表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アシュレイの桜  作者: 梨香


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/29

新しい小姓(ページ)

 アシュレイもやっとヨークシャー城の生活に慣れてきた。

 師匠のカスパルが優秀な魔法使いなのもわかったけど、竜の卵の孵し方を知らなかったのは、残念だと思った。


「どうせ、ヨーク伯爵のお供でサリヴァンに行くのだから、その時に私の師匠に尋ねてみよう」


「えっ、王都へ行くの? 王都って遠いんじゃないの?」


 アシュレイは、その間、祖父母と会えないと顔を顰める。


「貴族は、新年に王様に挨拶するんだよ。私達は、ヨーク伯爵に雇われている魔法使いだから、道中の警護役もしなくてはいけない。王都までは、急げば一週間で着くが、途中の貴族の館で泊まりながらだから、二週間で着けば良い方だな」


「えっ、じゃあ一月もお婆ちゃんやお爺ちゃんに会えないの? 俺だけ、飛んで帰っても良い?」


 ゴツンと拳骨が落ちた。


「護衛が伯爵を放置して、勝手な真似をして言い訳がないだろう! それと、祖父母さん達は、一月ぐらい平気だよ」


「病気になるかもしれないじゃん! 俺がいればすぐに治せるけど……薬を置いておこう!」


 今にも飛び出しそうなアシュレイを、カスパルは襟首を掴んで止める。


「その前に、長期の旅行になるから、その準備をしなくてはいけない。ミーナさんの所に行って、王都に相応しい服を貰いなさい」


「これじゃあ駄目なの?」


 魔法使いの黒のローブを貰っているアシュレイは、十分だと首を捻る。


「ローブはそれで良いが、下に着ている服は、もう少し良い物が良いだろう」


 師匠がそう言うなら仕方ない。アシュレイは、少し苦手なミーナさんの所へと渋々行く。


 ちょっと天罰とか怖そうなので、行儀良くノックする。女の人が着替え中だと駄目だからだ。


「ああ、アシュレイかい? お入り」


 名乗っていないのに、何故? でも、気にしても分からないから、アシュレイが扉を開けると、そこには小さな男の子がいた。


「他の人の用事があるなら、俺は後で良いよ」


「いや、この子は新しい小姓ページだから、服は決まっているのです。ただ、こんな幼い子は普通はよこして来ないので、服を縫い縮めないといけないのよ」


 アシュレイは、年の割にチビだけど、目の前の少年はそれよりも小さい。


「怪我をしているじゃないか!」


 ミーナさんが小姓(ページ)の黄色と黒の服を着なさいと言ったので、今着ている服を脱ぐと、身体中にアザがあった。


「まさか、小姓(ページ)達にやられたの?」


「違うよ……兄達に『グズ!』と叱られたんだ。ここで小姓(ページ)としてやっていけるのかな……」


 茶色の目から涙が溢れる。小姓(ページ)って、貴族の息子だと思っていたけど、脱いだ服はベゲット師匠が買ってくれたのよりボロだ。


「口減しに小姓(ページ)にしたのね。でも、ヨークシャー城はいい所よ。少なくとも理由もなく殴られりしないわ」


 さっきも師匠に拳骨を貰ったアシュレイは頷く。あれは、護衛放棄をしてはいけないと叱られたのだ。


「痛そうだから、治してあげるよ! 俺は、魔法使いのカスパル師匠の弟子なんだ」


「良いよ! 治療代なんて払えないから」


 遠慮する少年に「こんなのタダで良いさ」とアシュレイは治療を掛ける。


 黒や黄緑や紫のアザが、あっという間に綺麗になった。


「おや、おや、アシュレイはちゃんと修業しているんだね! そうだ! 王都に行く服が必要なのでしょう!」


 ここに来た目的を話したかな? と首を捻るアシュレイ。


「ありがとう! 私は、レオナール!」


 ニコリと笑うと可愛い顔をしている。


「うん、俺も先月来たばかりの新顔なんだ。アシュレイと言うんだ」


 ナッシュの小姓(ページ)の服はブカブカなので、ミーナさんが縫い縮めるのを待つ。


 何故か、アシュレイの晴れ着は用意されていた。


「ほほほ、新年に王都に行くのは前から分かっていますからね。こちらは旅行中、そして王都ではこちらを着るのですよ。ヨーク伯爵の魔法使いが、貧相な格好をしていたら駄目ですからね」


 旅行着は、汚れが目立たない暗い色だったから良い。でも、王都の服はちょっとアシュレイには派手に思えた。


「若様のお古だけど、黒のローブを着るのだら、そんなに目立たないでしょう」


 やはり、高価な服なんだと、アシュレイはうんざりする。汚さないように気を使うのは、苦手なのだ。


「良いなぁ!」とレオナールは羨ましそうな声をあげる。


「ふふふ、貴方も真面目に小姓(ページ)として働けば、良い服も貰えますよ」


 そんなものなのか? アシュレイは理解できない。


 でも、他の小姓(ページ)より気安い気がするレオナールにこれからは師匠から伯爵への手紙を渡せば良いんだと喜ぶ。


 他の小姓(ページ)達は、チビのアシュレイを少し馬鹿にした目で見ているのだ。


 それを小姓頭に悟られないように隠す狡賢さも持っているから、手紙もちゃんと届けられるけど、ちょっと嫌な感じがするだけで実害は受けてはいない。


 本来なら、小姓(ページ)より魔法使いの弟子のアシュレイの方が上なのだけど、農民丸出しが良くない。


 魔法使いが貴族出身とは限らないけど、貴族と同じ扱いだし、裕福な出が多い。

 それなのにアシュレイは、いつまでも農民っぽさが抜けなかった。

 クルクルの巻き毛が、あちこちに跳ねているのが良くないのかも。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ