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血の花火大会事件

「たーまやー!」


「かーぎやー!」


 わりと狂った思考回路をしている『検証勢』メンバーたちが軽いノリで小型爆弾を投下していく。半壊しながらも一命を取り留めていた建物がトドメの一発を受けてポリゴンに変わる。

 メアリスの操る闇魔法の力を借りた空からの爆撃。それが民度浄化作戦の総仕上げだ。


 上空から見渡す街は随分と小ざっぱりしていた。盤の目状に整地されていた南区も、雑多に入り組んでいた北区も等しく更地になっている。

 唯一、『花園』のギルドハウスである城だけが変わらずその偉容を誇っていた。明日からのヘイトすごいだろうな、あの城。


「メアリスさんあっち、あそこまだ建物残ってるから方向転換お願いします!」


(かしま)しい奴らだ。少し黙れ」


 僕らは今メアリスの闇魔法の力を受けて空を飛んでいる。飛んでいる、というよりは浮いているといったほうが近いが、それなりにスピードは出ている。やっぱ闇魔法のほうが便利だろ。


あっちへ行けこっちへ行けと指図され、メアリスは不機嫌そうに吐き捨てながらも言われた通りに進路変更した。優しい。


 十棟ほど固まって残っていた家屋に中型爆弾を投下して吹き飛ばす。どうやら中に誰か残っていたらしく、赤いポリゴンも混じっていた。かわいそうに。


「ふむ……。あらかた終わったな。機能解放は無し、か」


 街の九割というより九・五割ほどを爆破したが機能解放のアナウンスが流れることはなかった。正直、街を壊して解放される機能ってろくでもなさそうだしこれで良かったんじゃないかと思う。


「やはり壊す順番が大事だったのでは?」


「ああ。それだけが本当に心残りだな。壊す順番さえ守っていれば……」


 街を壊す順番って何だよ。そんなにこだわるところなのか。さっぱり分からん。


 侃々諤々の議論を交わす白衣の狂人集団を尻目に、眼下で降りてこいと騒がしく吠えてる廃人&『ケーサツ』連合へと中型爆弾を投下して黙らせる。目測六十人ほどがポリゴンとなって爆散した。


 ……ん? おや、これは――


「もしくは……主要な建物は全て壊す必要があるのでは?」


「食物連鎖所有の大型倉庫、ケーサツ所有の大洋館、見張り尖塔、あとは……やはり城ですかね」


「ユーリ嬢、どうか城を爆破する許可を!」


「ダメって言ってるでしょ! 私の子たちを危険に晒すわけにはいかないの!」


「そこをなんとか!」


「このまま終わりでは口惜しくて今夜眠れませんよ!」


「知らなーい。あんまりしつこいと……二日ほどログインできなくなっちゃうよ?」


 しつこい『検証勢』に対してユーリ渾身の脅しが炸裂した。セクハラペナルティの押し付けという反則技をチラつかされ、彼らはとても悲しそうな顔をして引き下がった。

 好奇心を満たさずにはいられない彼らにとっては飯を取り上げられるような仕打ちなのだろう。とんでもない集団だ。


「やむなし。城の爆破は……諦めよう。新機能は得られなかったが、得難いサンプルを得た。それで良しとしようではないか」


 いつの間にか目的がすり替わってるよ。今回の作戦の目的は民度の向上だっての。


 改めて街を見下ろす。風通しが良くなった街中は悪が根を下ろす場所は無い。これで虐げられる新規や復帰勢はいなくなるだろう。実にいい仕事をした。僕は一人で大きく頷いた。


 僕たちの間に和やかながらも物寂しい解散ムードが漂い始めた。ろくなイベントもないこのゲーム、内容はどうであれプレイヤーが団結して何かを為すのは珍しいので盛り上がるのだ。


 ユーリとヨミさんらがわいわいと健闘を称え合う。

 キャラクターの都合上、輪に混ざらずに腕組をして傍観していたメアリスがフンと鼻を鳴らして水を差した。


「まだ掛かるのか? 我はそろそろ帰還するぞ」


「あ、待って。僕は最後に城に寄っていきたいから連れてってくれない?」


 メアリスがログアウトしそうだったので僕は慌てて声を掛けた。

 僕の言葉を聞いた『検証勢』のメンバーがすごい勢いで振り返り、キラキラとした期待の眼差しを送ってくる。一方ユーリは先程まで共闘した仲とは思えないほどの底冷えするような視線を向けてきた。なんなのさ。


「…………一応聞くけど、どうして、いま、この流れで城に行くなんて言い出したの?」


 ユーリが絞り出したのはまるで地獄の底から響くような声。酷いもんだ。まるで信頼されてない。

 どうして。どうして、ね。そんなの、決まってるじゃないか。


「ほら、城に残って撮影してくれてた人がいたでしょ? 損な役回りをさせちゃったお詫びとお礼を直接言わないといけないし、動画を後で見返そうにも、僕は彼女の動画投稿サイトのアカウントを知らないから聞きに行こうと思ってね」


「……詫びとお礼は私が言っておくし、アカウントは……後で教えるわ」


「後で教える? どうやって? 僕はもう引退するし、リアルの連絡先は死んでも漏らさないよ?」


「……明日以降、また時間を見つけてログインして。その時に教えるから」


「それは引退詐欺になっちゃうよ。そんなみっともない真似したくない」


 ユーリの冷ややかな視線が止まない。『検証勢』が僕らのやり取りを固唾を飲んで見守っている。まったく、君達がそんな物々しい雰囲気出すからユーリがこんな聞き分けのないことを言い出すんだよ。僕は理路整然と弁明することにした。


「うーん、もしかして……疑われてる? あれだけ大きい城を壊すには大型爆弾が必要だけど、僕はもう大型爆弾なんて持ってないよ?」


「そんなこと言いながら隠し持ってるのがあなたっていう存在なのよ」


「いや僕をなんだと思ってるのさ。仮に持ってたらあっさんと相討ち覚悟で使ってたよ。嘘を付く意味が、まるでない」


「……本当に、何も、する気は無いのね?」


「僕の正義に誓おう」


 疑心暗鬼に囚われたユーリを安心させるように、僕は努めて柔らかな笑みを浮かべた。


 ▷


「これが私のアカウントです。花火、凄い迫力で見ててびっくりしちゃいました! 綺麗に撮れてるはずなんで楽しみにしてくださいね!」


「ああ、ありがとう。本当に助かったよ。そう言ってもらえると僕も頑張った甲斐がある」


 執拗に疑ってかかるユーリをなんとか説得し、僕は『花園』のギルドハウスへとやってきていた。録画担当のプレイヤーとの情報交換もつつがなく終わり、あとはもう、やることは一つだ。


「はいはい終わったなら帰った帰った」


「なんでそんな急に態度を変えるのさ。一緒に戦った仲だっていうのに。気分良く引退出来ないじゃん」


「そうですよマスター。わざわざお礼言いに来てくれたのに、失礼じゃないですか」


 喜ばしいことに録画担当の子が援護射撃を飛ばしてくれた。僕の記憶が確かなら、この子はゲームを始めたばかりで動くのが得意ではないので裏方に回ることになったはずだ。

 ギルドに入ってからまだ日が浅いので洗脳されていないのだろう。そのまま健やかでいてくれることを祈るばかりだ。


「な〜んか裏があるように思えてならないのよねぇ」


「もう、マスター!」


「ひどいなぁ。僕はお世話になった人への礼を欠いたことは無いよ」


 恩には恩で報いる。それが美しい人と人との付き合い方というものだ。


「そうだ。世話になったといえばメアリスだね。君が手助けしてくれなかったら今回の計画は成り立たなかったよ。何か礼が出来ればいいんだけど……」


「要らん。卿の企ての幇助は契約に含まれている」


「そういうことなら。まぁ、お礼は言っておくよ。ありがとうね」


「フン……」


「ちょっとぉ! メアリスちゃんに色目使うの禁止〜!」


 いきなり発情したユーリがメアリスに抱きつこうとして闇魔法で浮かされ、天井にぶつけられた後に地面に叩きつけられた。


「あぅ、ぶえっ」


「次に会うとき迄にその色情狂の症状を治しておけ」


「酷いなぁ、もう」


 メアリスがユーリを見下し、ユーリがふくれっ面になり、録画担当の子がクスクスと笑っている。

 なんだかんだでゆるい雰囲気になりつつある。どうやらこれで円満に引退できそうだな。

 と、そこで僕は思い出したように重要な話を切り出すことにした。


「そうだ、礼といえば検証勢の人達にも何かお礼をしなくちゃね」


 彼らとは既に別れている。ログアウトしたか、もしくは今しか出来ない作業やらで忙しく飛び回っていることだろう。

 僕の言葉が予想外だったのか、ユーリが目を丸くした。少し考えるような素振りを見せ、大して興味無いと言わんばかりの態度で言う。


「え〜そんな気を使う必要ないでしょ。最後にちょろっと出てきただけだし」


「そんなこと無いって。彼らが爆薬を分けてくれなければ不完全で終わってたし」


「ん〜。だとしても、あの人たちはやりたいようにやっただけだから別にいいんじゃない。お礼とか求めるガラでもないし、むしろ向こうがこっちを利用したって感じになってたし」


 なんということだ。まさか、ユーリは、力を貸してくれた彼らに感謝の気持ちすら持っていないというのか。

 酷いな。酷い仕打ちだよ、それは。恩を仇で返す。義理に不義理で返す。真っ当な人間のやることじゃない。僕は義憤を燃やした。


 開け放たれた窓へと歩みを進め、窓枠に両手を置き体重を預ける。硬質な感触が手のひらに返ってきた。

 城の最上階。星の光に照らされる街を見下ろしながら言った。


「滅ぼすべき悪が、まだ残っていたということかな……」


「は? 何を」


 僕はインベントリから中型爆弾を取り出した。いつでも起爆できるよう導火線に左手を添えてからゆっくりと振り向いた。


「……ふぅん、とうとう本性を現したってわけ」


「それはこっちのセリフだよ。共に戦った仲間を蔑ろにすることは、僕の正義が許さない」


 録画担当の子が尻餅をついて後ずさり、メアリスが得物を構え、ユーリが悪人に相応しい顔付きで僕を睨む。

 メアリスの弱点は閉所と屋内だ。鎌を振るうに充分なスペースがなく、天井があるので闇魔法の効果が及ぶ範囲が少ない。

 だからといって勝てる確率はゼロに近い。が、道連れには出来る。


「……で、あなたは私達をキルして、それで何になるの? メアリスちゃんのレベルは下がっちゃうけど、1レベル上げる程度メアリスちゃんにかかれば五分もかからないわ。私もこの子も白ネームだから被害は無い。今更そんな無駄骨を折って、満足なの?」


 満足? おかしなことを言う。僕は鼻で笑った。


「満足に決まってるだろう。悪の征伐は僕の本懐だ」


「下らんな。正義と独善を履き違えた狂人の、これが成れの果てか」


「……油断してたわ。なまじ話が通じてたから、今回は大丈夫だって。そうよね、あなたは元々理屈が通じるようなタマじゃない」


 メアリスが気色ばむ。今にも飛びかかってきそうな彼女を、ユーリがそっと手で制した。感情を押し込めるように目を瞑り、不機嫌な表情を一転させて不敵な表情を浮かべた。


「なら思う存分やりなさいな。私達はあなたの狂った行動に振り回されるなんてみっともない真似はしないわ。あなたは私達を爆破して、それで終わり。引退なりなんなりすれば?」


「ユーリ」


「いいの、メアリスちゃん。最期くらい、好きにさせましょ」


 こちらを憐れむような視線。それはせめてもの強がりか。まぁ、抵抗しないならこちらとしても都合がいい。最期の一花、咲かせて見せようじゃないか。


「往生際がいいんだね。じゃあ遠慮なく、好きにやらせてもらうよ。悪を滅ぼし、そして()()()()()()()()()、検証勢への礼としよう」


 この城を爆破するには大型爆弾が必要だ。嘘はついていない。

 僕はもう大型爆弾を所有していない。嘘はついていない。


 ただ、中型爆弾では城を破壊できないとは言っていない。


「【一世一代】」


 それは廃人達を中型爆弾で吹き飛ばしたときに舞い降りた天啓。

 それは火薬師レベル13で得た新スキル。

 それは48時間に一度だけ使用でき、指定した爆弾の威力を5倍にするという夢のようなスキル。


 こんな面白いスキルを試さないまま引退だって? 冗談じゃないよ。ちょうどいいから実験台になってもらおう。


「……癇癪玉ッ!」


 ユーリが叫ぶ。メアリスが飛び出す。


 だがもう遅い。悪党には祈る(いとま)すら与えない。


 僕は高らかに指を打ち鳴らした。


 極光。狂熱。轟音。世界を撹拌するそれらが、悪の征伐を成す正義の存在を高らかに主張する。世に混沌を解き放ち、味方ですら使い潰す悪の枢軸の拠点はここに散った。


 全壊した城がポリゴンとなって消えていく。踏みしめていた足場が消え、心地よい浮遊感と光の粒の奔流に全身が飲み込まれる。ああ、ああ、なんて――心地良い。


「くはっ、ははっ! あっははははははははははははははははははははははははは!!」


 New Generate Online。規律も法も無い世界では人の業が悲しいほどに浮き彫りにされ、自由の解釈を履き違えた不法者の引き起こす悲劇の連鎖は留まるところを知らない。


 そんな世界で、僕は正義を掲げ続けた。誰にも理解されずとも。これが僕の生き様、その集大成だ。


 僕は――僕が正義だ。

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― 新着の感想 ―
これで犯罪を犯してない方がおかしい                   QED・証明完了
[一言] はいはい正義正義
[良い点] ガチでリアルで犯罪者してるとしか思えん… [一言] めちゃくちゃ面白いです!
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