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最強の座

 闇魔法を食らったら詰み。それが全プレイヤーの認識だ。


 唐突に無重力空間に放り出された人間に、一体何が出来るというのか。

 もがけば溺れ、剣を振れば空転。ちょっとだけ動ける簀巻き状態みたいなものだ。問答無用で敗北を押し付ける邪法。それが闇魔法だ。


 そんなふざけたシステムの暴力に対し、あっさんが取った対策は……同じくふざけたものだった。


「ほう、ほう! これは面白いことをする!」


「凄い絵面ね〜……あんなのいつ用意したのかしら」


「有効的っぽいのがまた、なんともって感じだな」


 ヨミさんが興奮し、ユーリが呆れ、ドブロクさんが微妙な顔をする。

 うーん、確かにその発想はなかった。そうきたかーとしか言えない。突飛な策だ。だがうまいことハマっている。メアリスが攻めあぐねているのを見るのは初めてだ。


「完全に囚人だよね。どんな重い罪を犯したらあんなの着けられるんだろうね」


 未知のスキルを連発して主導権を奪取したあっさんは、続けざまにインベントリから馬鹿でかい鉄塊を取り出した。それはもうデカい。五立方メートルくらいあるんじゃないか。

 おそらくはインベントリ容量を限界まで使っているだろう。どうやって用意したのか真剣に気になるところだ。


 そんな鉄塊から伸びている鎖をあっさんは掴んだ。轟音を立てて落ちた鉄塊につられるように落下したあっさんはジャラリと鎖を手繰り寄せ、表面についていた取っ手のような突起に足をハメて強引に足を付けるという荒業をこなしてみせた。


 うん、意味分からん。どうしてそんな発想に行き着いたのか本当に分からない。そしてメアリスに効いてるのが一番理解できない。

 鉄塊に張り付いているあっさんは自分からは攻める事が出来ないが、不格好ながら下半身の安定を取り戻したのでメアリスの攻撃を危なげなく捌いている。千日手だ。


「あの……ちょっとした疑問なんすけど、メアリス、さん? って、あの鉄塊を浮かせること出来ないんすか?」


「ほう! いい着眼点だ! 少し長くなるが私の推論で良ければ聞くといい!」


「ひっ!」


 不用意に口を開いたモブショーゴが解説役のヨミさんの魂に火を着けてしまった。待ってましたと言わんばかりにヨミさんがペラ回す。


「闇魔法。起こす現象から巷では重力操作などと呼ばれているが、私はあれは『係数の操作』だと当たりをつけている。物理演算に介入する技とでも呼べばいいのか。ゼロとイチに割って入るそれは、まさに神の力の一端を借りていると評していい。無敵と呼ばれるのも納得だな?」


「アッ、ハイ」


「分かりやすく言うならば、水中だと動きが鈍るゲームがあるだろう? あれだ。あれを更に悪質にした環境を好き勝手に押し付けることが出来るのだ。自分には都合のいい環境を敷きつつ、相手には不利な環境を押し付ける。それが闇魔法の正体だ。仮説だがね。だが当たらずといえども遠からずだと思っているよ」


「アッ、ハイ」


「だがしかし、あれには限度がある。そう睨んでいる。今よりもログイン人数が多かった時期は、もっと大勢のプレイヤーがメアリス打倒に群がったものだが……同時に浮かせられる人数には限度があった。二百十五人。それが最高記録だ。あれはけして無限の力ではない。一定の大きさか、それとも重さか、数か。どこかに限界があり、そして『先駆』の連中は重量に山を張ったというところか。そしてそれが功を奏した、と。中々に締まらない絵面ではあるが、勝てば官軍。妙策として語られることになるだろうさ。とまぁ、推測が多分に含まれていて申し訳ないがこんなところだ。理解できたかね?」


「アッ、ハイ」


「宜しい」


「ウス……」


 わかった? シラギクに視線を向ける。シラギクはブンブンと首を横に振った。だよね。なんだよ係数の操作って。起きてる現象が似てるなら重力操作でいいじゃんね。


「それより、あのあっさんて人はなんでさっきの技を使わないんだ? あれ連発してれば勝てるだろ」


「ほう! いい着眼点だ! 私の推論で良ければ聞くといい!」


「ひえっ」


 ヨミさんは『このゲームの特殊な技にはクールタイムが設定されてるから連発できない』と言えば済む内容を長々とペラ回した。アッ、ハイbotと化したタクミー。哀れ。


 このゲームのスキルはハズレが多い。火力面で剣士がカーストトップを独走しているが、得られるスキルは軒並みゴミという悲惨さだ。全体的に隙が多いので使うと死ぬというトンデモ調整が施されている。ゴミかな?


 大体の戦闘職で得られるスキルも似たようなものだが、そんなゴミの中にも有用なスキルが埋もれているからタチが悪い。

【踏み込み】と【空間跳躍】が必須と呼ばれているのは転職一つで得られるスキルだからだ。まだ誰も発見していないだけで、環境をひっくり返すスキルは他にも存在する可能性は高い。ちょうどあっさんが披露した新スキルのように。


 冗談のようなレベル上げ効率が為せる業。他にも有用なスキルをいくつも抱えているに違いない。得た情報は『検証勢』と議論を交わした後にwikiを通じて公開される。

 ただ、無闇矢鱈と公開されるわけではない。レッドネームが強化されたらいよいよ手が付けられなくなるからだ。


 だからそれは誰よりも先を駆ける者の特権。ビックリ箱のような生態をしているあっさんが再び飛ぶ刺突を放つ。


 メアリスが回避のために空中を旋回しながらあっさんに迫る。遠心力を乗せた鎌の一振りは、豪速で振るわれた迎撃の剣に弾かれた。情けない格好ではあるが、地に足がついている状況はでかい。踏ん張りが効くか効かないかでは雲泥の差が生まれる。


 後隙に放たれる追撃。ブレた腕から繰り出される剣閃は甘えた回避を刈り取る。一撃離脱。あっさんを相手取るにあたり、必ず遵守しなければならない鉄則だ。


 攻めっ気を出した瞬間、理不尽な一撃が短慮を咎めるように命を摘む。ラグスイッチ。もしも闇魔法がなかったら、チートと呼ばれているのはあっさんだったかもしれない。


「腰が引けているぞ?」


「フン。亀のように愚鈍な引き篭もりが、口だけは達者なようだ」


 舌鋒も鋭い。だがメアリスにはいつものキレがない。被弾が効いているのだ。

 このゲームはダメージの蓄積に伴って身体の動きが鈍る。ポーションで回復すればいいのに、何を意固地になっているのかメアリスは負傷を放置している。プライドかね? 魅せるやつだよ、ホント。


 その後二、三合と打ち合うもあっさんが崩れる気配は無い。メアリスとしては早めに仕留めたいはずだ。あの瞬間移動のスキル……あれを乱戦中に唐突に放たれたら回避は厳しい。

 クールタイムは五分か、十分か、それ以上か。初見の情報だ。圧倒的に知識が足りない。受けるプレッシャーは相当なはずだ。


「相変わらず厄介な技だ!」


「お前が言うな」


 悪質なラグスイッチを前にメアリスが押されている。大衆の予想を大きく裏切る形だ。

 メアリスは闇魔法に依存しすぎた。あっさんはイカれた修行で研鑽を積み、研究の果てに奇策を引っ提げて万全の状態で挑んだ。これはその差だろう。


 メアリスは別に闇魔法がなかったら弱いというわけではない。むしろ上位に食い込むくらいには動けるはずだ。フレイヤたん並だろうか。シンシアには普通に勝つかも知れない。だが、土俵を同じくした場合、あっさんという異物が強すぎるのだ。


「リーダーは、勝てるだろうか……」


「……」


 かませに成り下がった二人が隣で固唾を飲んで見守っている。油断してたら味方の銃撃でやられたシンシアは少しでも取り繕おうと必死だ。


「勝ってもらわなきゃ困るよ。僕が協力したんだから」


「お前……ふん。素直にリーダーを応援してると言え」


「別にあっさんを応援してるわけじゃないよ。ただ、あの悪役(ヒール)がそろそろ引きずり下ろされるのは見てみたいかな」


「ああ。最強に相応しいのは……リーダーだ」


 それっぽい雰囲気を作ったシンシアが立ち上がり、欄干を掴んで身を乗り出す。ざっと立ち上がった廃人連中が続く。

 恐らく少年誌ロールプレイすることで何かしらの間違いが起きて自分達も闇魔法が使えるようにならないかと試しているのだろう。感情を殺すことを仕込まれた彼らがこんな簡単に感情を表に出すはずがない。強かな連中だよ。


「ふん! メアリスちゃんが負けるわけないでしょ! メアリスちゃんには新衣装っていう秘策があるんだから!」


「それは秘策でもなんでもないでしょ」


「ま、分からないならそれでいいわ〜。むふふ」


 意味深な発言をしつつおっさんのような笑みを浮かべたユーリ。あの服……何か仕込んであるのか? だとしたら、なぜ使わないのか。まあいい。いずれ分かることだ。


「っ! おい、アレ! あの鉄塊……浮いてないか!?」


「何だと? まさか、係数操作の限界を超えたとでもいうのかッ!」


 大袈裟なリアクションを取ったドブロクさんとヨミさんにつられて鉄塊に視線を向ける。……確かに、僅かではあるが浮いている。均衡が、崩れる。


「ッ……お前は、どこまで」


「最強の座に拘りは無いが、だからといって負けてやる気はない。その程度の浅知恵で簒奪を為そうなど、業腹だ」


 メアリスが鎌を振るう。鉄塊が傾く。取手に引っ掛けていた足が離れていく。浮かされたら最後、待つのは羽をもがれて潰される未来だ。


 あっさんが咄嗟に足元の鎖を掴む。身動きが取れなくなるのだけは避けなければならない。そういう判断だろう。


「往生際が悪い!」


 注意が逸れた瞬間にメアリスが翔ける。猛禽の蹴爪のように鎌が閃く。迎撃は……間に合わない。


 あっさんが跳んだ。鎖を引いて鉄塊に足を着け、直上へ。鎌を避けた。避けたが、羽はもがれた。


 闇魔法。今度こそ、あっさんが宙空で静止する。予備の鉄塊はもう無いだろう。いくつも用意できるような代物ではなさそうだ。


 何か打つ手はあるのか、あっさん。


「終わりだッ!」


 直下から追い縋るようにメアリスが翔ける。あっさんは背を見せている。迎撃は出来ない。このまま首を刎ねられて、終わりなのか?

 あっさん。なぜ。なぜ使わないんだ。理解できない。


 鎌が閃く。勢いは充分。一撃で終わる。レベル20同士の戦いはそういうものだ。攻撃力の上昇に防御力が追い付かないから、急所への一撃がまともに入ればあっけなく終わる。


 無様を晒すなよ。僕は立ち上がっていた。


「本気を出せッ! 勝てッ!」


 黒鎌が首を捉える――――が、あっさんは死んでいなかった。


「やるじゃん」


 インベントリ操作。刹那の閃き。あっさんは豚の着ぐるみを纏っていた。恩恵は――防御力の上昇。耐えた。致命の一振りを、とっさの機転でやり過ごした。


「っ! だが次で……ッ!?」


 インベントリの操作は一瞬だ。慣れれば念じるだけでアイテムを取り出せる。


 反転して直上から襲い掛かったメアリスが見たのは……着ぐるみを脱ぎ、僕が手渡した爆弾を抱え、導火線に指を添えたあっさんの姿だ。


 致死圏内。巻き込まれる。メアリスの脳裏には走馬灯がよぎっていたに違いない。

 極限まで研ぎ澄まされた意識。仕留められるか。否。弾指に追い縋るのは――不可能。無理押しを通せば、良くて引き分け。下手を打てば……敗北。

 あっさんが指を打ち鳴らし、爆弾へと着火した。極端に短い導火線が示すのは爆発までの猶予時間。一秒。


 果たして、メアリスは直上へ飛んだ。

 まずは自身の生存を最優先。然る後、無防備なあっさんの首を落とせばいい。安全策でいい。突っ張る理由がない。そんな当たり前の結論。当然の帰結。


 まああれただの容れものなんだけどね。


 あいにくと、僕が手渡したのは中身の入ってないハリボテだ。ブラフ。あっさんから虚仮威しの札が一枚欲しいと頼まれたので一芝居打ったのだ。


 パカッと割れた容れものがあっさんの手からこぼれ落ちる。予想していた衝撃は夢まぼろしであったかのように霧散する。拍子抜け、という言葉がこれほど似合う状況もないだろう。


「……は?」


 気の抜けた一瞬。意識の間隙。空白を塗りつぶすのは仕掛けた側のあっさんだ。インベントリの操作は既に済ませている。


「隙だらけだ」


 見上げる先には呆けた獲物。構えるは火縄銃。位置取りに寸分の狂いなし。天を堕とせとマズルフラッシュが瞬く。重力の加護は――働かない。


「ぁ……ぐッ!」


 ヒット。脚を捉えた。これで被弾は二つ……いける。やれ。勝てっ!


「クッ……ぁ?」


 メアリスの弱点は、今まで攻撃を食らったことが無かったことだ。二度の被弾。精神の乱れが、目の前の脅威から目を離すという失着を犯した。

 続く発砲を食らったらまずいという意識が先行した。追撃を警戒して反射的に飛び退ったまでは良かったが、再度見下ろした先には闇が広がるのみ。


 消えた。夜の闇に溶けるように。

 死が夜の闇から出でて背後に立つ。月光を受けて煌めく刃は断頭台の如く。


「【死々羽織】」


 羽織……背後限定の瞬間移動、か。

 彼我の距離を瞬時に埋めたあっさん。剣が降る。取っ……!


「くぅ! っああああああッ!!」


 取れない! ここへ来ての反応速度! 鎌の柄で弾かれたッ……! あっさんがダメージを食らっていたのも痛い。今の一撃はいつものキレが無かった。


 宙を泳ぐあっさん。剣を弾かれたせいで溺れるようにゆっくりと回っている。

 晒された背中。首元。それは介錯を待つ罪人のようで――――


 死神の鎌が、閃く。


「終わり、だッ……!?」


 まだ。まだだ。まだ終わってない。

 肩越しに覗いた銃口。狙いに寸分の狂いなし。今度は足ではない。頭。即死だ。とれる。やれ。やれ!


「やれッ!」


「終わりだ!」


 鎌が振り抜かれるよりも早くマズルフラッシュが閃いた。

 当たった。頭に当たった。当たったのに……!


「ユーリ……っ!」


「……だから言ったでしょ。勝つのは、メアリスちゃんよ」


 カラスの着ぐるみ。

 メアリスは、この土壇場で、さっきあっさんが見せたインベントリ操作を模倣して見せた……。

 ユーリ手製の着ぐるみは、銃の直撃すら防ぎきる。僕はそれを身を以て経験している。


 負け、か。


「次は勝つ……殺れ」


「……フン」


 着ぐるみから黒衣に戻ったメアリスがあっさんの首を刎ねた。惜しいところまで行ったが、勝てなかった、か。


「きゃ〜! メアリスちゃん最強! メアリスちゃん最強!」


「リーダー……クソっ」


 爆発のような歓声が轟く。コロシアム内は興奮のるつぼだ。目まぐるしく移り変わる攻防を制したメアリスを称える声が多い。

 無秩序な咆哮はやがてメアリスコールへと変わる。会場が一体となり、熱に浮かされたように叫ぶ。声援に応えるようにメアリスが高度を下げて黒衣をバサリと翻した。鎌を一振りして言う。


「讃えろ。平臥せ。それが貴様らに許された権利だ」


 再度沸き上がるメアリスコール。心胆まで震わせる歓声。隣のモブ共もちゃっかりメアリスコールに参加している。僕はインベントリから花火玉を取り出した。放り投げて言う。


「やれ」


「あはっ」


 ギュンと飛び出す影が一つ。【踏み込み】と【空間跳躍】を駆使した影が暴君の玉座へと登り詰める。ファンサービスなんぞをして背中を晒していたメアリスが今更気付いて反応したが、もう遅い。


「待ッ!」


 闇を祓えと華が咲く。瞼に焼き付く光がコロシアムを満たす。波のように爆音が駆け抜け、余韻が心地よく肌を撫でる。メアリスは死んだ。

 初お披露目になるね。これが僕の夢の初期構想、人力打ち上げ花火だ。シリアも死んだ。


 シンと静まり返った会場の中を歩み出る。欄干に足を掛け、【踏み込み】を使用して舞台へ飛び降りる。コケた。すっくと起き上がり、服に付着した汚れをぱっぱと払って言う。


「最強だろうと、闇魔法の使い手だろうと敵じゃない。そう、火薬師ならね」


 最強を一方的に葬れる火薬師が最強ってことでいいんじゃないかな? 僕は衆目に見せ付けるようににこやかな笑顔を浮かべた。

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― 新着の感想 ―
このゲームにしては珍しくお行儀良く戦ってたというわけだ
やっぱりあたおかライカン
今までも散々出てた、シリアが油断して敵を堕とす行為。
感想一覧
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