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リアーチェ・デイネルス侯爵令嬢の結婚  作者: お冨


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7/9

婚約破棄の噂

 久々に更新します。

 正月特番の短編が長引いて中編になってしまったので、長らくお待たせしました。

 中編はシリーズから行けますので、覗いてみて下さい。

 王立中央高等学園には、留年制度が存在しない。

 第三王子レイモンド・デルスパニア殿下が病気療養のため、学園に姿を見せなくなって一年。単位不足のまま卒業できずに、中退あつかいになっている。


 卒業できなければ、学力または体力の欠如を理由として家督相続の権利を失う。

 このルールは、王家にも適用される。王位継承権を失い、表舞台から姿を消すことになるのだ。


「構いませんわ。レイモンド殿下には婿入りしていただきますもの。家督相続するのはこのわたくし。殿下が卒業できなくとも何の問題もございません。婚約解消の必要がどこに有りまして」


 リアーチェ・デイネルス侯爵令嬢は、自身を包囲する伯爵令息たちに嫣然と微笑んだ。




 学園に取り残された形になったリアーチェ嬢は、毎日離宮へとお見舞いに通っていた。お供は、卒業後正式にレイモンド殿下の側近に就任したエザール・ランドール子爵令息。

 すでに殿下が死去していることは国家機密、全ては隠蔽工作だった。


「全く、うっとうしいわ。表向きはまだ婚約継続中なのに」

 離宮に向かう馬車の中で、淑女の仮面を脱いだリアーチェ嬢が愚痴をこぼした。


 聞き役のエザール卿が口を挟む。秘密を共有する者同士、身分違いの遠慮はとっくに消えていた。


「王家からは正式に婚約解消の申し出があったんでしょう。そろそろ受諾しといた方がスムーズでしょうに」

「スムーズに次の婚約者を決めろって言われてもねぇ。見たでしょう。わざわざ自分の婚約者を捨ててまでわたくしにすり寄って来る男なんて、願い下げだわ。不誠実なロクデナシなんてごめんよ」


 どこから漏れたのか、王家からの申し出はすでに婚約解消済みという噂になって広まっていた。

 デイネルス侯爵家の入り婿の席が空いたと、目の色を変えた男子学生に取り囲まれる日々だ。


「先週は決闘騒ぎまで起きたと聞きましたよ」

「無駄にプライドの高い馬鹿が多いだけよ。怪我人は出たけど死者は出なかったし、学園内の不祥事で終わったわ」


 リアーチェ嬢は軽く言っているが、そこそこ深刻な事態だったと、エザール卿は聞いている。

 関わったのは、全員が伯爵家の者。学園内にとどまらず 家同士の力関係に影響が出たらしい。


「しかし、殿下との婚約を盾に出来るのは、死去が公表されるまででしょう。もう半年もありませんよ」

「そうなのよね。大丈夫。ちゃんと考えているから。それはそうと、テイラムは元気かしら。毎日顔を合わせてたのに、当分会えないのは寂しいわ」

 殿下の影武者を務めていたテイラムは姿を消した。公私共に殿下とリアーチェ嬢を繋いでいた彼だが、既に役目を終えている。


「まあ、後十年もすれば会えるようになりますよ」


 死者は歳をとらない。生きているテイラムの容姿は、永遠に青年のままの殿下とどんどん掛け離れていく。

 良く似た他人で通るようになったところで、平民のテイラムが侯爵令嬢の傍に戻ることはおそらく不可能だろうが。


「エザールはどうするの。殿下の事が公表されたら側近の地位は自然消滅するわ。初心に戻って国の文官目指すのかしら。侯爵家に就職してもらえるなら歓迎するわよ」


「そう、ですね。考えてみます」


 

 

 後日。

 エザール・ランドールは、子爵家に戻った。


 レイモンド殿下とリアーチェ嬢、お二人にお仕えできたらどんなに良かっただろう。

 殿下以外の方と結婚される侯爵令嬢の傍には残りたくなかった。遠くから幸せを祈る、それで良いと思った。


 跡取りの兄の補佐として領政を手伝い、そのまま中央とは距離を取る。

 下位貴族として当たり前の人生に戻るだけ。


 本気で、そう思っていた。









 ようやくここまで来ました。次話は、いよいよ王家への直談判の予定。女傑様無双をご期待くださいませ。


 お星さまとブックマーク、よろしくお願いいたします。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ここからどうやって無双の直談判するのか。楽しみ。 [一言] 久々の更新嬉しいです。
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