第四十七話 レッツショッピングⅢ
歩き進めること十数分。
王都の商店街へとたどり着いたアリア達は、豊富な店舗数に目を輝かせる。特に、こちらに来てからまだ日が浅い美結と真樹と奈々子は目の輝きようが他のメンバーとは違う。
「まずはどこによる?!」
奈々子が鼻息荒く問うてくる。
「そうだな、私としてはどこからいってもいいのだが」
「まずは髪飾りとか、そういう小物が売っている店にしましょう。服屋だと持ち運ぶときに不便だし、長時間買い物をするとなると荷物は少ない方がいいしね」
真樹の提案に皆賛同を示す。
「それじゃあまずは……よし、あそこにしよう」
そう言ってアリアが指さしたのは、髪飾りやイヤリングなどの女性向けのアクセサリーが売っているお店だ。
「そうね。行きましょう!」
真樹が元気よく返事を返す。皆も賛成のようであった。
開けっ放しの扉をくぐり店内に入る。
「おああぁぁ~きれ~~~」
店内に入った瞬間、美結が感嘆の声を漏らす。
店内には所狭しとアクセサリーが飾られていた。だが、配置は丁寧で見る人の目を引くようになっていて、決して乱雑に置かれているわけではなかった。
商品の見せ方ひとつとっても職人の技なのかもしれない。
「確かに、綺麗だな」
「そうね」
全員が店内に入ると、自然とバラけて商品を見始める。
バラけてと言っても二、三人での行動だ。
「ねえねえ」
アリアがネックレスを見ていると、隣にいる美結が声をかけてくる。
「ん?なんだ?」
「これ、アリアちゃんに似合いそう!」
そう言って美結が見せてくるのは、中央にルビーのはめ込まれたネックレスだった。
シルバーで作られたチェーンとルビーをサイドで挟むようにしてつけられたクリスタルが、ルビーの燃えるような赤を引き立たせていた。
おそらく美結は、このネックレスがアリアのようだから似合うと言ってきたのだろう。
確かに、アリアの銀髪と深紅の双眸のようではあった。
「そうだな、私のイメージカラーが入ってるもんな」
「うん!どうかな!?」
「良いと思うけど、今の私じゃあつけてみても分かんないしなぁ…」
そう言ってアリアは自身の髪を触る。その色は、魔道具の能力で黒色になっている。
「いったん解いてみたら?」
「騒ぎにならないか?」
アリアがそういうと、美結はくるりくるりと周囲を見渡す。
「大丈夫、店員さんしかいないよ」
「いや、店員さんいるんじゃダメじゃん」
「大丈夫!一人だけだから!それに今アリシラさんと話してるから!」
「むぅ…確かに………はぁ、しかたない」
アリアはそう言うと、魔道具を解除する。
瞬間、髪の毛が少しだけ魔力的な光を帯びたあと、霧散する。霧散した魔力の下から出てきたのはいつも通りのアリアの綺麗な銀髪であった。
だが、あまり油断もできないので早々にネックレスをつける。
「どうだ?」
アリアが訊くと、美結は満面の笑みで返す。
「うん!すごく似合ってるよ!」
「そ、そうか?」
真正面から褒められて、少し照れくさくなるアリア。
それを誤魔化すように鏡をのぞき込み自分の姿を確認する。
「うん…」
自然と少しだけ口角が上がる。
美結の言う通り、似合っていた。
満足げに頷くと、ネックレスを外す。
「よし、買おう」
「まさかの即決!?いや、選んだアタシとしては嬉しいけど…」
「美結が選んでくれたものだしな。それに、私自身も気に入ったんだ」
アリアはそう言いながら、魔道具をもう一度発動させて髪を黒色にする。
「で、でも、宝石だよ?高いんじゃないの?」
「無問題だ。値札を見てみろ」
「え?………あっ!」
アリアに促されるまま値札を見た美結は驚愕する。
「や、安い!?」
美結が見た値札には一般の冒険者が二、三簡単な依頼をクリアすれば余裕で変えるほどの値段が書かれていた。それどころか、一般人でも容易に手が届く値段であった。
「な、なぜこんなに安いんだ!?」
驚愕し、若干のキャラ崩壊を見せる美結に、アリアは苦笑しながら答えようとした。が、どこからともなく店員が現れ、説明を始める。
「当店で扱っている宝石類は、全て一流店に並ぶことの無い――いわば、価値の低い宝石なんです」
店員のその説明に美結は更に驚愕する。
「うっそぉ!?……全然そんなふうには見えないのに……」
そう言いながら商品をまじまじと眺める美結。
美結がそう思うのも無理はない。アリアだって、今でも店員の説明が冗談なのではないだろうかと思ったりするからだ。
美結のそんな態度が嬉しいのか、店員はくすりと微笑む。店員にとっては、一級品を使っているのではと疑われることは、それだけ自分の加工技術が優れているという証明でもある。
自身の加工技術で三流品を一級品にまで格上げする。その技術力の高さは、素直に賞賛を通り越して感嘆の声しか上がらない。
「アタシには宝石の価値とかわかんないけど、これ絶対三流品なんかじゃないよぉ~!とても綺麗だもん!…はっ!もしやお姉さん!一級品をわざと三流品って言ってサプラ~イズ!的な感じ!?」
美結のそんな物言いにアリアも店員も少しばかり苦笑する。
「美結、そんなわけないだろ?そんなドッキリ好きなお店じゃないよここは」
「ええ~。でもすごく綺麗なんだよ?」
「それは職人さんの腕がいいんだよ。どんな三流品でも、ここの職人さんの腕にかかれば一流品になり替わる。そういう、優れた職人がアクセサリーを作ってるんだ。綺麗に仕上がらないわけがない」
「へえええ~~~!そうなんだ~~~!」
アリアの説明に、美結はキラキラと目を輝かせる。店員も、アリアの説明が嬉しかったのか、頬を少しだけ朱に染めて照れている。手放しの賞賛が少しむずがゆいのだろう。
そんな照れを隠すためか、店員が補足説明を入れる。
「お客様のおっしゃったとおり、宝石の方はあまり価値が高くありません。ですので、お値段が安くついているのです」
「そうなんだ~。これなら手軽に買えていいね~」
「ええ。当店は、もともと手軽に買えるアクセサリーを売るために立ち上げたようなものですから」
「え、そうなのか?」
店員の言ったことに今度はアリアが驚く。この話は、アリアも初耳だったからだ。
「はい。私どもは、もともと王都ではなく片田舎の町で暮らしていました。そこでは、こういったアクセサリーを手に入れるにも、他の盛んな街へと遠出しなくてはいけませんでした。そう言った不便を無くしたくて、この店を立ち上げたんです」
「「ほお~~」」
二人同時に感嘆の声を上げる。
「ここを一号店にして、他にも店舗を拡大する予定なんですよ」
「それは良いな。どこでも手軽に買えるようになれば、国中の女子は大喜びだ」
「そうだね~!おしゃれは女の子の生きがいだもんね~」
「頑張れよ。応援している」
「はい。ありがとうございます!」
買い物を終え、店から出る一行。
皆良い笑顔をしていることから、満足のいく買い物ができたことが窺える。
だが、手には荷物を持っておらず、皆一様に手ぶらだ。
その理由はと言うと、
「いや~、そう言えば《停滞の箱》使えるんだった。別に手荷物の心配する必要なかったな~」
そう、アリアは空間魔法《停滞の箱》が使用できるのだ。それに、アリアだけに関わらず、アリシラも使える。
二人とも《停滞の箱》の収納量はけた違いに多いため、数量を気にする必要もなかった。
「うっかりしていたわね。そう言えば、こちらには魔法があったのよね」
「そうだね。こっちの生活はまだ日が浅いからね~」
真樹の言葉に奈々子が同意で返す。
「それなのになんで二人は忘れていたのかな?」
美結が純粋な目でアリアとアリシラに問いかける。
その視線に二人は気まずそうに視線を逸らす。
「買い物は、全部ロズウェルに頼みっぱなしだったからな……」
「買い物は、そこら辺の兵士にお使いで頼んでたからねぇ……」
二人のその返答に、五人は苦笑する。
「そう言えば、エリナさんとユーリさんは、空間魔法使えないの?」
「ええ、使えないわ」
「私も使えませんね」
「じゃあ、買い物はやっぱり」
「手荷物はあります」
「だよね~」
ユーリの返答に美優は安堵の声を漏らす。
「全員空間魔法使えて、手荷物とか考えないのかと思っちゃったよ。皆手ぶらなのに自分だけ手に何か持ってるって違和感凄いし」
言われてみれば、皆が手ぶらなのに一人だけえっちらおっちらと荷物を抱えているのは、なかなかにシュールな光景であった。
「その心配はいらない。空間魔法は本当に一握りの人しか使えない」
「ええ。あのロズウェルさんも使えませんしね」
「まあ、ロズウェルは魔法全般が苦手らしいけどな」
「苦手というか下手くそね。数種類は無詠唱できるけど、他はからっきしだし」
四人の言葉に、三人は意外感を覚える。
「意外だね。なんかロズウェルさん、何でもできるイメージだったんだけど」
「そうね。なんでもスマートにこなして見せるイメージはあるわね」
「むしろ出来ないことがない完璧超人なのだと思ってたよ」
三人のロズウェルに対するイメージに、アリアは頷きながら答える。
「まあ、三人のイメージは分かる。私もそう思ってたしな。魔法が下手くそだって知って驚いたし」
「ただ、それを補って余りあるほどの剣の才があります」
「余りあるどころか、魔法なんて出る幕がないな」
「剣だけで魔法と渡り合うからな」
「ワタシ斬撃飛ばしてるの見て心底驚いたわよ」
「ロズウェルさんって、いったい何者なんですか?」
真樹の疑問はもっともだろう。正直、アリアでもよく分かっていない。
「さあな。代々女神に仕えてるってのは聞いたことあるけど――――――っと、このままロズウェルの話を続けててもいいが」
アリアはそう言って立ちどまると、親指で店をくいっと指す。
「そろそろお昼にしないか?」
アリアにそう言われ時計を確認してみると、確かにお昼には良い時間であった。
どうやら、先ほどの店で結構な時間を過ごしていたようだ。
皆アリアの言うことに頷き、お昼ご飯にすることにした。




