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誰が為の仮想現実

「抑えるべき要点は北西区画のレッドネーム達の溜まり場じゃないかしら。戦闘職複数人を派遣して確実に爆破するべきよ」


「それならケーサツが展開してる東通りには純生産職であまり動くのが得意でない人を送りましょうか。いきなり撃たれる心配はないでしょうし」


「街中に人員を等間隔に配置しても、この人数だとどうしても全域を破壊するには至らないね。動くのが得意な人は複数回爆破して回る必要があるかな」


「西側には動くものを見たら発砲しなくては気がすまないお猿さんが沢山いるからタイミングを合わせるのは難しそうですわね」


「それなら事前に空き家を自宅登録しておいて、決行時にログイン即爆破でなんとか対策出来ませんかね」


「私達が大勢で出歩いたら怪しまれそう。どうカモフラージュする?」


「爆薬を欲してるフリをしましょう」


「採用」


「ギルドスレにそれらしい細工しておきますね」


「いいね。手伝うよ」


「SNSにも細工しておく?」


「いや、そこまで露骨だと逆に疑われかねない。ギルドスレを覗いて回ってる趣味の悪い情報屋気取りにそれとなく流しておくことでぼんやりと誤解させるくらいがいいと思う」


「おっけ」


 頭おかしいシリアの提案から少し。僕らは場所を謁見の間から会議室へと移し、民度浄化計画の細部を煮詰めていた。


 唐突にやる気マックスになった『花園』プレイヤー達が、長机に広げた街の地図を囲んであーでもないこーでもないと議論を交わしていた。

 大型爆弾の爆発範囲から割り出した最適なポジション取りや、個人の得手不得手を勘案したフォーメーションを組み上げている。


 三人寄れば文殊の知恵というが、これだけ集まると次から次へと案が飛び出し、適宜改良選別されて全体の計画に組み込まれていく。

 疑惑の種を潰すための盤外戦術まで行う徹底ぶりに頭が下がる。ていうか君たちガチすぎない?


 計画の要となる大型爆弾、及び花火弾を『花園』プレイヤーに配布しながら議論の内容を聞いていたが……僕の想像の三倍くらい気合が入っている。


 僕は人数を活かした自爆特攻をしてくれればそれで上々だと思っていたのだが、どうやら『花園』プレイヤー達は完璧主義の集まりらしい。どうあってもこの作戦を成功させたいようだ。


「んー。思った通り、ライちゃんの引退はキいたねぇー。みんなのやる気がちがうよぉ」


「そうだね。僕の引退を華々しく飾るためにこんな奮起してくれるなんて、みんな優しいなぁ」


 シリアは僕が引退すれば被害を受けなくなるなどと狂人由来の戯言を交渉材料にしていたが、『花園』プレイヤーがそんな理由で動いた訳ではないと僕はきちんと理解している。


 ネトゲの引退は、現実に例えると死だ。

 本来の死という現象を超克したプレイヤー達は、ならばいつ死ぬのかというとそれは飽きや別ゲーへの移住、環境の変化などによってそのゲームから離れ、二度と戻ってこなくなるその時である。


 僕は引退を、死を決意し、最期の大仕事として民度の浄化を選んだ。その正義の心に強く惹かれた『花園』プレイヤー達は、こうして知恵と力を振り絞って作戦の穴を埋め、より確実な成果を結実させるべく動いてくれている。

 人を動かすのは負の感情じゃない。正義だ。


「まったく、僕の人望も捨てたもんじゃないな」


「ライちゃんってさ、現実(リアル)で犯罪者だったりしないよね?」


「もういいよその冗談」


 働くことなくぷらぷらしているシリアを尻目に、僕はせっせと爆弾を配布していく。

 大型爆弾が作成できるようになってからコツコツと貯めてきた在庫が無くなっていく。それが引退へのカウントダウンのようで少しばかり物悲しい。


 心地よく感傷に浸っていたところ、爆弾を手渡したプレイヤーから不躾な割り込みが入った。シラギクだった。


「引退などと軽々しく言ってますけれど、本気なのでしょうね? ここまで協力させておいて嘘だったら見損ないますわよ?」


 やたら絡んでくるなこの子。それにしても本気、本気ときたか。


「シラギクのぺらっぺらなロールプレイに比べたら百倍は本気だよ」


「あなたはッ! 人を煽らなければ生きていけないの!?」


「ほらそういうとこ。たおやかにいこうよ、お嬢様?」


 キーッ! とか言い出しそうな表情をしているシラギクに向けて僕は努めて柔らかな笑顔を浮かべた。こうやるんだよ。


「その! 口の端を歪めた悪人ヅラを! やめなさいッ!」


 どうやら僕のことが気に入らないシラギクは、人の笑顔まで受け入れられないらしい。坊主憎けりゃ袈裟まで憎いというが、これほどとは。僕は処置なしとばかりに肩を竦めた。


「あんまり私のかわいい子達をいじめないでほしいなぁ〜。こっちはいつでも手を引いてもいいんだよ?」


 騒ぎを聞きつけてやってきたユーリが、いじめなどとありもしないことをでっち上げて協力の取り下げをチラつかせてきた。

 背後からシラギクにひしと抱きつき、片手を腹に回して五指で弄り、空いた片手で鎖骨のあたりに手を這わせている。顔は首筋に埋めた変態スタイルだ。そりゃ悪い噂も流れるよ。


 抱きすくめられたシラギクはしゅんと大人しくなり、艶のある声を漏らしながら身をよじっている。いじめてるのはどっちなんだよっていうね。


「どうでもいいけど、よくセクハラペナルティに引っ掛からないね」


「花を愛でる気持ちに下心なんてあるわけないもの。当然でしょ〜? ペナルティならあなただって受けてないじゃない」


「悪を誅する正義の心がシステムに認められてるだけだよ」


「どっちも頭おかしいってことでいいんじゃないかなー?」


 頭おかしいプレイヤー筆頭がなんか言っていたが僕とユーリはお互いに無視した。ツッコんだら負けというやつだろう。

 協力体制を築くに至ってなお険しい視線を寄越すユーリは、シラギクのドリルヘアーの毛先を弄びながら言った。


「私達があなたの引退を信じきれていないのは確かなのよね〜。目的が達成できなくなったから、なんてふわっとした理由だけじゃ不安にもなるのよ。よければ詳しく聞かせてもらえない?」


 まだ信じてくれてないのか。まったく、人間不信だなぁ。

 僕は辞める。このゲームでやりたかったことが不可能になったから、辞める。実に合理的でなにもおかしいところはない。

 だけど、まぁ、説明不足ではあったかもしれない。僕は引退の理由を詳らかにすることにした。


「僕がこのゲームをやってる理由はね、満天の花火を見たかったからなんだ」


 昔の話だ。子供の頃に見た闇のように暗い空を照らして咲く花々の美しさを、僕は今の今まで忘れたことがない。

 瞼に焼き付く光も、心胆を震わせるような衝撃も、尾を引くような残光も、全て脳裏に刻まれている。


 数十分にわたる光と音の乱舞。呼吸すら忘れるような光景に、僕は魅了されたのだ。


 いつか一人でじっくりと、雑音のない世界で、心ゆくまでその光景を眺めていたい。浸っていたい。そんな夢は、時代の変遷に従って不可能なものになっていった。


 環境問題。後継者の不足。騒音だという声。あらゆる諸問題が、無形の文化を衰退へと追いやっていった。ARと骨伝導を活かした花火モドキが開発されたものの、本物の光景には遠く、遠く及ばない。


 そこで僕はNGOに希望を見出した。


 現実と遜色ないリアリティは、爆発が生む光も音の余波も完璧に再現してみせた。

 プレイヤーの腹を掻っ捌いても出るのはポリゴンだけである。しかし、爆発の衝撃はまるで臓器がそこに存在し、衝撃で震えるかのような感覚まで再現してみせた。


 まるで理解の及ばない超技術が惜しむことなく注ぎ込まれた結果、そこに可能性が生まれた。幼き日に見た夢が、叶うことなく潰えた夢が、満開の花を咲かせる可能性だ。


 爆発は、芸術だ。


 僕は、あらゆる全てを創れるこの世界で、夢の続きを創ることにしたのだ。


 だが、今は。

 必要不可欠な爆薬が下らない殺し合いに浪費され、供給の目処が立たない。空に輝く極彩色の一部になるはずだったそれは、人を害するマズルフラッシュに貶められた。僕にはそれが耐え難い可能性の蹂躙に見えて仕方がない。


 ならばどうすればいいか。自分で採掘する? 否。僕は僕の能力の低さを知っている。とても現実的とは思えない。


 だったら、せめて、花火のように潔く散ろうではないか。

 今に至るまでに積み上げてきた全てを解放し、僕の夢の軌跡を見せつけるのだ。不完全な形になるのは悲しいが、それもまた夢の儚さだ。


 願わくば、この一件が人々の脳裏に鮮明な体験として刻まれんことを。


 僕は、僕の夢を此処に供養する。此れをもって引退とする。


「これが……僕の偽らざる本心だ」


 いつの間にか交わされていた議論は止んでおり、部屋の注目を一身に集めていた。なにやら唖然とした表情をしている者が多い。もしかしてバカにされてるのだろうか。

 だが恥じ入ることはない。恥じる理由がない。


 睨むような視線を崩さずに話を聞いていたユーリが、僕の主張を吟味するように目を閉じた。たっぷり五秒ほどの間をおいて口を開く。


「嘘は、ついてないみたいね」


「そりゃそうだけど、分かるもんなの?」


「分かるよ。それこそ、一目瞭然。……はあ〜。そこまで聞かされたら、協力してあげるわ〜。絆されちゃった子達もいるみたいだし」


 そう呟いたユーリは今の今まで抱きすくめていたシラギクから離れると、ひらひらと手を振って会議を再開させた。


「ポジションが決まったなら予想される妨害について対策しちゃいましょ〜。先駆の廃人達が目下の不穏分子ね〜。あっさんを足止めできそうな子はいる? 複数人でもいいわ〜。足さえ止めてくれれば私がトドメを刺せる」


 ユーリが仕切りだしたことにより再度会議が回り始めた。未だにこちらをチラチラと伺う者は多いが、心なしか険が取れている気がする。

 まあ、少しでも彼女たちが前向きになってくれたなら秘めた夢を語った甲斐もあるというものだ。うんうんと頷いていると、肩をちょいちょいと叩かれた。シリアだ。


 いかれた女は僕の耳元へ顔を近づけ、他のプレイヤーに聞こえぬように小声で囁いた。


「なんかいい話ふうに言いくるめてみせたけど、やろうとしてることって大量殺人と大規模テロだよね」


 人聞きの悪い事を言うのはよしなさい。浄化計画と言うんだよ。

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― 新着の感想 ―
シリアはいちいちこわいのよ…
レベル20で花火作製かぁ〜?
[一言] サイコパスここに極まれり
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