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アメカレ  作者: 悦司ぎぐ
12/45

12  兵器的ビフォーアフター




 制服規定の無い高校など、然して珍しいものではない。

 しかし、私服校ならではの特有な文化、法則、そして事象は存在するのである。



 その日、私立実謳(みおう)高等学校1年A組は普段と変わらぬ朝を迎えていた。

 何の変哲もない週の半ば、木曜日。あえていうなら、そろそろ中間テストが近づいてくる頃ではあるが、まだまだ生徒たちの私生活を(おびや)かすほどでもない、そんな日であった。


 教室では生徒たちが、其々の青春を享受していた。

 軽口を叩き合う男子グループがあれば、菓子箱や化粧品を広げる女子グループ。恋愛話に華やぐ女子連中もいれば、アプリゲームに没頭する男子連中。とりあえず大声で盛り上がっている集団もあれば、個々で本を読んでいる者、朝っぱらから爆睡している者……


 みな其々各々が違う形の青春を過ごすように、行動も傾向も性格も人格も、異なっていた。


 中でも最も、目に見えて異なる青春の一部が在る。


 外見、だ。


 外見は個人を主張する上で、最も重要な個性であると言っても過言ではない。

 特に思春期真っ只中、青春ど真ん中である十代半ばの彼らには、その性質がより顕著に表れており、派手に賑わう者は流行を抑えた垢抜けた恰好を、地味に潜める者は無難で野暮な恰好を、好む傾向にある。


 規定の制服でさえ、スカート丈や小物、釦を外す数等で個性が出るというのに、私服であれば尚更、個性が前面に出てくるのだ。


 つまり私服高校では、外見が必要以上に重要視されるという『文化』の中、外見で相手の性格人格傾向を判断するという『法則』が存在する。




 そして、時によりその外見は、誰もが注目せざるを得ない『事象』を起こす。




 その日、私立実謳高等学校1年A組は普段と変わらぬ朝を迎えていた。



 変貌を遂げた、日生(ひなせ)果恋(かれん)が現れるまでは。




「…………!?」

「!!!!!!」

「!? !?!?」


 気配だけでも視線の集中砲火が感じ取れた。

 しかしアメリに念を押された、「直視するな」「焦点をずらせ」との命令を、果恋は遂行する。その命は有り難いことに視界を不鮮明にぼやけさせ、すっかり果恋を、知らぬが仏状態にさせていた。


 教室中の生きた眼が、身体の他機能を全停止させてまで、日生果恋の登場に刮目していた。


 ブロンドの入り混じるオレンジベージュのショートボブ。

 彼女の首の長さ、線の細さ、股下の長さを生かした、丈のあるニットと細身のパンツ。

 露わとなった、精悍で中性的な、美しい(かお)


 先週まで教室の空気だった、風貌は男、名前だけ乙女、地味で暗い日生果恋など、もはや見る影も無い。



 ……なるほど、アメリも偶には役に立つ。命じられた秘技『視界ぼかし』を保持しながら、果恋はアメリのアドバイス諸々を思い出していた。



 「見渡すなら焦点をずらす」「ぜったい直視しちゃだめ」「基本スローモーション」……そうしとけばとりあえず挙動不審にはならないはずだと、アメリは策をあげたのだが、果恋には当初、「スローモーション」案だけがどうしても、理解も遂行もできる自信が無かった。


 陰キャガチ勢なめんな。主張したところ、アメリはまた別の策を練る。しかし別案などそう簡単に浮かぶものではない。

「……そうだ!」

 なのでアメリは、策の例えを変えることにした。



「ミチオちゃんだよ! ミチオちゃんになりきるの!」



 大天使、朝丘(あさおか)道臣(みちおみ)を模せ。


 大胆且つ雑、そして畏れ多い策ではあったが、不覚にも納得してしまう果恋だった。





(……この場合、朝丘道臣ならどうする……?)

 ぼやけた視界の、輪郭がはっきりしないクラスメイト達を前に、果恋は考えた。


(朝丘道臣なら…………)

 天使とのファーストコンタクトを思い出す。

 柔らかい物腰、落ち着いた仕草……あの日の彼を再現するように、果恋はクラスメイト達を丁寧に見渡した。どれが誰かは判らないが、一通り視線を移した最後に、果恋は適当なグループに目を留める。

 色合い的に……無難な女子グループと言ったところか。特定の人物とは視線を合わせぬよう視界をぼかしたまま、脳内に朝丘道臣を思い浮かべ、表情を再現した。


 ゆったりと、穏やかに、絶妙な間で、


 にこりと目を細める。




「おはよ。」




「!!!!!!!!!!」

「!!!!!!!!!!」

「!!!!!!!!!!」

「!!!!!!!!!!」

「!!!!!!!!!!」




 その微笑みに、教室中衝撃が走る。クラスメイトをあらゆる角度から串刺しにする。


 果恋の見えぬ世界で、一瞬で陶酔する者、ときめく者、心臓を撃ち貫かれる者、おちる者、乙女の眼差しを燈す者……男女見境無く甚大な被害が広がってゆく。


 知らぬが仏。あるいは、無自覚の罪。

 即死レベルに射止めた屍たちに気づかぬまま、日生果恋は席についた。


(……よし、)


 彼女からすれば、嘲笑まじりの注目を回避できて万々歳、そして自己完結してまったのだ。視界はぼやけていたけれど、笑われていなかったことだけは確かだ。

 安堵の息をつく。笑われなかった。それだけで充分だったのだ。


(意外とリアクション、大したことなかったな。……私、ちょっと被害妄想しすぎてたかも。)


 勘違いだらけの平穏確定を胸に、果恋は存外、暢気になってた。

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