうかー。)


「あら。じゃあお裾分けかしら。」

「まねー。母子二人家庭に五箱持ってくる要領がアレな伯父がおりましてな~。消費手伝ってちょうだいな。味は保証するよん。」


(さらりとディスられてるよ一ノ瀬さーん。)

 朗らかに笑うアメリの背後にてスタンドの如く浮かぶ、一ノ瀬の幻影。軽薄かつ哀れな笑顔を見せる男の幻は、彼が不憫な星の下で生まれたことを主張するように、手を振りながら儚くも消え去った。


 一ノ瀬の消滅後、果恋はようやく気付く。

(あれ? これ我慢してる意味なくね?)

 こんなにも内心でこまめに指摘していては、結局話が進まないではないか。

 半開きになった口を一文字に紡ぎ直し、その疑問ですら時間の無駄であると自分に言い聞かせた。


「……艶子、この際だからはっきり言っておくけど、」


 ここは強行突破だ。なすべきはこれしかない。

 場の空気を遮り、捻じ伏せ、押し曲げる。果恋らしからぬ力づくな方法を選んだのは、果恋らしい対応や話し合いで、現状は進展しないと諦めたからだ。

 この、完全無欠で慈愛溢れる大河内艶子という『姉』に挑むには……彼女の一方的な姉妹愛を解消するには、どこかの誰かさんから嫌というほど伝授された手荒な方法を用いるしかない。


 誰かさんほど、巧くいく自信は無いけれど。



「私、やっぱり大河内の籍には――――」




「ねねね、つやたん。

 カレンちゃんへの大河内ファミリー勧誘、諦めてもらえませんかねー?」



「!?」


 果恋の宣言を打ち消すように、アメリはさらりと口にした。

 当然、深刻かつ神妙な面持ちを構えていた果恋よりも、にぱっと笑いながら軽薄に発するアメリのほうに、艶子は意識を向ける。


「……仰りたいことがわからないのだけど?」


 今し方まで意外にも友好的だった艶子の反応(こえ)に棘が生える。微動だにしない美しい無表情が、明白な威嚇を示した。


「だってカレンちゃんにはアメリがいるし。」


 しかし相手はこの雨宮アメリだ。艶子の凶器である美貌にも、姉妹愛を盾にした威圧にも、動じなければ慄きも遠慮もしない。

 それどころか意味不明の理屈を恥ずかしげもなくさらりと唱える。


「あんた勝手に何言ってんの!?」

 艶子を差し置いて、反射的に果恋は突っ込んだ。


「およ? そゆ話しにきたんじゃなかったの? 大河内(おおこうち)果恋(かれん)にはなりませんよ~的な。」

「そ……そうだけどそうじゃない!」


 残念ながら理にかなっているのだ。


 アメリの軽薄でおちゃらけた戯言……に聞こえる言葉の数々は、

 『果恋に大河内籍へ入る意思はない』

 『互いに泊まり合う友人と呼べる相手がいる』

 『艶子が懸念し、姉妹愛の元凶としている「独りにさせない」は心配無用』

 ……以上、艶子に伝えるべき三点を、明確にダイレクトにドストレートにぶちまけている。相手が相手なだけにこの直球さは作用するだろうし、果恋本人ではなく「第三者である友人」が発言するという点も効果的だ。


 しかし、さすがにものの言い方というものは、ある。



「まるで略奪宣言ね。唾つけた、とでも言いたいのかしら?」



 シューティングスター(※武器)の如く棘満載の語調に、沸々と湧き上がる臨戦態勢のオーラ。即座に果恋は察する。

 ここからは完全に、まごうことなき修羅場。

 登場人物全員女という修羅場の開催(はじまり)だ。



「あはー。超キレてんじゃん。」



 即刻先制攻撃を仕掛けたのは、無論雨宮アメリ。ご自慢のあざとさと無邪気な美少女ぶりで、この上なく腹立たしい笑顔をぶちかます。


(煽るなあああああああああやめろばかやめろおおおおおOooooooo!)


 事態の進展どころか、話し合いはワームホールに突入してしまった。異次元での場外戦にて、日生果恋は言うまでもなく外野扱いだ。表情ばかりが騒がしい心の叫びが、アメリと艶子両名に届くはずもない。


「部外者のあなたにあれこれ言われる筋合いは無いわね。」

(あんたも充tttッ分部外者! なんなら不法侵入者!)


「あはー。残念ながらアメリとカレンちゃんはもう家族同然ですから~。」

(こいつはまた自信満々に意気揚々と厚顔無恥に慇懃無礼!)


「……どういう意味かしら?」

(それな! 今だけはそれに賛成だ艶子!!)



「…………。」


 あざとさと冷徹と声無きツッコミ。三種の敵意が交戦する混沌が、唐突に止む。



 「どういう意味かしら?」……艶子が反撃の態で発したその問いが、トリガーだったのだ。

 冷徹にはあざとさを、棘には煽りを、敵意には敵意を。

 飄々と応戦していたはずのアメリが、艶子の問いに対し突然口を噤んだ。


「……アメリ?」


 覗き込む先に帯びる憂い。しんしんと浸るその表情に果恋は勿論、艶子までもが息を呑む。交戦が中断される。

 一変する場の空気。二人はアメリの言葉を待った。


 目に珍しい、沈黙する少女アメリ。

 深いまばたきと共に伏せた視線を上げながら、アメリはそっと下腹部に手を添える。


 そしてしんみりと、告げた。



「アメリのおなかにはね、カレンちゃんとの赤ty」


「よし黙ろうか。」



   やっぱりこういう奴でした。

   知  っ  て  た  。



 果恋は猛省する。後悔する。前思を撤回する。取り戻したばかりの通常運転に突っ込みが雑になる。

「憂うな愁うな。意味深な表情すんな。色くさい声やめろ。」

 むしろ一周して冷静な指摘を単調に連発してしまう。もはや「!」を付けるのも面倒くさい。否定するのもアホくさい。

 そんなことより懸念した。


(あーあーあー。コレ系のネタは絶対地雷だよ……)


 おそらく、アメリお得意の悪趣味な悪ふざけは、艶子との相性最悪だ。


 果恋も今でこそこのきわどい冗談に慣れたものだが、生真面目な艶子に免疫があるとは到底思えない。

 ドン引きするか、ブチ切れるか……さあ、どっちだ。恐る恐る果恋は窺う。どちらにせよ空気悪化の一途(いっと)は否めない。



「果恋、」



 まさかのこっちに振ってきたか……。冷淡な呼びかけに冷や汗がつたう。果恋はより慄きながら、固唾を呑んで艶子を窺い続けた。




「彼女の言うことは染色体的に有り得ない(はなし)だわ。あなた、騙されているわよ。」



   あああこういう奴だった!!!

   忘  れ  て  た  !!


 鬼真面目だったか~! 明後日の方向に信じちゃったか~!

 真面目=まともって方程式を根底からひっくり返してくれやがるなぁつやちゃん!!めっちゃ心配してんじゃん私のこと! 超好きじゃん私のこと!

 大丈夫だよ! 私そこまで 馬 鹿 じゃ ね え か ら !!!!



 先のアメリの件によるクールダウンの反動からか、果恋の脳内には当社比数倍もの「!」が飛び交う。


「あはー。ばれた。」

「彼女、高学歴で恋愛経験の乏しい男性との性交渉前に避妊具に穴開けておくタイプと考察するわ。」

「綺麗な顔で何言ってんの?」


 果恋は遂に匙を投げる。

 進まない話し合い。突っ込み切れない曲者×2。情緒不安定な自身の脳内&胸中……半ば諦めた状況下で、二人の会話に混じりつつ適切な指摘(ツッコミ)を入れるのが、最も体力を消耗せず多少の面倒くささにも目を瞑れる方法だと、己を導いた。


「ぷー。しないもん! アメリは実力行使タイプです~。強行手段型です~。」

実力行使(なんの)? 強行手段(タイプ)て?」

「強行されたの? 果恋。」

「いやん。おねえさんってばえっち!」

「あんたたち煽り抜きでくっそめんどくせえ。」


 とはいえやはり面倒くさいものは面倒くさい。そしておそらく艶子に植え付けられているであろう、みだらで不名誉な誤解だけは解いておきたい。


「言っておくけど、私たちこの三日間ド●えもん映画一挙放送してただけだからね。しかも旧ドラ。なんで雨宮家はDVDコンプリートしてんのか謎だわ。」

「あはー。糸子ママ3大七不思議~。」

「それって3つなの? 七つなの?」

「……!(艶子に突っ込まれた……だと!?)」

「何度見ても鉄●兵団のラストは泣けるよねえ。くすんくすん。」


 不覚にもポジション(ツッコミ)を奪われ動揺する傍らでは、アメリが芝居くさい泣き真似をしながら、話題を劇場版青狸へとシフトチェンジしている。



「あたし、銀河超●急が好き。」



 そしてあろうことか何食わぬ顔で話題に乗る大河内艶子。

 彼女の堂々とした返答に、果恋は耳を疑い、アメリはぱちぱちと瞳を輝かせる。


「おっ! 通だねおねえさん!」

「ワクワク感がたまらないのよね。」


 なんという適応力。おそるべき順応性。国民的猫型ロボットまで許容範囲なのかこの女。語調こそ至って冷徹な、正真正銘大河内艶子そのものでありながら繋げる会話(ラリー)が、やはり彼女が只者でないと表している。

 まずい。このままでは最終兵器(アメリ)まで手中に落ちてしまう。ただならぬ不安が果恋を襲った。


「ワクワク感ってなると日本誕●も捨て難いですな~。」

「最高傑作の名は伊達じゃないわよね。リメイクも悪くないわよ。」

「みたみた! ギガゾ●ビ強キャラんなっててやばたん!」

「未来道具でとどめを刺さないって演出には目を見張るものがあるわね。」


 いやこれただのガチ勢じゃねえか!!!!

 世代を超えて愛されてんな青狸!!!!


 てかめちゃくちゃ意気投合してるじゃんこの二人……あれ? 私、いる? 日生果恋の今後とかどうでもいい系? ならないよ? 大河内果恋にはならないよ? そういう話つけにきたんじゃないのかな? え? もう解散しません? あんたら二人でこのままTSUTAYAでも行きなよ、めんどくさいから。私が平和になるから。


 青狸ガチ勢二名による語らいをBGMに、果恋は切に願う。帰ってくれないかな。


 ここでアメリと艶子が和解して、平和的に解散して、大河内家入り云々の問題もなあなあで濁され、明日には何事もなく登校し、平凡な日常を過ごす。そんな漠然とした解決策も悪くないではないか。

 むしろ万々歳だ。青狸バンザイ。


(よし、なんとかこの場は解散の流れに持っていこう……

 ……ここは私もドラ対談に参加して……盛り上がりが最高潮に達したところでTSUTAYAに誘導……うん、この手だ……!)


「……わっ、私的に一番泣けるのは『おばあちゃんのおも――――」



 意気込んで語らいに飛び込もうとした、まさにその時だった。



「ただいま~。

 艶子ー、やっぱどこにもねーんだけど、もずくチップス…………って日生とアメ子じゃん。なんでいんの?」



 無慈悲に妨害する無遠慮な帰宅、もとい乱入。

 なんであんたが然も当然に「ただいま」なんだ、宇喜多(うきた)此花(このか)

 なんでいんの? はこっちの台詞だよこのドスケベボディが。


(成せなかった……私の策……)

 想定外に現れたKYギャルの登場により、果恋の心情は、かの有名な赤壁の戦いにて東南の風を起こせなかったifモード諸葛孔明へとシンクロしてゆく。

 間の悪い女だ、宇喜多此花。そもそも何故ここにいる。いや、ただいまじゃないよ。ただいまじゃ。果恋の記憶が確かであれば、此花が果恋宅(ここ)へ訪れた事などただの一度も無い。

 「お邪魔します」をすっ飛ばして「ただいま」だと? 何があったのだこの三日間。

 普通に大河内艶子をファーストネームで呼んでるしな。まじで何があったんだこの三日間。


「ねーねーコノカスちゃん! 旧ドラ映画の最推しってどれ~?」


 アメリは此花にまで猫型ロボットについての言及を求める。

 広げるな話題を。誰彼構わず巻き込むなトークビッチが。そんな給湯室で先日の合コンについて盛り上がるOLのノリで話すものじゃないよ、あの未来の子守ロボットは。


(ましてや宇喜多にこんな話題(はなし)なんて……)


「は? のび●の結婚前夜一択だし。」


「わかるー!」

「わかる。」

(わかっちゃったよ! 二つの意味で!)


「先生とのシーンで毎回泣くし。」

「それな! お父さんよりも実はガチ泣かせにかかるのは先生って罠~。」

「あのシーンでの『遅刻するな』は秀逸よね。」

「「それな~!!!」」



「…………。」



 果恋は悩む。


 ここで『おばあちゃんの思い出』について語りだしたら、もれなくKY認定、あるいはニワカ判定を受けるのではないかと。いや受けても良いのだけれど。


 ちがう。違う、そうじゃない。

 やはりだめだ。このノリに混ざれない。

(……ていうか、よく考えたらTSUTAYAに誘導したところで上映会はここになるじゃん。畜生。なんでもっと早く気づかないのかな、私ちくしょう。)


 絶望にも似た手持ち無沙汰から、ティーカップを手にしたもののローズヒップは既に底をついていた。麦茶でも出すかと果恋は一人席を立つ。


「……。」

 しかしなんてことだ。冷蔵庫を開けてみると、そこには麦茶どころか飲み物らしい飲み物の一滴たりとも見当たらない。


(なんで? なんでご家庭であまり見ない珍しい調味料やら作り置き総菜らしきタッパーはこんなに豊富なのにミネラルウォーターの一本も無いのですか艶子さん? ていうか宇喜多はさっき何を買いに出てたんだ。もずくチップスってなんだよ。)


 冷気と冷蔵庫内照明を浴びながら、果恋は淡々と嘆く。背後では途切れることのない劇場版青狸談話の真っ最中だ。


「……。

 ねえ、私コンビニ行ってくるけど何か欲しいものあるー?」


 届くか定かでない呼びかけを、一応に送った。


「三平ちゃんWマヨマヨ増し増し~。」

「無花果サイダー無着色よろー。」

「もずくチップス。」

「特殊注文ばっかで泣きそう私。」


 家主がパシるという無常に目を瞑り、果恋は束の間の安息を求め(へや)をあとにした。






 秋の夜更け。東京はどんな時間帯だろうと、どうあがいてもせわしない。

 それでも先ほどの、やかましい事態から一時(いっとき)逃れるには、じゅうぶん静寂だ。


 コンビニへの道中、ひとり歩きながら果恋は思う。


 清々しいほど、何もかもが異常事態だ。

 右も左も、背後も正面も、日生果恋を取り巻く環境・状況・登場人物すべてが異常事態の(ふだ)を貼り付けてくる。

「…………。」

 しかし、不思議なものなのだ。

 今度は、先ほどのやかましく賑やかな女達を思い浮かべながら、果恋は実感する。


 不思議なものだ。この異常事態は、心身を沈ませない。


 もとより、生い立ちの段階で諦めていた人生。異常事態には慣れっこだと自負さえしていた。

 だというのに、現状を取り巻く異常事態に翻弄されている自分がいる。

 そして翻弄こそされているもの、病まされてはいない。


 不思議だ。

 侵されない、蝕まれない、やかましく賑やかなだけの、異常事態。


「…………。」


 力尽くな慈愛を唱える、自称義姉。

 不審なほど間の悪い、ストーカーギャル。


 強烈で強引で強硬で、手荒な愛。



 夜更けの東京を歩きながら、果恋は出掛けに眺めた彼女たちを思い起こすと、



「…………ふふっ……」


 なぜだか不思議と、わらえた。



 疲れすぎたのかもしれない。学校でも家庭でも、近々(きんきん)の人生そのものにも、色々ありすぎた。

 色々出逢いすぎた。色々変わりすぎた。色々思い出しすぎた。色々考えすぎた。本当、いろいろ。


 ありすぎた日常にまだ心情も感情も慣れていないのだ。と、果恋は勝手に結論付ける。おそらく今も青狸で盛り上がっているだろう女共に、参りつつもツボに嵌ってしまう自分が、致し方ないのだと正当化する。


(……なんでこんな事になったかなあ。)


 野暮な問いだ。わかっているくせに、あえて途方に暮れた。


(変わったなあ。私も、まわりも、毎日も。)


 途方に暮れる、ふりをした。



(あの子が……現れてから。)


 自然と歩みが止まる。佇む先の、懐かしいあの場所を果恋は茫然と眺めた。



 桜の名所として名高い都立公園。

 以前果恋が人生の終焉の場として、首吊り自殺を試みたあの場所だ。



(……近所で手ごろだったし、ついでに知名度もあったし……その程度で選んだのが運の尽きだったのかな……)


 止まっていた歩みが、今度は自然と動き出す。


(運の尽き……だったのかな。)

 進行方向をあの日へと目指して、果恋は無意識な寄り道を始めていた。




(丈夫そうな桜の木、探したんだっけ。できるだけ大通り沿いに植えられてて、自殺スポットになるには目立ちすぎな場所。発見は早いほうが良かったし。……ていうか、コンテナ二台って、案外重たかったし……)


 自殺予定地だった木を探しながら、自殺未遂当日のことを思い出して歩いた。


(閉鎖される時間帯も調べたんだよなあ、ネットで。私、結構冷静だったな……いや、死ぬ気満々だったのか。)


 桜の名所ともなると、思いのほか目的の木は見つからない。あてのない散歩のつもりで、最悪見つからなくてもいいや、くらいの心持で果恋は歩き続けた。



(…………だいたいさ、なんだよ、あの子。)



 彼女との(はじ)まりの場を、探し続けた。



(これから首吊るって相手に、「ねー、死ぬの?」って…………)



 また不思議と笑えた。溜息にも似た笑い。



 少女アメリとの出逢いに、心から、わらえた。




「…………。」


 やがて記憶に辿り着く。間違いない、あの木だ。

 外灯も頼りない薄闇の中、淡く穏やかな記憶を胸に、一歩、また一歩と近づいてゆく。目的なんて、無いのだけれど。


 ……ああ、やっとみつけた。


 彼女との出逢いの場所。

 私が死ぬつもりだった場所。

 私が生まれ変わった場所。



 ああ……やっと………………



「…………、

 …………??? ……?」




 その瞬間、

 日生果恋の時を止めたのは、淡い記憶でもセンチメンタルな感慨深さでもない。



「…………!!?」



 少女アメリとの出逢いの場。すべての(はじ)まりの場所。

 あの日、首を吊る予定だった桜の幹の元に、




 ふりふりのワンピースを纏ったツインテールの少女が(うずくま)っている。



    な  ん  か  い  る  。




(……妖精……!?!!!??!?!?!!??)



 淡い記憶もセンチメンタルも一瞬にして吹き飛ぶ。

 恐怖と紙一重のファンタジーな邂逅に直面した果恋は、逃げ出すことも叫び声をあげることもできずに、目前のフリフリ女(※妖精疑惑)を凝視し、警戒した。


 やがて、ミルクティブラウンのツインテールがふわりと動き、フリフリ女(※人外疑惑)が顔をあげる。



「ふえぇん……遊作(ゆさ)の奴ぅ……

 どこ行きやがったのですかぁ……あのビチグソビッチぃぃ……ふえぇええん……」



(シャベッタァァァァァ!! ……日本語……!!)




 絶望の面持ちで泣きじゃくるフリフリ女(※言葉は通じる模様)を前に、果恋はさすがに笑えそうになかった。

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